新型コロナ感染症は感染力の強いデルタ株の広がりにより世界中で新たな局面を迎えています。
終わりの見えないコロナ禍で人々の我慢も限界に向かっています。かといって、いつまでも自粛生活は無理です。
今回は、自粛生活の副産物について見ていきましょう。
英国:規制の撤廃
イスラエルは世界に先立って、マスクなどのコロナ規制を撤廃しましたが、デルタ株の蔓延により再度マスクを義務化しています。
そんな中イングランドではデルタ株の拡大の中で、マスクなどのコロナ規制を撤廃しました。相当な批判もありましたが、今のところ、死者が全く増えていません。
これは致死率の変化を見たものですが、7月19日の規制撤廃以降も致死率は全然上がっていませんし、過去と比して極めて低いですね。
英国政府のデータ*1から陽性者数と死亡者数の推移も見てみましょう。
感染力の強いデルタ株の広がりと規制撤廃で陽性者数(感染者数と表記)は高い山を描いていますが、死者数は増えていませんね。
この陽性者数と死者数の大きな乖離の理由は当然ワクチンが1つあります。
日常を取り戻す
イングランドはイギリス全体の85%の人口を占めています。
そのイングランドでは現在交通機関の中をのぞいては、マスクやソーシャルディスタンス、テレワークなどの規制をすべて撤廃しました。
デルタ株の広がりで1日に5万人を越す陽性者を出している中でも、この規制撤廃を決めた理由はワクチン接種の進展です。
▼デルタ株とワクチン▼
7月末の段階で18歳以上の70%以上が接種2回済ましているということがこの規制撤廃への経緯でした。少なくとも今のところはうまくいっています。
以前の記事で紹介しましたが、デルタ株の集団免疫を得るには80%以上の人のワクチン接種 or 既感染が必要です。
▼デルタ株の集団免疫▼
ですので、まだまだ終わりには来ていないのが現状です。しかし、先行く英国のこの政策は今後の日本にも重要な情報となるでしょう。
自粛が生んだ感染?
さて、2020年は1年通して世界中で自粛の年となりました。
日本ではかなりユルい自粛でしたが、ロックダウンなど厳しい措置が取られた国々では、感染拡大の度に繰り返されると暴動が起きたりもします。
そう、それだけ、この”自粛”というのは経済面でも精神面でもマイナスの影響があるのです。だからこそ早く元の生活に戻ろうとしているのですね。
ところで医学の面で不思議なことが起きています。
NY Times の記事*2ですが、アメリカでRSウイルス感染が季節外れに流行しているというものです。
日本でも流行
実は日本でも同じ傾向が見られています。
お子さんをお持ちの方々は聞き慣れたウイルスですね。通常は2歳までにほぼ全員が感染をしてしまい免疫を持ちます。
これもコロナと同じく発熱、咳などの風邪症状が起こり、ひどい場合は気管支炎や肺炎になります。特に低出生体重児や先天性心疾患などを持つ新生児・乳幼児では重症化することがあるので軽視はできません。
例年は寒くなり始める秋ぐらいから冬にかけて流行するウイルスで、こんな夏に大流行することは過去にありません。国立感染症研究所の資料*3によると、なんと過去最大の感染拡大をしています。徳島、和歌山、高知、新潟などで特に多いです。
自粛の影響
今年のこの大流行はなぜ起きているのか。
昨年の自粛の副産物ではないかと考えられています。昨年はステイホーム、さらには手洗い・マスクの徹底によりインフルエンザも流行せずに終わりました。乳幼児たちも休園などで外に出る機会も減りました。おうちではいろんなものが消毒されました。
一つのウイルス感染が拡大していると他のウイルス感染が起きにくいという、ウイルス干渉の可能性もあるでしょう。
いずれにしても昨年は、RSウイルス感染も少なかったのです。
ところが今年になって、コロナ慣れなどで感染予防策が緩まると、その反動で一気に広がったと考えられています。
免疫がない
幼稚園や保育園でもらってきて、感染して数日で治って終わり。乳児や先天性心疾患のある子などはまれに重症化する。
これが一般的なRSウイルス感染症でした。そしてゆっくりと広がるものでした。
ところが、自粛によりウイルスに曝露する機会がなかった乳幼児たちは免疫を持たないため、いま、RSウイルス感染症が急増したというストーリーです。
感染児が急増すると、一定の割合で出る重症児もいつもより多くなります。
特にいまはコロナ専用に多めにベッドや人工呼吸器を取ってあります。つまり、病床、人工呼吸器の確保ができない可能性があります。
さいごに
コロナによる自粛により、経済的、精神的にダメージを負った社会、大人。
いまそれを取り戻そうと、ワクチン接種、そして元の生活に一気に戻しつつあります。
一方で、自粛により、通常ならゆっくりと曝露して免疫を持つであろう感染症に対して免疫をもたないままの乳幼児たちが、元の世界へ急速に戻ろうとする社会により一気にウイルスに曝露しています。
RSウイルスはごくまれに重症化し人工呼吸器が必要になるため、急速な感染拡大は危険です。家に帰ったら手洗いをさせるなど最低限の感染対策を行いましょう。
特に0歳児がいる家庭などでは大人も感染対策をしっかりしてあげましょう。
RSウイルス感染の急増はまさに『過剰な自粛の副産物』です。少しずつ戻していくしかありません。
では、また(^.^)ノ