先週、高校3年生対象の講演会をさせていただきました。
その中で、受験生が気にしている入試期間前後の体調の管理やストレスについての話をしたのですが、誰かの役に立つかもと思い、その一部の『感染症』の話を少しここにまとめようと思います。
なぜコロナは特別視?
長く続くコロナ禍と、感染が身近なものとなり、さらに致死率も減ったことで『コロナを特別視しすぎ』とかいう論調が見られます。
これを聞くと、「たしかに」と思う人もいると思います。では、そもそもなぜコロナが特別視され、自粛生活やマスク生活を強いられたのでしょうか?
新規感染症で、それゆえ当初の致死率は高かったことがまず重要です。横浜市立大学の研究*1によると、全世界の致死率は2020年2月は8.5%と高く、2022年8月では0.27%まで約1/30に低下しています。
この要因として、論文では、ワクチンの普及、医療側の対応、感染による免疫獲得、ウイルスの弱毒化などを挙げています。
そして、新型コロナウイルス感染症の厄介な点は、風邪のような局所的な疾患ではなく、全身性炎症疾患であるという点です。血栓ができたり、後遺症も多岐にわたりますね。
最後に、厄介なのが発症前に感染力があることです。つまり、熱などの発症者はその2日前(まだ無症状時)から他人に感染させていた可能性があるということです。
これが、みなさんが症状もないのにマスクを推奨されてきた理由ですね。
また、コロナ感染後では血栓症や、心筋梗塞、脳卒中のリスクが上昇することが分かっています。また、スペインからの研究*2では、コロナ感染によりがん抑制遺伝子が減ることがわかり、後遺症などが長期に及ぶと癌化にかかわる可能性も示唆されました。
致死率は低下したが
しかし、いつまでもコロナ対策を続けて自粛ばかりしていられないし、ワクチンも打った人が増えたし、規制を解除して元の世界に戻していこう!というのが2022年の世界の動きでした。
「致死率がインフルエンザ並なのにいつまで・・・」と声高に主張する人たちがいますが、残念ながら見たいところだけ見ているだけです。
たしかに、2020年の致死率8.5%から現在0.27%まで下がっていますが、死者数はずーっと増えているんです。
NHKの特設サイト*3のグラフを引用します。一目瞭然ですね。
死者数は、致死率だけでは決まらず、それに感染者数を掛け合わせたものです。いくら、致死率が1/30になっても、感染力が100倍になっていれば死者数は増えます。当たり前ですね。
以前当ブログで紹介した中国の研究*4では今後は、総死者数も段々減っていき、2023年春で致死率はインフル並に、2024年頃には死者数もインフル並になると予想しております。
致死率だけの指標で行けば、2022年度で『終息』となるのでは?とまとめていました。
詳しくは過去記事をご参照ください。
▼コロナ2022年終息説▼
大事な時期の体調管理
日本では第8波に入ったとされ、12月中旬から1月末頃までが非常に大きい波になると予想されています。ウイルスの主体は今もBA.5でありますが、少しずつBQ.1などの変異型が増えている状況です。
しかし、いずれにしてもオミクロン株です。ワクチンや既感染である程度の予防効果はあると考えられます。
では、受験生などその時期は何に注意すればいいでしょうか?
これも何度も当ブログで紹介していますが、BMJという名門雑誌に掲載されたメタ解析*5の結果、お互いのマスク着用でリスクを53%、ソーシャルディスタンスで25%感染リスクを減らすことが示されました。
大事な時期は、みんなでマスク、距離、手洗いの基本対策くらいでリスクを減らせるなら安いもんですね。
また、換気の悪い部屋では、エアロゾル感染や空気感染も起こりうるとされているので、みんなの集まる部屋などでは定期的に換気しましょう。
学校とマスク
幼稚園や小学生がマスクをずっとつけていることは確かにかわいそうだし、お互いの顔が見えずコミュニケーション能力の発達の障壁になるのでは?という意見もあります。
これには『正解』などなく、メリハリをつけて、感染者が増えてきたら当面はマスク着用などにすればよいと個人的には思っています。
上の図は、アメリカ・ボストンで学校でのマスク着用義務を撤廃した後、すぐにみんなが外した学校群と、しばらく経ってから外した学校群、着用継続の学校群でコロナ陽性者を比較した研究*6です。
A, B, C どのグラフでも、一番低い(感染者が少ない)のは黒い実線(マスク着用継続)で、一番高い(感染者が多い)のは水色実線(すぐに撤廃した学校群)です。
この2つの群での差は、生徒や職員1000人当たり約45人だそうで、グラフからザックリ3~5倍の差ですね。
マスクの効果がよくわかります。
2年間インフル流行なし
さて、昨年も「今年はインフルに注意」とか騒がれましたが、ほぼ流行なしでした。
上の図は、東京都のインフルエンザ発生状況*7に加筆したものです。
コロナ前はオレンジとピンクの波を見てください。12月~2月に大きな波がありますね。ところが、緑(2020年)と青(2021年)はほぼ0です。実はこれは、日本だけではありません。
2020年、2021年は北半球でも南半球でもインフルエンザの大きな流行はありません*8でした。
当たり前ですが、人々の海外への移動が少ないこととコロナ感染対策が主因です。
2022年は違う
しかし、残念ながら、インフルエンザは戻ってきたようです。
世界的にコロナ規制を撤廃し、海外との往来も復活しています。例えば、南半球オーストラリアでは冬の5月~8月に例年インフルエンザが流行します。
2022年は、例年になく早めに始まり、ピークが非常に高い波が起こりました*9。
次に、日本より先に寒くなったアメリカの状況を見てみましょう。
インフルエンザによる入院患者数*10を表したグラフです。つまり重症者です。こちらでも過去にない早い時期から、重症患者数の立ち上がりがエラいことなってますね。
はい、まとめると、2年間世界的にインフルエンザが流行せず、ウイルスに曝露される機会がなかった人類が、久しぶりに無防備にインフルエンザに接するとこうなるわけです。しかも、同時にコロナも増えてますからね。
日本では?
日本ではまだマスクをしている人が多くいますね。また、コロナ禍で衛生意識が高まりました。なので、アメリカやオーストラリアほどはならないでしょう。(希望的観測)
だって、コロナ対策で2年間インフルは封じ込めれたわけですからね。
しかしながら、海外からの観光客の受け入れも再開しています。なので、昨年までのように『流行なし』とはいかず、ある程度の波にはなるでしょう。
日本でも2年間インフルエンザに曝露していないので、高齢者を中心に重症者に注意が必要です。例年12月~2月に波が来るのでしたね。覚えておきましょう。
さいごに
いかがでしたか?
コロナも初期のころとは医療現場でも大きく景色が変わっており、大多数の若い世代にとっては『ちょっと厄介な風邪』程度にまでなっています。
しかしながら、かからないに越したことはないウイルスです。
今年はコロナとインフルエンザは海外では同時流行が見られています。
日本も徐々に規制は緩めてきており、海外との渡航も再開しています。しかし、あまりに恐れすぎることはありません。やることは、コロナ対策と同じです。
受験生などは、特にその基本対策を徹底して、身を守りましょう。
マスク、手洗い、3密回避です。
では、また(^^♪
*1:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jmv.28231
*2:https://www.journalofinfection.com/article/S0163-4453(22)00469-8/fulltext#cesectitle0005
*3:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/
*4:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9088340/pdf/JMV-94-2845.pdf
*5:https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-068302
*6:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2211029
*7:https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/
*8:https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2545-related-articles/related-articles-501/10789-501r08.html
*9:https://www.health.gov.au/initiatives-and-programs/influenza-surveillance-program