マルチリンガル医師のよもやま話

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自己免疫性疾患はウイルス感染?

自分の免疫が自分の細胞や組織を誤って攻撃してしまう病気を自己免疫疾患と呼びます。

関節リウマチSLEなどは耳にしたことがあるかと思います。

原因自体は今も不明ですが、リンパ球のT細胞の異常が自己免疫疾患と関連している事がわかってきています。

この自己免疫疾患はここ20年で4%ほど増加していることもわかっています。

今回は自己免疫疾患の原因について新たな知見*1を学んでみましょう。

EBウイルス

EBウイルスとは伝染性単核球症の原因となるウイルスです。日本人のほぼ全員が成人するまでに感染するとされています。

水ぼうそうを引き起こす水痘ウイルスと同じく、ヘルペスウイルスの仲間です。

ヘルペスウイルス系のやつらの厄介な特徴は、感染後、体内にずっと残って潜伏し続けることです。

厄介なヘルペスウイルス系

50代以上で免疫が下がったときに、ストレスなどがかかると帯状疱疹が出るのも水痘ウイルスが感染後ずっと潜んでいるからです。

このクソ厄介なウイルスが脳に影響を与えて認知症を増やしていること*2*3が近年わかっており、帯状疱疹ワクチンの接種で認知症が減らせるというのが最近のトピックスです。

帯状疱疹のホント

www.multilingual-doctor.com

他にも毎年のインフルエンザワクチン接種でも認知症のリスクを減らせるという研究*4があります。

話は戻って、このEBウイルスは、腫瘍との関連もわかっており、悪性リンパ腫や胃癌、上咽頭癌、唾液腺癌、乳癌などの原因ともなります。

EBウイルスと腫瘍

特定のウイルス感染ががんを引き起こすことは以前からわかっており、新型コロナウイルスに関してもがん抑制遺伝子のp53を邪魔することがわかっており、癌化に関連するかもしれません。

いずれにしても、感染症は可能ならば避けるに越したことはないのです。「どんどんかかってこい」とかいう自然派は・・・(以下、省略)w

SLE

で、今回のテーマは自己免疫疾患の1つである全身性エリテマトーデス(SLE)です。

20〜40代の女性に多い疾患で、発熱や関節痛、頬に出る蝶形紅斑、光線過敏などの症状があります。

ストレスや出産などを契機に発症することがよく知られていますが、他にも感染症も関係するだろうと考えられてきました。

全身性エリテマトーデスとは

ま、当たり前の話なのですが、感染症が起こると、体内で免疫が活発になるわけですよね、こういったときに素因がある人は自己免疫疾患が表に出やすいということです。

恐らく遺伝性+感染orストレスなどのダブルパンチで発症するのかと。

近年はウイルス感染と様々な疾患との関連がわかってきており、2022年には多発性硬化症という病気はEBウイルスが関係していることがわかりました。

多発性硬化症

で、どうやらSLEもEBウイルスが関連しているようだ*5*6というのが今回のお話なのです。

EBウイルスは他にも関節リウマチ1型糖尿病といった自己免疫疾患とも関連が指摘されています。

感染経路

EBウイルスは無症状感染がほとんどで、赤ちゃんのときに母親の口移し、唾から移っていると考えられています。

赤ちゃんのときに感染しなかった場合は、10代になり初感染すると、伝染性単核球症のようにキツめの症状がで出ます。

伝染性単核球症

伝染性単核球症は、英語圏で kissing diseaseとも呼ばれ、思春期の若者らがキスやらで感染し発症すると認識されています。

で、EBウイルスはリンパ球の1つであるB細胞に感染し、大人しく潜伏しています。

一部の人では、免疫が低下したときに、暴れ出すと、B細胞を異常増殖させたり、T細胞に感染したりします。

こうしてホジキンリンパ腫などになることがあります。

アフリカでは、マラリアによる免疫低下も相重なり、EBウイルスに対する細胞性免疫を低下させるので、バーキットリンパ腫というものが多いことも知られています。

感染で覚醒する不良

誤って自己の細胞を攻撃してしまうB細胞(以下、"不良B細胞"とします)は誰しも持っているのです。しかし、それらは基本的にずっと”冬眠状態”でいるので、問題は起きません。

EBウイルスがこの眠った不良B細胞に感染すると、目を覚まし、増殖して、自分の細胞を攻撃し始めるのです。

EBウイルス感染で覚醒?

SLEの発症は、恐らくこうした流れで起きているということが今回わかりました。

一方で、多発性硬化症では、伝染性単核球症になったときに神経に微小な障害を起こしていることもわかりました。

この神経障害も、たたき起こされた不良B細胞が誤って攻撃しているのでは?と考えられます。

治療の光

今回の研究により、今まで原因不明だった他の自己免疫疾患も、EBウイルス感染という同様のメカニズムで起こっているという仮説が成り立ちます。

現在、考えられているのは、関節リウマチ1型糖尿病炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)といったものです。

それらについては、これから先、調べられていき証明されるかもしれません。

これらの自己免疫疾患は、根本的な治療法はなく、ステロイドなどで過剰な免疫応答を抑える、”対症療法”しかありませんでしたが、原因がわかれば治療法ができてきます。

候補としては、思春期のEBウイルス感染を防ぐワクチン開発や、不良B細胞を除去する血漿交換などです。

ワクチンは現在開発中で、動物実験レベルのようです。

このワクチンが大きな効果あれば、伝染性単核球症を予防し、複数の自己免疫疾患を減らし、唾液腺がんや悪性リンパ腫をも減らせる可能性が高いため、期待されています。

しかし一方で、感染を完全に予防できず、効果が数年で落ちるとなれば、結果として、幼児期の無症状感染ではなく、思春期の伝染性単核球症を増やしてしまうので、逆効果になってしまいます。

この辺の長期の検討が必要となるため、まだまだ時間はかかりそうです。

 

 

では、また(^^♪