ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく半年を迎える中、一向に戦いが終わる気配はありません。2国だけでなく、流通の問題やインフレの波が世界中に影響しています。
戦争はいつどのようにして終るのでしょうか?なぜ、ロシアのエリートは戦争を止めないのでしょうか?
アメリカのシンクタンク
FPRIというアメリカのシンクタンクが7月に出したオーサー記事*1が参考になりそうなので、これを通して学んでいきましょう。
3月にロシア国営放送の職員がニュースの生放送中に『戦争反対』のプラカードを持って現れた*2ことは記憶に新しいですね。
このように、個人レベルでウクライナへの侵攻に反対する人たちは、有力者の中でもチラホラいました。
開戦直後は、エリートたちも匿名を条件に、戦争に踏み切ったことに対する不満や衝撃や恐怖などをメディアに語っていました。また、ある高官も、政府内で多くの人が「ウクライナ侵攻は誤りと考えている」と発言していました。
意見が変わった
ところが、面白いことが起こりました。ロシアの侵攻からわずか3週間後、同じ相手にインタビューすると意見が大きく変わっていたのです。
アメリカをはじめとしたウクライナを後援する西側諸国がロシアに対して制裁を課していることが、”戦争をしなければならない”理由になっていたのです。
その頃、ロシア政府内では、プーチンの『特殊軍事作戦』には100%賛同となっていました。つまり反対者はいなかったのです。
エリートたちはいったい何を考えているのでしょうか?腹の奥底は見えてきません。
一枚岩ではない
プーチンとしては、自分の権力を維持するには、エリートたちをまとめなければいけません。しかしながら、ロシアのエリートたちと言っても様々な分野から出てきており、『お目当て』も違い、決して一枚岩ではないのです。
要は、プーチンに対する忠誠心に対して求める見返り(利権)は、人により違います。天然ガスの利権であったり、ある産業での独占権であったり・・・みんなバラバラ。
ロシアのエリートたちは、資源への”利権”などの獲得は認められているけれど、様々なの制限に拘束されています。利権を手にすれば、プーチンの『絶対的権威』を認めなければなりません。これを新家産主義といいます。
4つのエリート
近年では、ロシアのエリートは主に4つから成ると言われています。
オリガルヒと言うのは聞いたことある方も多いと思いますが、ロシアの財閥たちです。90年代のエリツィン大統領時代からの旧オリガルヒと、プーチン体制下で台頭してきた新オリガルヒとがあります。
西側諸国とうまくやっていた時代の旧オリガルヒは、稼いだ金を西側に置いておく(例:ドルで保有)ことがおおく、比較的”親・西側”でしたが、プーチン政権以降、折り合いが悪くなり、経済制裁まで食らっており、新オリガルヒは西側に預金できません。そんなこんなで、新オリガルヒは比較的”反・西側”です。
同じオリガルヒ内でもこのようにバラバラなのです。
ルサンチマン
オリガルヒだけでなく、他のエリートたちもお互い統率は取れていません。
そんな中で、プーチンはいかにしてエリートたちを最低限まとめたのでしょうか。
何よりも、メディアの統制を行い、プロパガンダを垂れ流すのが得意だったロシアは、2007年以降、反米の空気を作っていきました。そして、ロシアのエリートたちもどんどんと反西側・反米へと変わっていきました。
その感情の根底にあるものがルサンチマンでした。
ルサンチマンとは、簡単に言えば、劣等感、負け惜しみ、嫉妬の感情を無理やりプラスに変換し、『自分が悪いのではなく、相手が悪い』と置き換えることです。
ソ連崩壊後、国際的地位の喪失とともに、西側のような資本主義に乗り遅れたロシアで、このルサンチマンが広がるのは容易でした。
エリートは裏切らない
強くて大きなロシアがこんなはずはない
この考えが根底にあり、国際競争力が低く、豊かでないのは西側諸国の制裁のせいである。こう考えることは、国民の不満をそらすのには最適です。北朝鮮もそうですね。
ロシアの西側からNATOがどんどん東側へ拡大し、いまにもウクライナまで取り込もうとしている。プーチンはこの動きは、旧ソ連国の『裏切り行為』と感じました。
強大国のトップであるプーチンの承認欲求は強まり、次第にそれは強迫観念となりました。
情報統制により、ルサンチマンは広がり、「ロシアこそ被害者」という考えは国民にも浸透していきました。
まとめると、プーチンはエリートたちを『利権』と『ルサンチマン』によって味方にさせることに成功しました。
クーデターもなさそう
さきほど、4種類のエリートを紹介した中にシロヴィキというのがありましたが、その中には軍部を率いる人たちがいます。彼らがクーデターなんてことはないのでしょうか?
エリートたちはお互いを信頼していない為、独断で動くと裏切られることを恐れ、リスクは取らないでしょう。
さらに、大急ぎである犯罪の罰則化が進められました。
軍の信頼を損なう違反は禁固刑が与えられます。
エリートらが戦争反対!!などと声を上げると、この罪に問われる可能性があります。少なくとも経済制裁下でも、エリートの地位を守っていれば、よい暮らしができる中でこのようなリスクは取らないということですね。
また、FSBという特殊機関によりエリートの忠誠心は常に監視されており、表立った行動はできません。
さいごに
いかがでしたか?
当初は、「軍のクーデターがあるかも」なんて噂も流れてましたが、独裁者からすれば、そのようなことが起こりえることは十分承知しているんですね。
なので、エリートたちに利権を与え、忠誠を誓わせ、さらに相互不信を利用し団結させないようにし、重い罰や見せしめでクーデターの可能性を最大限低めているのが実態のようです。
また、プロパガンダの利用で、ルサンチマン「我らこそ被害者」で自己正当化を徹底的に広め、エリートたちの『離反』を防いでいるのでした。
今の時代にこんなことが・・・あるんですね
では、また(^^