マルチリンガル医師のよもやま話

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【解説】紅麴による健康被害

小林製薬の紅麹を原料としたサプリメントによる健康被害が報じられています。

この紅麹は他社の製品にも使われており、自主回収などで混乱を呼んでいます。

今回はこの紅麹の問題について少し学んでいきましょう。

豆腐よう

沖縄で豆腐と言えば、島豆腐ジーマミ豆腐が有名ですね。

で、島豆腐を発酵させたものを豆腐餻(よう)と呼びます。

歴史的には、元々、中国で"腐乳"という発酵豆腐があり、それからアイデアをもらったものです。

豆腐ようと紅麹

中国から伝わった腐乳の製法をまねて、黄麹で発酵させると、黄色い豆腐ようができます。一方で、沖縄独自で発達したのは紅麹を用いて発酵させる赤い豆腐ようです。

昔から琉球では”赤”は めでたい色とされ、赤い豆腐ようは祝い事などで重宝されました。紅麹は、このように着色料として用いられてきました。

コレステロールとの戦い

戦後、飽食の時代となると、心筋梗塞で亡くなる人は増えていきました。

1960年代以降、その原因はコレステロールであることがわかり、何とかコレステロールを下げる薬を開発しようという流れになりました。

アメリカ留学中にこれらを学んだ遠藤章という日本の科学者がいます。(※決してココリコではありません)

カビから生まれたスタチン剤

遠藤氏は帰国後アオカビの一種からメバスタチン(別名:コンパクチン)を発見し、これが今高脂血症にメインに使われる”スタチン”の最初です*1

このメバスタチンを何とか内服薬にしようと頑張っていましたが、イヌで副作用が強く見られたりで、臨床試験は1年ほどで中止となってしまいました。

メルク社に先を越される

その頃、アメリカのメルク社は、別のコウジカビからロバスタチンを分離成功しました。そして、安全性も効果も抜群となり、世界初のスタチン製剤となりました。

カビから発見されて作られた薬といえば、ペニシリンもそうですね。カビが人類を助けているなんてなんとも不思議な気分。

コレステロールについて

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ベニコウジカビ

はい、ということで、世界的にめちゃくちゃ使用されているコレステロールの薬、スタチンは日本人が発見したわけですが、世界初で商用化されたのはアメリカのものでした。

で、それはコウジカビから分離しました。

はい、今回のテーマ、紅麹もベニコウジカビの関連です。ということは、スタチンと同じようにコレステロールを下げる効果があることも容易に理解できますね。

もちろん、医薬品でないので用量の問題もあり、コレステロールを劇的に下げるということはないですが・・・

紅麴サプリへの期待

で、さらに、ベニコウジにはγ-アミノ酪酸(GABA)も含まれており、血圧低下も期待できると言われており、健康食品として注目されているわけです。

シトリニン

しかし、懸念点もあります。

ベニコウジカビはシトリニンというカビ毒を産生する菌種もあることがわかっています。で、このシトリニンは腎障害を起こさせることもわかっています。

シトリニンとは

そういったこともあり、紅麹を用いた”コレステロールを下げるサプリ”にも微量ながらシトリニンが混入しているのではないかという懸念が以前からありました。

欧州では2014年の時点で、紅麹でできたサプリにシトリニンの基準値を設定した上で、健康被害について注意喚起*2がなされていました。

スイスでは売買禁止

スイスにいたっては、紅麹関連のサプリの売買を禁止*3しました。

小林製薬

さて、10年前に欧州では注意喚起がなされていた紅麹のサプリですが、日本では売られています。なぜか。

2016年より小林製薬は紅麹原料の販売をしておりました。

しかし、紅麹には先述のような”懸念”がありました。売り上げが増えるには、何としても安全性を証明する必要があります。

日本で使用する菌種からシトリニン発生なし

そこで、2020年、紅麹の菌種をゲノム解析したのです。すると、日本で主に使用されているM. pilosusという紅麹の菌種では、シトリニンが発生しないことをつきとめた*4のです。

これで、『シトリニン』という唯一の懸念を払拭できたので、翌2021年『悪玉コレステロールを下げる機能性表示食品』を発売できるようになりました。

健康被害報告

これがここ最近問題になっているものです。

なんと、紅麹のサプリに関連する健康被害が今次々と出てきているのです。

そして、腎障害で透析に至った人や、命を落とした人も出たのです。

腎障害と聞くと、やはりシトリニンを考えてしまうところですが・・・

未知の物質が混入?

シトリニンではなく、”未知の物質”が混じっており、それによるアレルギー反応*5の可能性が指摘されているようです。

たしかに、2021年から販売してて今まで全く健康被害なしで、2024年に入っていきなり健康被害が相次ぐ・・・となると、製造時の異物混入などが一番疑わしいですかな。

 

原因究明が急がれます。

立ち入り調査ができない

残念ながら、大阪にある紅麹を製造していた小林製薬の工場が昨年12月に廃止されたため、工場の衛生状態の検証ができない*6*7こともわかっています。

 

これは時間かかりそうな・・・

 

結論、サプリじゃなく安全性も確認された薬飲めばいいやん。てこと

 

 

では、また(^^♪