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感染後の後遺症は長期に及ぶか

新型コロナウイルス感染症が世界に広まって3年以上過ぎ、ワクチン接種の普及、オミクロン株の出現、そして世界的に既感染者が非常に多くなり、『大きな脅威は去った』というのが現在の空気です。

しかし、知れば知るほど、”かからない方がいいウイルス”であることがわかってきています。

今回は、SARS(2002-2003年)の長期後遺症に関する論文を見て学んでいきましょう。

SARSと新型コロナ

新型コロナウイルスの名称はSARS-CoV-2です。で、SARS-CoV-1は2002年〜中国で広がったSARSの原因ウイルスです。

新型コロナが発見されたときに、SARSのウイルスと非常によく似ていることから、このように名づけられました。

SARSとMERS

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SARSでは世界で8000人ほどの感染者を出し、800人以上が死亡しました。

実に致死率が10%以上の怖い病気ですが、当時の検査体制は今より大きく劣るので、実際はもっと感染者がいたはずです。

SARSとCOVID-19

SARSでは、致死率は高いですが広がりにくかったので、最終的に終息しました。これは、感染者が他人に移すのは症状が強く出て以降だったからです。

新型コロナは厄介

一方で、新型コロナでは、症状が出る前から他人に移すので、有症状者の隔離だけでは間に合わず、広がりやすい感染症となりました。特にオミクロン株以降は、感染力が強くなっていますが、反対に致死率は下がっています。

SARSから学ぶ

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SARSの後遺症

今回紹介する論文*1は、中国・天津海河医院*2という総合病院の内科医らがまとめた論文です。

ちなみにこの病院はSARSの対応のために作られた病院なんですが、その後、今は拡大し、総合病院として機能しています。

中国でのSARSの影響

SARSは、中国全体では5663人が感染し、372人が死亡しました。

生存者を調べていると、1年後でもひどい後遺症に悩む人たちがいたのです。

1年後も1/3がひどい後遺症

また、別の報告*3では、感染後7年での胸部CTでも異常陰影(GGOなど)を認めており、明らかに肺に器質的な変化を残していることがわかっています。

こういったことから、SARSでは非常に長期にわたり後遺症を残すと考えられており、論文の著者らはSARS感染し退院してから18年経った今の状況を調べてみました。

既感染者に多い症状

天津海河医院の医療従事者でSARS感染者が31名いました。

そのうち14名が今回の研究の対象となりました。残りの17名は高齢で定期受診ムリ!とか、コロナ禍で受診控えで来院しなかったので候補から外れました。

既感染者 vs 非感染者

そして、比較するためにSARS感染のない健康な14名の医療従事者がもう一つのグループを作りました。もちろん平均年齢なども両群そろえてあります。

この2つのグループで採血やら呼吸機能やらCTやら代謝やらいろいろと調べてみました~っていう研究です。

まず、症状を見てみましょう。

現在ある症状

右のcontrol群でも咳や痰がありますね。普通に生きていると風邪ひくこともあるし・・・でも14人中5人て多いよな。ま、大気汚染とかもあるし?(笑)

一方で、SARSに罹って退院後18年経過した人たちの方が咳・痰は少ないですが、これは上記の通りよくわかりません。有意差なし。

しかし、倦怠感・呼吸苦は既感染者にだけ明らかに多くみられてますね。

健康状態は悪い

SARS感染者群は、非感染群と比べて明らかに全身の状況が悪かったのです。

既感染者群では息切れがある

感染・退院後18年の既感染群では14人中10人(71.4%)が息切れを訴えています。

また、全身の健康状態調査に使われるSF36*4では、既感染群で有意に低く、QOLが低いこともわかりました。

既感染群では肺に異常が多い

CTでも既感染の群では18年経ったのに、肺の異常な影が明らかに対象群よりも多かったのです。しかし、呼吸機能検査では両群に大きな差はありませんでした。

骨にも異常が多い

さらに、退院後18年の群では、骨粗鬆症が圧倒的に多く、大腿骨頭壊死も多かったのです。これはたしかにQOL下がりますわな。

当然、股関節の動きなどを調べる検査でも既感染群は悪い結果を出しています。つまり歩行にも影響出ています。

時間とともに改善も

しかし、長い時間を経るにつれよくなっていったものもあるのです。

退院後12年のときと比較して、退院後18年では、先ほども出てきたSF36の点数が明らかかに改善しているのです。

活力やメンタルの改善見られる

呼吸機能やCTでの変化は見られませんが、活力やメンタル面では大きな改善がみられています。

それでも、非感染の対象群と比べるとどれも低かったです。

解釈

この研究での著者らの解釈を見てみましょう。

もう見てきた通り、SARS感染・退院後18年経った今でも、倦怠感や呼吸苦などの症状を呈しております。

感染による代謝・免疫の変化?

また、骨粗鬆症や大腿骨頭壊死も感染と関係がありそうです。調べてみると、感染による代謝や免疫に変化が起きていたので、それらが関わっているかもしれません。

(例えば、CD8+が優位となり、CD4+の発現の低下などが見られる)

さいごに

いかがでしたか?

新型コロナウイルスはSARSウイルスと非常によく似た構造であることが知られています。もちろん、まったく同じではないので、これと同じようなことが起こるかは不明ですが、ある程度の参考にはなると思います。

日本でもコロナ感染後の何かしらの後遺症を訴えるのは3-4人に1人*5と結構高い割合です。

持続感染が後遺症の原因?

後遺症の原因の仮説としては、体内からウイルスが完全に排出しきれず残存し続ける*6ことが考えられています。

新型コロナ感染により、糖尿病になるリスクが高まる*7ことや血栓症、脳卒中のリスクが高まる*8こともわかっています。

また、以前ご紹介した研究*9で、新型コロナウイルスに感染した人では、がん抑制遺伝子p53の発現が低下することが報告されています。

新型コロナ感染でがん化?

 

重症例や後遺症のある症例では半年後もp53の発現低下が続いていました。

これから先、世界中で、コロナ感染後の後遺症について5年⇒10年⇒15年と研究が続いていくことになりそうです。

かかりたくないウイルスであるのは間違いありませんが、残念ながらいずれほとんどの人はかかります。しかしワクチン接種済での感染では後遺症のリスクが下がる*10ことが示唆されています。(※若くて健康な人は2回接種で十分)

引き続き情報をupdateしていきましょう。

では、また(^^♪

 

若くて健康⇒2回接種

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