マルチリンガル医師のよもやま話

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『集団免疫』の真実

インドからのデルタ株はすさまじい勢いで世界で広がっております。日本も例外にあらず。東京オリンピック開催直前ですが感染再拡大に襲われております。

今回は『集団免疫』についてまとめておきましょう。

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集団免疫は人助け

集団免疫は英語ではherd immunityと呼ばれます。herdは家畜の群れと言う意味ですね。「ヒトは家畜か!」と言われるかもしれません(笑)

もともと、100年ほど前にネズミを用いた研究*1からわかったことなので herd という言葉が使われた過去があります。

さて、ところでこの『集団免疫』というのは誰が得するものかってご存知ですか?私たちみんなでしょうか?

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集団免疫とは

実は、その感染症に免疫を持たない人を保護するものなんですね。

世の中には免疫が弱い人や、AIDS、白血病、免疫抑制剤を飲んでいる人や、ワクチンが打てない人などもいるわけです。そういった人たちを守ってあげる、これが集団免疫の根本なんです。

なかなか素敵な言葉なんです~

再生産数

この集団免疫の効果を知るためには、再生産数が重要となってきます。

そうです、一人の感染者が何人に感染を移すのかというアレです。もう一度復習しておきましょう。

まず新しい感染症が出てきて、それに免疫がある人が周りにいない状態での再生産数を基本再生産数(R0)と呼びます。麻疹なんかはR0=12~18とものすごい感染力ですね。

インフルエンザがR0は2~3で、新型コロナウイルスも初期のころに2.5くらいではないかとドイツからの報告をもとにしていました。

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再生産数について

感染症が広がると、国々は対策を取ります。マスク着用、手洗い、ロックダウンなどがそうです。開発ができれば、ワクチンもここに含まれます。

このように何かしらの対策などがなされた状態の下での”一時点”での感染拡大の指標実効再生産数(Rt)と呼びます。

普段、見ているのはこの実効再生産数の方ですね。これが下がってきてずっと1以下をキープしていれば、「今回の第○波はそろそろ落ち着くな」とわかるわけです。

8割おじさん

新型コロナの初期に8割おじさんが登場したわけですが、あの ”人の接触8割減” というのも再生産数と関係しています。

実効再生産数(Rt)は基本再整数(R0)に一定の対策をして感染リスクを減らす係数 s をかけたものになります。そしてこのRtが1を下回っていればいいのでしたね。

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収束に向けた計算

R0=2.5で計算すると完全に落ち着かせるためには、感染者数+ワクチン接種済の人が6割以上になればいいのです。ならば、6割以上の人がワクチン接種で集団免疫ということになります。

当初はワクチンなんてないので、できるまでの間は人の接触を抑えてワクチンを待つという考えで、同じ計算式から 6割以上の接触減が必要で、余裕をもって『8割減』となったのでした。

国民の6割接種?

2021年2月から開始した日本でのワクチン接種ですが、当初の予定以上に順調に進んでおります。

では、日本も人口の6割まで接種が進めば、集団免疫に達して、収束に向かうのでしょうか?答えは恐らくNOです。

先に進んだイスラエルやアメリカやイギリスを見ても、人口の6割を超えたところから接種率が伸び悩んでいます。さらに、これらの地域でまた大きな感染の波が起こっています。

なぜでしょうか?

デルタ株の感染力

今、世界を席巻しているインド由来のデルタ株は、感染力が非常に強いのです。

イギリスの報告ではデルタ株の再生産数は最大7くらいだと言われています。

他の報告では、従来株(武漢株)の1.95倍*2とも試算されています。

ということはですよ、仮に武漢株がR0=2.5とすると、デルタ株の再生産数は 2.5×1.95=4.875 でほぼ5です。

では、この5という数字でもう一度計算してみましょう。

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デルタ株の集団免疫まで

すると、8割以上の人が感染かワクチン接種で抗体を持てば集団免疫に達するということになります。

つまりワクチン接種で6割までいっても感染が収まらない外国の状況は、デルタ株の感染力を考慮すれば何ら不思議ではないのです。8割に達するまで人が感染するか、ワクチンを打つかということですね。

コロナ情報アップデート

www.multilingual-doctor.com

収束前に『弱毒化』?

よくこんな話を聞きますね。ウイルスは最後は弱毒化して感染が終わる。

これは正確には間違いで、ウイルスは細菌などのように生きてないのです。遺伝子だけなのです。なので、自分の意図で弱毒化するわけではありません。

自然淘汰です。強すぎて人を殺しまくるウイルスは、宿主のヒトが死んでしまうと他の人に感染できず広がりにくいからです。それよりかは、変異して致死率のあまり高くないウイルスが勢力を持つようになります。

デルタ株は感染力が強く、広がりやすいです。ワクチンのおかげで、感染が広がっても高齢者など、重症化リスクの高い人たちが守られて死者が少ないです。

イギリスが現在1日に5万人を超える感染拡大のさなか、コロナに対する規制を撤廃することにしたのはそのためです。死者が少ない状態で感染を広げ、ワクチンと合わせて集団免疫に向かうということでしょう。

逆に日本のように『さざ波』国では、集団免疫はかなり長引くことが想像できます。

明日のことは誰にもわかりません。とにかく、最低限の感染症対策を続けながら、重症化リスクの高い人の接種を黙々と進めて、被害を最小限にしつつ、どこかで折り合いをつけて、with コロナの社会になるしかなさそうです。

ワクチンが効かない?

イスラエルの報告で、デルタ株に対して、ファイザーワクチンの効果が想定していたより大幅に効果が落ちるというものもありました。

しかし、重要なことは前提条件が違っていることも知る必要があります。

以前は少し効果は落ちるが、デルタ株にも有効性は90%弱あると言われてましたね。

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ワクチンの前提が違う

6月にコロナによる規制をすべて撤廃したイスラエルではデルタ株の流入とともに感染がまた拡大しています。上図で明らかなとおり、国全体の感染対策を取った状況での95%だったと考えると、制のない状況ではいまの65%程度で当たり前なのかもしれません。

これは、すぐには判断できませんので、もう少し時間がたたないと何とも言えません。

尚、イスラエルやロサンゼルスではマスク着用が再び義務化されました。

さいごに

いかがでしたか。

集団免疫と言う言葉をよく耳にしたと思います。

しかし、本当の意味は、自分たちを守るというよりは、感染症弱者を守ってあげるという目的があります。

ワクチンによる集団免疫と言うのは、自分がリスクが高い人は自発的に打ちますが、若くて健康な人たちはあまりメリットを感じず「俺は別にいいや」ってなってしまいます。これは世界的にそうです。

フランスではワクチン接種の義務化を打ち出しました。

『個人の自由』か『全体の利益』か、パンデミックはもはや医療だけの問題ではありません。

 

では、また(^.^)ノ