コロナ感染症は5類化に伴い、一般の人には「見えない」ようになりましたが、今も流行期を繰り返しております。
ところで、感染症を起こすと体内では免疫反応が起こり異物排除の力が増します。このことから、もしかして感染中は免疫が高まってるからがんを抑えるんちゃうか?というのは昔からまことしやかに言われて来ました。
今回は、コロナ感染とがんについて面白い研究*1*2を学んでいきましょう。
はじめに
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、変異が起こりやすいRNAウイルスの1つです。
つまり、その遺伝物質はDNAではなく、RNAでできています。
新型コロナウイルスに感染したとき、どのようなことが起こるのでしょうか?
ウイルスは細菌と違って非生物なので、自ら増殖することができません。
そのため、人に感染すると、その細胞に侵入し乗っ取って、自らを複製させるのです。
で、今回の研究はこの体内で複製された新型コロナウイルスのRNAに対して起こる免疫反応がどうやら”抗がん作用”があるんじゃね?というものです。
ちなみに最後に触れますが、この機序から行くと、コロナワクチンも同じような効果を持つかもしれないと頭のいい人は考えるはずです。
進行がんの治療に?
今回の研究はアメリカ・イリノイ州のシカゴにあるノースウェスタン大学のチームによるものです。
重症コロナ感染者で誘導された特定の免疫細胞が、皮膚の悪性黒色腫、肺がん、乳がん、大腸がんに対して抗がん作用を持っていることを見つけたのです。
現段階では、この研究はまだ始まったばかりで、動物実験で得られたデータのみです。
しかし、今後研究が進み、ヒトのがんに対しても同じように抗がん作用を示すのであれば、また新たながん治療の道具が1つ増えることになります。
もちろん、現時点では、抗がん剤という専門の部隊があるので、抗がん剤の効かない進行がんや、抗がん剤の副作用で続けられないような症例に対する新たな選択肢という位置づけと考えられます。
単球とマクロファージ
白血球の1種に単球というものがあります。
通常の単球は、血管内をパトロールをしていて、『脅威』となるものはないかというのを常に探しています。
血管外に出ると、マクロファージに変化します。
その時に、抗原提示といって、「こんな顔した悪党が体内に入ってきたぞ!捕まえろ」という指名手配を行うのです。
すると、その悪党を見つけた他の免疫細胞が、捕まえて攻撃を開始するのであります。
では、がん細胞に対してはどう働くのでしょうか?
マクロファージが腫瘍に入り込むと、免疫部隊が集まってきやすいように新たな血管を作らせます。
感染症の戦い方としてはこれでいいのですが、がん相手では話が違ってきます。
がん細胞はこの新生血管から栄養を奪い増大し、さらにこの血管を利用し転移するのです。
このようなものを腫瘍随伴マクロファージと言います
特殊単球
コロナ感染して、細胞でRNA複製されるときに、体内で免疫反応が起こります。
このときの刺激で、"ヒラ"の単球がI-NCMsという名前の"特殊単球"へと変化するのです。
この特殊単球は、マクロファージに分化せず、単球のまま血管外に出られるようにCCR2というカギ(受容体)を作ることができるのです。
血管内を移動するだけでなく、血管外の組織へも移動ができる能力を有しており、腫瘍組織へと侵入することもできるのです。
で、腫瘍に対して免疫応答を起こすので、抗がん作用が期待できるのです。
将来の展望
多分似たように大きな炎症を起こすインフルエンザなどでも同じような現象が起きるのだろうと考えますが、実際、インフルエンザを使ったがん治療の研究*3もあります。
いずれにしても、がん治療のために患者をわざわざコロナやインフルエンザに感染させるのは倫理的に難しいでしょうね。感染後の合併症や後遺症のリスクもあるので。
となると、CCR2というカギを作れる特殊単球だけを取り出す必要があります。
重症コロナ患者の血液から取り出すのか、動物に感染させて取り出すのか・・
そして、それをヒトの体内に入れたときの拒絶反応なども確認が必要です。
現時点では、動物実験でいくつかのがんに対して抗がん効果を認めましたが、ヒトの腫瘍でも同じように効果が期待できるかも臨床研究で調べる必要があります。
ちなみに、もうお気づきかと思いますが、『コロナに感染して複製されたRNAに対しての免疫反応』ということは・・・そうです、コロナワクチンでも同じようなことが起こるわけです。
実際、マウスでは悪性黒色腫の腫瘍内にモデルナ製のコロナワクチンを打つと、抗がん作用があり、生存期間を延ばしたという研究*4が2025年2月に発表されています。
mRNAワクチンは”がん治療”をターゲットにした研究*5が次々に行われています。
今回のコロナ禍で、世界中の人が接種したことで、mRNAワクチンのデータは非常に豊富に集まり、光の部分と同時に強い副反応など今後の改良点や課題も短期間で見つかってきました。
10年後にはがん治療で大活躍しているかもしれません。
では、また(^o^)ノ