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【サク読み】”ブレイクスルー感染急増”について

8月25日付のロイター通信の報道で、米・ロサンゼルスの感染者の25%がワクチン接種済みで、ブレイクスルー感染が増加しているという記事がありますね。

今回はこれについて考えてみましょう。

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有効率とブレイクスルー

ブレイクスルー感染はまれですが、必ず起こります。

まずはしっかり基本から確認しましょう。

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ワクチンの有効率とは

ワクチンの有効率と言うのは、接種した人たちと接種していない人たちを同じ人数で比較して、ワクチン接種によりどのくらいの人が感染(有症状で陽性)を免れたかというものです。

上図で接種群で感染した緑色の人たちがブレイクスルー感染と定義されます。

つまり、ワクチンの有効率が100%でないので、必ずブレイクスルー感染は起こるわけです。

有効率95%ならば?

ファイザーワクチンは従来株では有効率95%と言われていましたね。ならば、ブレイクスルー感染発生は5%発生??でしょうか。

答えはNOです。詳しく見てみましょう。

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有効率が95%なら・・・

例えば、有効率95%の状況を上の図のように仮定しましょう。

接種群、非接種群ともに1万人を比較し、感染者数がそれぞれ5人と100人ならば、計算から有効率は95%となります。

ブレイクスルー感染率というのは、接種した人のうち感染した人の割合ですから、1万人で割るのです。となると、ブレイクスルー感染はこの例の場合0.05%になるわけです。

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これらは全く別物

これ、計算式見ればすぐわかりますが、全然別モノなんですね。

上側の計算では当然高くなるし、ワクチン接種が進めば接種の割合が増えるからさらに高くなるんです。だから、ブレイクスルーの話をするなら下の計算でしなけりゃ無意味です。

ワクチン接種が進むと

ワクチン接種が進む国では、ブレイクスルー感染が増えるのは当たり前ですね。接種者の方が多いんですから。

さらに、デルタ株で、ワクチンの有効率が下がっているのでブレイクスルーを起こす可能性も上がっています。

デルタ株について

www.multilingual-doctor.com

そして、特にイスラエルやアメリカのように成人の8割ほどがワクチン接種済みの国の話を見るときに非常に重要なことがあります。それは、接種した人が圧倒的に多いことです。

当たり前なのですが、結構そこを無視して(意図的?)「ワクチンのせいで感染が増えている」とかいう人もいます。

さて、この認識をしたところで、ロサンゼルスの報告を見直しましょう。

ロサンゼルスの感染

ロイター通信の8月24日付の記事*1で、ロサンゼルスでブレイクスルー感染が増えていると。

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LAでブレイクスルー感染増加

さて、何も考えずにこれを読むとブレイクスルー感染が25%の割合で起こると感じ、「ワクチン効いてないじゃん」になっても仕方ありません。

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感染者の内訳

内訳は上図のようになっており、ブレイクスルー感染はたしかに全感染の25%を占めていますね。

さて、では、この数字を”ちゃんと”理解してみましょう。

状況の整理から

アメリカでも12歳以上がワクチン接種対象となっています。

ロサンゼルスでは接種対象者のうち約64%が接種完了*2しています。

で、先ほどのデータの最後が7月末でしたね。その時期で計算すると、ザックリと約60%が接種完了となります。

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きちんと整理しましょう

ここで、本題を簡潔に整理しましょう。2回接種を終え2週間以上経過した、”接種完了者”が6割、未完了が4割です。これが本当に重要です!

そして、今回のニュースは感染者の25%が接種完了者だということですね。

意外な事実が

さて、これらの点をふまえて、もう一度見てみましょう。こういうときに図を描くとわかりやすいです。

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図にすると理解しやすい

接種群と非接種群は3:2となるように、接種完了群が30個、未完了群を20個として図示しています。

そして感染者の25%(1/4)がブレイクスルー感染でしたね。なので感染者(赤球)は、接種完了群で1つ、未完了群で3つとしています。

すると、それぞれの群内での感染率は、この例では3.3%と15%と約5倍の差となっています。そして、有効率を計算すると77.7%ということになります。

ワクチンがよく効いているということです。

でも、それって母集団の大きさを変えたら違うんじゃね?と思うかもしれません。

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母集団の大きさを変えてみる

それでは、それぞれの群を10倍にして300と200にしてみましょう。すると、当然分母が増えるので、両群で感染率はそれぞれ1/10になります。しかし、ワクチンの有効率は同じく77.7%です。ここは変わりません。

つまり、ワクチンはよく効いているということです。

まとめ

ワクチン接種が進むと、「接種完了者の感染が急増」とかあたかもワクチンが効かないような記事が溢れてきます。

しかし、それはワクチン接種者の割合が未接種or未完了の割合よりも多くなれば当然です。ちゃんと計算すればワクチンが効いていることもわかりますね。

海外の病院ではワクチンの接種済と未接種に分けて入院患者の状況や重症者の状況を開示しているところもあります。

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米:サラソタ記念病院の入院患者の内訳

例えば、アメリカのサラソタ記念病院*3の状況は上図ですが、一目でわかりますね。ブレイクスルー感染はまれに起こるけれど、重症化などはしにくいし、ワクチンがよく効いているという判断ができますね。

みなさんも、ぜひ、分析してみてください。

では、また(^^ノ