9月から学校が始まることで、子供たちでの感染とその家族への拡大が非常に懸念されています。デルタ株の感染予防にはどうすればいいのでしょうか。
しっかりとした認識をもって不安を解消しましょう。
デルタ株の感染力
今までの武漢株やアルファ株(英国由来)と違って、今世界を席巻しているデルタ株(インド由来)は何が違うのでしょうか。サラッと確認しましょう。
よく「デルタ株は感染力が強い」と聞きますね。
ウイルスが我々の体の中に入り込むには、受容体とよばれるドアのカギを開けて入り込みます。ウイルスによってその入口のドアは違います。
子供のうちはドアの数が少なく*1、年を取ると増えます。また喫煙者はドアの数が多い*2こともわかっています。ドアが多いとウイルスが侵入しやすいです。
また、カギがうまく合えば侵入できるわけですが、デルタ株はその能力が高いこともわかっています。これらからデルタ株の感染力は従来株の2倍と言われています。
増殖能が高い
さらに、デルタ株は感染した人の細胞の中での増殖能力が高いことです。既存株と比較して、感染者からのウイルス排出量は1200倍*3とウイルスの増殖速度が極めて早いこともわかっています。
ということは、感染した人が出すウイルス量が非常に多い上に、ドアである受容体への結びつきも高いので感染が広がりやすいということです。
受容体の数が少なく、今までは感染しにくいとされてきた子供たちも、デルタ株により感染が増えているのはこれらの要素があるのです。
ワクチンの効果
ワクチンの有効率というのは、接種群と非接種群で”発症する”人数の割合の差を比較したものです。従来株ではファイザー・モデルナともに約95%の有効率でした。
デルタ株での有効率は約65~85%と低下(国により報告に差)しています。ただし、報告のある国ではマスクやソーシャルディスタンスを一気に撤廃したこともあり、その影響も考慮しなければなりません。
また、2回目接種後6~8ヶ月で抗体価が下がり始め、予防効果が落ちることも指摘されており、英国からの最新の報告では、接種完了後3ヶ月頃から段々と有効率が下がり始める*4という結果も出ています。
▼デルタ株とワクチン効果▼
しかし、重要なことに、発症抑制は少し低下しても、重症化抑制は依然90%以上を維持していることです。
集団免疫は無理?
従来株では集団免疫に必要な接種率は60%程度とよく言われていました。
しかし、デルタ株の他人への感染力は従来株の1.9倍以上*5とされますので、基本再生産数を5として計算してみましょう。
すると、デルタ株では集団免疫を得るには8割以上の接種(or 感染)が必要となります。
日本で接種可能年齢は12歳以上(人口の約90%)*6なので、これらのうち最低でも9割が接種しなければ集団免疫は得られません。まず無理でしょうね。
誰に不利益?
ところで、集団免疫はその感染症に免疫を持たない人を保護するためのものです。
つまり、新型コロナにおいては、ワクチンが打てない人を守るためのものです。では、デルタ株で集団免疫が期待できない場合、誰が困るのか?
当然、ワクチンを打っていない人たちですね。
デルタ株では、ウイルス増殖能がすごいため、ワクチン接種済みで感染(ブレイクスルー感染)する人が増えており、排出するウイルス量は未接種の感染者と変わらないとも報告*7されています。つまり、ブレイクスルー感染でも他人を感染させうるわけです。
すると、上図のような意見を言う人もいます。木だけ見て森が見えていません。
▼集団免疫の真実▼
ブレイクスルーはまれ
CDCの情報ではブレイクスルー感染自体がまれ*8です。ブレイクスルー感染して重症化or死亡は0.001%という報告*9もあります。
▼CDCコロナ最新情報▼
例えばアメリカのサラソタ記念病院*10は接種・非接種で分けてコロナ患者の情報をFacebookで紹介しています。見てみると、重症患者はほぼ未接種ですね。
ですので、ワクチンは自分の命を守る上に、まれにブレイクスルー感染があるとしても、周りの人に移す可能性も下げることができるのです。
先ほども書いた通り、集団免疫が期待できないとなると、ワクチンを打っていない人たちの”保護効果”が期待できないということです。心配なのは子供ですね。
実際、アメリカでは子供のコロナ入院が急増*11しています。
ワクチンの対象でない子供たちをいかに守るか。それは感染リスクを避けることです。
感染経路不明
去年からずっとですが、感染経路不明の人が多いんです。日本では、陽性者の携帯のGPS履歴から場所を特定したり、誰といたかを特定することはできないので、自己申告に頼るしかないからです。
今回紹介するのは東京にある国立国際医療研究センターの最新の論文*12です。いわゆる経路不明感染者への聞き取り調査から見えてきた事実をまとめたものです。
分かりやすく言えば ”YOUは何処で罹ったの?”ってことですね。
この研究の時期的にデルタ株より前ですし、感染経路不明者22名のみを扱った小規模の報告ですが、ある程度の参考にはなります。
要は、感染経路不明とされてきた人を調べると、結局ほぼ飲食店でのノーマスクにつながったという結果でした。
また、これらの人たちは「いつもの職場のメンバーだから大丈夫と思った」とか「外食がリスクと知らなかった」という発言が多く、感染リスクの知識の欠如と意識不足が感染に至らしめたわけです。
未接種者を守る
それでは、未接種の人たちや接種対象でない子供を守るにはどうすればいいのでしょうか?まず、周囲の大人がワクチンを打つことで、子供たちなどへ移す可能性を減らすことです。
あとは、特に子供たちへの啓蒙です。こういう状況では感染が起こりやすい、こうしなければいけないということをしっかりと教えるしかありません。
さきほどの論文で、特に新たな感染リスクが分かったわけではありません。つまり、予防の対策は今までと変わりません。
あまりに不安にならずに今までやってきた感染対策を引き続きやることです。そして、子供たちにも何度も感染リスクの高い場所や行動を教え込むことが重要です。
では、また(^.^)ノ
*1:https://www.jpeds.com/article/S0022-3476(20)31023-4/fulltext
*2:http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/essay/Covid-19%26Tobacco.pdf
*3:Li B, Deng A, et al. Viral infection and transmission in a large well-traced outbreak caused by the Delta SARS-CoV-2 variant. medRxiv. Published online July 12, 2021:2021.07.07.21260122
*4:https://www.euronews.com/next/2021/08/19/covid-vaccines-are-less-effective-against-the-delta-variant-after-90-days-a-new-study-find
*5:https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210625a.html
*6:https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001000000/16
*7:https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7031e2.htm
*8:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/effectiveness/why-measure-effectiveness/breakthrough-cases.html
*9:https://edition.cnn.com/2021/07/31/health/fully-vaccinated-people-breakthrough-hospitalization-death/index.html
*11:https://www.wsj.com/articles/more-kids-are-hospitalized-with-covid-19-and-doctors-fear-it-will-get-worse-11629624602
*12:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ghm/advpub/0/advpub_2021.01092/_article