シリーズ②
福島第一原子力発電所というのは福島県大熊町・双葉町に位置する東京電力(TEPCO)の発電所です。福島県で東京のために電気を作っているわけですね。なぜ東京電力は福島に発電所を作ったのでしょうか?
少し振り返って学んでみましょう!
常磐炭田の衰退
常磐炭田は茨城県と福島県にまたがるこの炭田で、かつて首都圏に最も近い炭鉱として栄えていました。第二次世界大戦後、エネルギー革命がおこり、石炭ではなく石油に資源の需要がシフトしました。そして、この炭鉱は閉山することになりました。
職を失った炭鉱労働者や家族たちの雇用促進のために、常磐ハワイセンターというリゾート施設を建設しました。この話をもとにできたのが映画『フラガール』です。
東京電力の原子力発電所計画
時を同じくして、東京電力は原子力発電所を計画しており、発電所を作る人口の少なく、地盤がしっかりしていて、首都圏から遠すぎないところを探していました。高度経済発展の波に乗り遅れた福島県は産業誘致に躍起になっていました。そんなときに両者の利害が一致したというわけです。
ところで福島県は東京電力ではなく、東北電力に話をもちかけてもよかったのでは?という疑問も沸きます。実は東北電力は少し前に水力発電所を開発したばかりで電気供給は十分だったのです。
全会一致での賛成、そして誘致へ
1961年から福島県と東京電力で交渉が始まりました。そして、双葉町と大熊町の両町町議会で全員賛成となり話が進みました。
その後、地理調査が行われ、高潮や津波に備えるべくしっかりとした防潮堤・防波堤を作ることが決まりました。その後、1号機から順に6号機まで建設されました。
原子力発電のわかりやすい仕組み
原子力発電も基本的には火力発電と同じです。つまり熱によって水を温めてその水蒸気でタービンを回すことで発熱します。
原子力発電の場合は、ウランやプルトニウムが核分裂するときに生み出される莫大なエネルギーで起こる熱を利用します。
上図のピンク色は核分裂時のエネルギーで熱せられた高温水(放射線含)です。これがパイプ内を通り、水色の冷水を加熱し沸騰させます。その水蒸気でタービンを回し発電します。少しの燃料でも大きなエネルギーを得られることが特徴です。
タービンを回した水蒸気は、冷却されまた水に戻ります。この時の冷却に使われるのが海水なのです。当然海水はH2Oそのものではなく塩分などミネラルが多いので、直接ではなく管の中をとおして間接的に冷却します。冷やされた水は再び最初のところに戻ります。
もう一つ知っておきたい単語が制御棒です。これはブレーキだと思ってください。緊急時は自動でこの制御棒が核燃料の反応にブレーキをかけるのです。
このブレーキで核燃料の反応が止まっても冷却にはかなりの時間がかかるため冷却水を常に取り込む必要があります。そのため、海の近くに作られ海水を冷却水としていました。
東日本大震災と原発事故
実はこれより前から福島第一原発のマイナーなトラブルは頻発していました。
地震が起こったのは2011年3月11日 14時46分。このとき稼働中であった1~3号機は地震に伴い自動的に制御棒が入れられ緊急停止しました。
その後、土砂崩れや送電線のショートにより外部からの電源をすべて失いました。そこで非常用のディーゼル発電機が起動しました。ここまでは設計どおりでした。
しかし、想定外の津波が流れ込み地下にあった非常発電機は破壊されたのです。
全電源の喪失とメルトダウン
制御棒により原発自体は停止していますが、核燃料は崩壊熱と言って停止後の長い間熱を出し続けます。そのため冷却水が継続的に必要なのです。
しかしながら全電源を喪失してしまったため、冷却水をくみ上げるポンプも動かなくなりました。そうして過熱状態がつづき、ついに第一号機は炉心溶融(メルトダウン)しました。このときの温度は鉄をも溶かすので外部へ漏れ出す危険があるのです。
後の調査で1号機の核燃料はほぼすべてメルトダウンしており、第2号機でも7割以上がメルトダウンしていることがわかっています。さらには格納容器に穴が数か所見つかっており、メルトダウンからさらに進んだメルトスルー*1に至っている可能性が指摘されました。つまり、外部へ放射線が漏出したのです。
フクシマ50
福島第一原発事故後も現場に残り、作業に当たった50人の作業員を称賛の意味を込めて各国メディアが Fukushima 50 と呼びました。当然、放射能汚染リスクは非常に高いですが、事態を収束させるためにリスクを負って残ってくれました。
ぜひ映画でも Fukushima 50 ありますのでぜひご覧ください。非常に細かいやり取りなども見れて面白かったです。
最後に
国際原子力機関(IAEA)の調査では
と結論付けました。
この事故は、想定を超えるような大きな地震によりもたらされた巨大な津波により、電源喪失、さらにはそのバックアップの非常ディーゼル電源の喪失に至ったことが原因でした。
また、海水注入による冷却の判断が遅かったのも被害をさらに拡大させたと言われています。ここでの『海水注入』とは海水を直接原子炉に入れて冷却すべきだったということです。海水を直接原発内に入れると塩害で再使用できなくなり廃炉にせざるを得ないため判断にためらったのではないかと考えられています。
史上最大規模の東日本大震災で想定し得ない津波が発生し、それにより原発の補助電源を含む全電源を喪失したことが今回の事故の原因でした。
状況を掴むのが遅れ、現場の判断も遅れたため「人災」とする動きもある中、危険を顧みず現場に残って必死で作業に当たった人たちがいたことも忘れてはいけません。
*1:周りの鉄を溶かして貫通して外へ流れ出ている