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大腸癌急増と腸内細菌

以前、アメリカで50代未満の若年性大腸癌がこの20-30年で急増しているという問題について記事を書きました。

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原因は特定されていませんが、近年はウインナー、ポテトチップスなどの超加工食品などが注目されています。

今回はその続きのお話です。

大腸癌の増加?

大腸癌のリスクファクターとして、喫煙、飲酒、肥満、欧米型の食事などと一般に知られています。

脂肪分の摂取が多く、食物繊維が少ないとリスクが上がるとも言われています。

豊かになった現代、大腸癌はさぞかし増えているのでしょう・・・

大腸癌は減っている!(米・国立衛生研究所より)

いえ、実は大腸癌は年々減っている*1のです。(注:アメリカでは!!)

理由は色々言われてますが、その中でも保険の制度の改正などで大腸癌の検診(内視鏡)が受けやすくなっていることが関係しているようです。

実は、大腸癌の多くはポリープ(腺腫)から発生することがわかっており、早めにポリープを見つけて切除すれば大腸癌にはいたらないのです。

さて、では、なぜアメリカでこれだけ大腸癌が取りざたされているのでしょうか?

若年性の大腸癌が増加

アメリカがん学会の報告*2によると、高齢者では大腸癌は減少してきているものの、一方で50歳未満の若年性大腸癌はこの20-30年間で1.5倍以上に増えているのです。

その原因は

赤身の肉(牛肉・豚肉)の摂取量が多いほど大腸癌になりやすいことが確認されています。

さらには便利な時代、保存のきく超加工食品の関連も指摘されています。

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保存料などが体に良くないのでは?というのは前々から言われていますが、どの成分がダメなのかはよくわかりません。

ただ、現実として超加工食品の摂取が多い人は大腸癌になりやすいことはわかっています。

腸内細菌のせい?

新たな研究では、若年性大腸癌は腸内細菌が関連してるかもしれない*3と言います。

若年性大腸癌は”より攻撃的”

米・ジョージタウン大学の研究者によると、若年性大腸癌は高齢者の大腸癌よりもさらにタチの悪い癌であることが多いといいます。

これは他の癌でもそうですが、若い健康な人に起こるような癌ですから、厄介な性格の癌なわけです。

しかし、若年性大腸癌では遺伝子レベルでの問題は関係がなさそうです。

そこで、彼らは次に腸内細菌に目をつけて研究を進めました。

以前から、特定の腸内細菌が癌化に関連していると報告されてきました。

フソバクテリウム・ヌクレアタム

近年、注目を集めているのがフソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌です。

こいつが、腸内の免疫機能を低下させることで癌化を促進するようです。

若年性で多い細菌

研究内で、45歳未満の若年性大腸癌の患者の腸内細菌と、65歳以上の大腸癌患者の腸内細菌を調べると面白いことがわかりました。

若年性大腸癌患者の腸内細菌と65歳以上の大腸癌患者の腸内細菌では内容が大きく違ったのです。

若年性大腸癌では腸内細菌叢が違う

若年性ではクラドスポリウムという風呂場でよく見るクロカビが多かったのです。喘息の原因にもなりますな。

ちなみに65歳以上の大腸癌患者では、モラクセラ・オスロエンシスという菌などが多かったそうです。これは、洗濯物の”ナマ乾き臭”の原因のやつですね。

いずれにしても、これらの菌が実際に癌化に関与しているかは不明ですが、年齢で分けると大腸癌患者の腸内細菌はハッキリと違うことから、何かしら関連はあるものと指摘されています。

また、なぜ特定の菌が増えるのかは不明です。

日本の大腸癌

ここまで、アメリカの話題でしたが、日本はどうなのか?

日本では大腸癌増加中

減少傾向にあるアメリカに対し、日本では大腸癌は増加中*4です。

2000年まではすごい伸びですが、その後いったん横ばいで、最近また微増って感じですね。

そして、若年性大腸癌に関しても、欧米だけでなく、日本・韓国・台湾などアジアでも増加がみられ*5ています。

つまり、日本では大腸癌自体が増加中で、さらに若年性大腸癌も増えているというのがまとめになります。残念。

さいごに

さて、ここまで見てきて私たちが大腸癌のリスクを減らすにはどうすればいいのでしょうか?

大腸癌のリスクを減らすには

特に目新しいものではありません。

牛肉・豚肉の大量消費はやめて、野菜たっぷり、飲酒は控えめ、禁煙、適度な運動。

簡単ながんリスク軽減法

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がん検診で、しっかりスクリーニングを。ポリープのうちに見つけて切除しておけば、リスクは大幅に減ります。

毎年、便潜血しっかりやって、陽性あれば内視鏡を受けるのを徹底すれば全体の数は減るでしょう。

また、ピロリ菌の除菌は胃癌のリスク低下だけでなく、大腸癌のリスクをも下げる*6ようです。

胃潰瘍のある方はピロリ菌、調べてみましょう。

 

若年性大腸癌増加の原因は複合的に考えられています。

環境中の化学物質、加工食品、抗生剤による腸内細菌叢の変化?、肥満などが言われています。

まだわからないことも多いですが、できることは全部やってリスクを下げるのがいいですね。

では、また(^^♪