マルチリンガル医師のよもやま話

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医学論文とイベルメクチン

新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、治療薬についても関心が向くのも事実。

そんな中、抗体カクテル療法が特例承認となりました。これはいままでに承認されている治療薬とは違い、軽症~中等症が対象となる薬になります。

しかし、あくまでそれは治療であって、予防に勝るものはありません!

予防に使えるのはワクチンが基本ですが、内服薬はどうでしょうか。

さて、今回は医学論文のお話と、そこからコロナ予防薬を見ていきましょう。

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論文ができるまで

よく『こういう論文もある』とか言ってますよね~。専門家が書いた論文と言うのは、その辺のSNSで流される情報などより当然信頼性が段違いに高いわけです。

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超絶簡略版!論文イメージ

上図のような流れで、もっともっともっと長い文でもちろん英語で書くわけです。しっかりと、どのような方法で、どんな人たちをどれだけの人数調べたとか、どのように比較した、など非常に細かい記載が必要です。

論文が出来上がったら、医学雑誌社に投稿するのですが、往々にして editor kick といって、日本語で言えば門前払い的なことがあるのです。私も何度も食らいました。

あかんかったら他の雑誌社に次に投稿する→フラれる→投稿する→フラれる→投稿・・・の繰り返しです。

そして運よく興味を持ってもらえたら査読というものがあって、第三者の専門家たちが読んで、あーだこーだとコメントや時には難癖もつけてくるわけです。こういうのを通り超えて、改善を積み上げたものなので信頼性が担保されるわけです。

やっと査読に回っても、必ずしもaccept されるというわけではないのです。

論文が掲載されるのは相当の時間や労力が必要なのです。

ピンキリ

医学雑誌社といっても世界中にたくさんあるわけです。

超名門の雑誌社なんて、とてもじゃないけど通りません。例えば、10-20人程度の自分の臨床経験を論文にしても、科学的には「たまたまそうなったんだろ」と相手にされません。

"nの力"といって、1000人とか1万人とか対象者の多い研究はバラツキ・偏りが生じにくいのでより信頼性が高くなるのです。

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nの力は偉大だ

しかしながら、みんながみんなそんな名門の超絶狭き門を通るわけでなく、ユルい雑誌社も山ほどあります。投稿に約20-30万円ほど払えば、通るところもあります。そういう論文は査読が緩いんですね。

だから、同じ論文といえど”レベル”があるのです。中身もエエ加減なやつもあります。こういう点で、陰謀論が作られやすい温床ともなりますな。

陰謀論の作られ方

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インパクトファクター

じゃ、どの論文が信頼度高いの?

そんなときに役立つのが impact factor というものです。そこの雑誌社に載った論文が1年間でどのくらい引用されたかを示すものですが、これが大きければ権威ある雑誌社ということになります。

みんな、自分の論文の考察部分では、なるべく信頼性の高い論文を参考文献に入れたいですからね。当然、名門の雑誌社のインパクトファクターは高くなります。

目安として「インパクトファクターは5以上で一流雑誌」というのはよく耳にしますが。

メタ解析

さて、独立した論文のさらに発展版がメタ解析です。これは複数の論文を合わせて議論して、そこから分析していく手法です。これはさらに質が高い論文ということになります。

今回は有名雑誌 BMJ のメタ解析の論文を見ていきましょう。

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the BMJ

BMJは1840年からあるイギリスの由緒正しき雑誌社で、世界五大医学雑誌の1つです。2019-2020年のインパクトファクターは驚異の30超え。。そう、ネ申のような医学雑誌なワケです。

そこのメタ解析なので相当エビデンスレベルが高いと考えてもらえばOKです。

新型コロナの予防薬

2021年4月にBMJに掲載された論文は、WHOのコロナ関連データを用いた世界中の大掛かりな解析です。

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新型コロナの予防薬

2021年3月25日までに3万5000以上の論文や、抄録をあさって、新型コロナの予防薬の研究についてまとめてアセスメントをしています。

論文にはこの研究に至った【背景】や【目的】【方法】など細かく書かれています。かなり長くなるので今回はこの辺はすっ飛ばしましょう。

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アセスメントされた治療・予防薬

ヒドロキシクロロキンと言えば、2020年、アメリカの虎さん(トランプ氏)が予防内服していたものですね。

アメリカに亡命した香港のウイルス学者・閻 麗夢博士も「中国の高官は予防目的にクロロキン内服」と言っていました。

『予防薬はクロロキン』

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イベルメクチン

そんな中で日本でひときわ注目を浴びているのがイベルメクチンですね。日本で作られた薬だから余計に。

この薬は疥癬といってダニの感染による皮膚疾患に処方される薬です。

2020年にオーストラリアの研究で、イベルメクチンが新型コロナウイルスを抑制する*1という結果を発表しました。

それに続いてアメリカからもイベルメクチンが重症化を抑制するという論文*2が出ましたが、その後、信頼性に疑義が生じ、撤回されました。

他にもイベルメクチンが予防に効くんじゃないかとか重症化を抑制したとかいう論文が出ますが、その効果を否定する論文*3も出てきます。

メタ解析の結論

効く、効かない両方の意見がありますが、メタ解析の結果はどうだったのでしょうか。

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メタ解析の結論

まず、ヒドロキシクロロキンは副作用が出て、薬を中止しなければならない状況が多くあるようです。また、感染予防、重症化予防ともに効果はなさそうです。

さて、イベルメクチンは、バイアスのリスクが多く、不正確性も極めて高いため、「効果がある」という確かな根拠は得られないという結論です。

つまり、どちらも予防薬としてはエビデンスがない!ということになります。

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科学的根拠がないから承認されない

また、もう一つ別のメタ解析を介します。こちらは Clinical Infectious Diseases という雑誌でインパクトファクターは8.313と一流雑誌であります。5年前くらいは10を超えていました。

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イベルメクチンは治療薬にならない

こちらのメタ解析では、軽症例に対してのイベルメクチン使用は、死亡率や入院期間、ウイルス排出期間のいずれも改善させなかったとしています。そのうえで、イベルメクチンは重症化の予防として治療薬にはならないという評価になっています。

さいごに

いかがでしたか。

”論文”が資料として信頼度が高いのは間違いありません。しかしながら、論文も雑誌社によりピンキリです。しっかりと査読がなされたものもあれば、ユルユルのところもあったり。

そして、たくさんの論文があれば結論が違うものが出てきます。それらも含めてメタ解析したものが一番信頼度が高くなります。

現時点(2021年7月13日)では、残念ながらイベルメクチンは新型コロナの感染予防、重症化予防にエビデンスはないということになります。

では、また(^.^)ノ

 

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