日本のバブル崩壊後の「失われた20年」については以前勉強しました。
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なぜ20年もの長い間日本は不景気が続いたのかというと、まず大前提でバブル崩壊の傷跡があまりに大きすぎたことです。
そして、その後、世界での出来事も影響しました。アジア通貨危機やリーマンショック、さらには東日本大震災。これらによりなかなか抜け出せない状況だったのでした。
今回はアジア通貨危機(1997)について振り返ってみましょう。
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ドルペッグ制
発展途上国や政状不安定な国では自国の貨幣価値というものはかなり不安定なわけです。そこで、アメリカのドルとの交換額を常に同じにするいわゆる固定相場制を採ることで自国の貨幣を安定させます。このことをドルペッグ(Dollar Peg)制といいます。
タイ政府は1ドルが26バーツとなるように市場に出回るバーツの量を調節していました。日本などは自然な売買で市場の流れに任せる変動相場制ですね。日本政府はここには介入しません。(もちろん相当な急変動があった場合などは為替介入します)
ドルペッグ制では、その国の通貨はドルと連動するので、急激に価値が下がったりしにくいのです。その安心感から外国からの投資を受けやすいというメリットがあるわけです。
GDPが低い国の方が経済成長する可能性が高いのでしたね?先進国としてもそういう国に安心して投資をしたいので、これはお互いにいい制度だったのです。
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途上国は高金利?
日本はとんでもないくらいの低金利時代ですね。銀行の普通預金の金利は0.001%ですね。100万円預金して1年後に金利が10円ですね。(笑)
ここで、経済を知る上で鉄則を覚えておきましょう。
基本的に先進国は低金利、新興国(発展途上国)は高金利です。理由は今発展している国はどんどん事業を大きくして儲けようとする人が多く、お金を借りたい人(=景気がいい)が多いのです。こういう場合は金利を高く設定しても借りてくれます。
また、金利が高いと、お金を貸すと高金利で返ってきますね?こうして、海外からの投資が増えるわけです。
逆に先進国では、成熟しきっていれば新たな経済成長も見込めません。あえて事業を大きくしようとしてお金を借りたい人がい少ない(=景気が悪い)ので、金利を低くしてあるのです。
日本の東南アジア進出
オイルショック後、日本は高度経済成長期が終わりました。その後、日本は自動車産業や電化製品に力を入れました。
一方のアメリカもオイルショックの影響で不景気が続いていました。ロナルド・レーガン大統領によるレーガノミクスで「強いアメリカ」をめざし、円安・ドル高になりました。
円安は日本にとって輸出のチャンス!これは何度もやりましたね。
そして日本は品質のいい国産自動車などを輸出しまくり儲けたわけです。気を悪くしたアメリカはプラザ合意を結び円高・ドル安の方向にもっていったのでした。
▼レーガノミクスとプラザ合意についてはコチラ▼
資源のない国、日本は輸出できないと困るわけです。しかし円高の状況では輸出で儲けるのは難しい。そこで、コスト削減のためにタイなどの東南アジアに進出し工場を作りました。
組み立て工場で経済成長
日本の自動車メーカーがタイに進出し生産を始めました。タイでの自動車産業が活発化しました。その自動車を輸出することでタイは経済成長するのでした。
但し、タイでは部品を輸入してきて組み立てて出荷するだけでした。「組み立て工場」として活躍したわけです。
1990年代のタイの経済成長率は9%を記録したこともあります。さきほどもやりましたが経済成長が著しいと高金利になります。この頃のタイでは定期預金で金利10%以上、インドネシアに至っては20%近くもあったので驚きです。
こうなるとこの金利で儲けようと海外の資本が入ってくるわけですね。途上国の不安定なはずのバーツですがドルペッグ制により急変動しないことから投資家には好まれました。
強いドル政策
この頃アメリカではビル・クリントン大統領の政権で強いドル政策(1995)を推し進めました。つまりドル高政策です。
振り返れば十数年前、レーガノミクスでもドル高政策をしていました。このときは失敗し、プラザ合意でドル安にしましたね。
ドル高になると、ドルペッグ制(固定相場制)を結んでいるアジア諸国も連動して影響を受けます。つまりタイではバーツ高になりました。
これは輸出には不利となり、タイの景気は後退しました。
チキンレース
ヘッジファンドとは簡単に言えば「手数料は高いけど、どんな手法でも儲けてあげまっせ」という投資信託会社です。(笑)
大富豪とかからものすごい額を集めて、攻めの運用をしてお金を儲けるわけです。
このヘッジファンドが、タイのバーツに仕掛けたわけです。
タイに投資していた資金を一気に引き上げ、タイ国内のドルが少なくなります。その上で、タイのバーツを借りれる限り借り集めてきてそれを売った(=空売り)のです。
タイ政府としてはドルペッグ制を維持するためには、売られた大量のバーツを自国で持っているドル(外貨準備高)で買って均衡を保つしかないのです。
しかし、投資されていたドル資本は引き上げられていますので、タイには残されたドルもいずれ底をつきます。こうして、タイ政府はドルペッグ制をやめ、変動相場制に移行しどんどん売られるバーツは暴落しました。(1ドル=26バーツ→207バーツ)
ヘッジファンドはその後も空売りを繰り返し、このチキンレース(英語ではchicken game)に勝ったのです。
自力で再生不能に至ったタイはIMF(国産通貨基金)と呼ばれる国連の専門機関の支配下に入りました。
他のアジア諸国への波及
バーツを大暴落させたヘッジファンドさんたちは同じようにドルペッグ制を引いているアジア諸国で現地通貨の空売り攻撃を仕掛けたのです。
こうしてインドネシア、韓国もタイと同じような状況に至り、IMFの管理下に置かれることになりました。
韓国では国家信用格付けが下げられていき、韓国の株価も暴落しました。1997年末には韓国は海外向けの国債(ドル建て)の返済の期限がせまったことでデフォルト*1寸前にまで行きました。
IMFの介入により財閥の解体や緊縮財政を行い2001年に借金を返済しました。実は日本は韓国がつぶれないようにかなり奔走したのですが、当然韓国ではそんな事実は知らされることもないでしょう・・・
韓国の国債と日本の国債
韓国はドル建ての国債を発行して海外からお金を借りているわけです。これはウォンの国際的信頼が低いためドル建てでないと国債を買ってもらえないということです。
また、外貨準備高が底をつき返済ができなくなるとデフォルトとなります。
よく日本は「借金まみれでそのうちつぶれる」という ”嘘” が言われていますが(笑)
日本の借金(=国債)は日本人から借りているので、「円建て」なのです。つまり、万一返済が無理になるような状況が来れば、「円を刷る」ことで返済できるので国がつぶれることは基本的にありません。
もちろんアホみたいに円を刷れば、「お札がただの紙きれ」になってしまうので、やりませんが。
まとめ
発展途上のアジア諸国ではドルペッグ制で自国通貨の安定させていた
アメリカのドル高政策に連動し、アジア当該国の通貨価値も高騰した
それに伴い輸出が減り、これらの国の経済は鈍化した
不景気なのに通貨価値が高いという”ひずみ”にヘッジファンドが攻撃
基礎体力のない国は経営破綻となった
日本は変動相場制であったことと、ドルを大量に持っていたため同じ攻撃をされても耐えしのぎ、逆にヘッジファンドを倒産させた。
*1:国債の返済ができなくなること