マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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『お弁当、温めますか?』

「お弁当、温めますか?」

「はい、僕のハートも温めてください」(妄想乙)

 

コンビニでお弁当を買うと、必ず聞かれるこのフレーズ。日本の”おもてなし”の心ですな~~

と呑気なことを言ってられないかもしれません(; ・`д・´)

今回は、「お弁当温めますか」のリスク*1について学んでいきましょう。

お弁当・お惣菜の頻度

中国の研究*2をご紹介します。この研究は2段階でなされています。

まず、1段階目は、3000人以上の中国人のお弁当・お惣菜などの使用頻度と心臓疾患の関連を調べました。

お弁当とうっ血性心不全

結論としてはお弁当・お惣菜を買って食べる頻度が高い人はより1.13倍うっ血性心不全になりやすいということがわかりました。

で、これについて何を疑ったかというと、プラスチック容器です。

当ブログでも何度か扱いました、マイクロプラスチックが体内で蓄積し生活習慣病を引き起こすという話にリンクしてきます。

で、中国の研究はそれを確かめるために第2段階の実験をしました。

ペットボトルの水は危険?

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加熱した容器

研究の第2段階では、プラスチック容器に熱湯を注ぎ、溶け出したプラスチック成分を、ラットに飲ませたのです。

熱湯を注いで、1分後、5分後、15分後の3パターンで実験をしています。

過去の研究*3によれば、プラスチック容器に入ったお弁当やお惣菜を3分間レンジで温めると、容器1㎠あたり422万個ものマイクロプラスチックが溶け出すことがわかっています。

レンジで3分チンすると・・・

さて、研究者らは、先ほどの熱湯を注いでマイクロプラスチックが溶け出した水をラットに3か月飲ませました。

すると、ラットの腸内細菌叢が変化し、腸内に炎症や酸化ストレスを引き起こすようになったと述べています。

心筋の障害

ラットの心筋を調べてみると、溶け出したマイクロプラスチックを含む水を飲んだラットは、飲んでいないラットでは見られないような心筋の障害や炎症性変化がありました。

ラットの心筋に炎症・障害

このような炎症性変化などが、心筋梗塞うっ血性心不全のリスクとなると考えられます。

ちなみに、熱湯を入れて1分、5分、15分ではラットの心筋障害への影響は有意な差はありませんでした。

つまり、プラスチック容器に熱い食べ物が1分入っていようが、15分入っていようが大きな違いはなく、少しの間でも入っていればリスクは上がるという意味です。

また、『慢性的な炎症』は長期にあると”がん”の発生に関連することは過去の記事で何度も解説してきました。

そして、若年性大腸癌患者の腸内細菌も慢性炎症を引き起こす”悪玉”菌が主体に入れ替わっていました。

若年性大腸癌と悪玉菌

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つまり、マイクロプラスチックへの長期的な曝露は”がん”のリスクにもなり得ると考えられます。

別の容器に移し替えて

これらの結果から、公衆衛生の専門家は次のようにアドバイスしています。

プラスチック容器に入ったお弁当やお惣菜はレンジで温めないで!

温めるなら、木などの容器に移し替えてからやって!

家庭内でも、作った熱い料理はプラスチック容器に入れないで!

プラスチック製の食器や箸、スプーン、コップの使用は避けて!

『プラスチック食器は避けて』

うーむ、こんなん、もう生活できませんわ( 一一)ノ

まだ不明な部分も

この研究ではまだ不確実な部分もあります。

例えば、マイクロプラスチック入りの水を飲んだラットの心筋に炎症所見が見られたのは事実ですが、ラットの体内からマイクロプラスチック成分を確認していないです。

また、1段階目でのプラスチック容器の惣菜やお弁当を頻繁に利用する人たちの聞き取りでは主に高齢者が対象でしたが、第2段階は若いラットを用いている点も議論の余地があります。

BPAとPFAS

そして、プラスチックには2万種類ほどの成分が含まれおり、BPA(ビスフェノールA)やPFASなどと言ったものは、がん発生生殖能に影響を与えることが知られています。

今回の研究では溶け出したマイクロプラスチックにどのような成分が含まれているか調べていない点も今後さらなる研究が求められるでしょう。

PFASと発癌性

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その他の研究

1つの研究だけをもって、説明しムダに不安を煽ることになってはいけません。

他の研究でも見ておきましょう。

プラスチック容器で水を温めると

2023年にアメリカでも似たような研究*4が報告されました。

ネブラスカ大学の研究者らがプラスチック製の容器に水を入れてレンジで加熱したら何十億ものマクロプラスチック・ナノプラスチック粒子が溶け出してきましたという結果でした。

つまり、今回の中国の研究と同じ結果で、お弁当をそのまま温めて食べると大量のマイクロプラスチックが体内に入り、炎症を引き起こしえるということです。

お弁当・冷凍食品で死産リスク↑↑

そして、我が国日本では、2022年に名古屋市立大学の研究*5があり、冷凍食品や市販のお弁当を食べる妊婦では、死産のリスクが2~2.6倍に上がるという衝撃的な内容でした。

これも、容器から溶け出したマイクロプラスチックが原因と見られていますが、物質の特定にまではいたっていません。

うーむ、やっぱり、お弁当チン!はよくはないですな。

さいごに

いかがでしたか?

プラスチック容器に熱い料理が入っていると、マイクロプラスチック成分が溶け出します。今回の研究ではそれらのうちどのような物質が溶け出すかまではわかっていないので、がん化や生殖能への影響などは不明です。

しかしながら、プラスチック容器に入った惣菜や弁当を頻繁に食べる人は、そうでない人に比べて、1.13倍心不全になりやすい”傾向”がわかりました。

ま、この数字を、普段の便利さと天秤にかけてどっちを取るかってのが現実的なとのですかな。

ラットでは、マイクロプラスチック成分の溶け出した水を飲み続けると心筋に炎症・障害が起こることもわかりました。

 

便利な生活を享受するのと引き換えに、このようなリスクを手にしてしまったのですね。

 

では、また(^^♪