マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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コロナにかかる人、かからない人

同じような生活をしていても感染する人、感染しない人がいるんですよね。今回はこれについていまわかっていることを学びましょう。

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パレートの法則

パレートの法則って聞いたことありますでしょうか?

これ、すごくって、世の中の多くの物はこの法則が当てはまることが知られています。

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パレートの法則

例えば、会社の売上の8割は、2割の”お得意様”が生み出しているとか、ある会社のお菓子の売上の8割は、2割のロングセラー商品によるものなどです。

税金の8割は2割の富裕層が支払っているというのも有名ですね。

実は、感染症においてもこの法則が当てはまることが報告*1されています。

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感染症におけるパレートの法則

感染者の多くは他人に感染させておらず、約20%の人がたくさんの人を感染させる、いわゆるスーパースプレッダーとなっているというものです。

スーパースプレッダー

過去には、麻疹(はしか)や結核やSARSなど、多くの感染症で、スーパースプレッダーの存在が確認*2*3されています。

2003年のSARSでは、香港やシンガポールでは約75%がスーパースプレッダーによる感染だった*4こともわかっています。ふむ、パレートの法則ですな。

そして、今回の新型コロナウイルスについてもスーパースプレッダーの存在が確認*5されいてます。

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東京医科歯科大学の研究

東京医科歯科大学の研究*6によると、関節リウマチ脳梗塞の既往、糖尿病があるコロナ患者は、体内でのウイルス複製が旺盛で、スーパースプレッダーになる可能性が高いことがわかりました。

他にも、高血圧やがん、高脂血症など複数の基礎疾患がある人もスーパースプレッダーになりやすいことがわかりました。

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基礎疾患がある人は感染対策徹底を

この研究自体は、時期的にオミクロン株患者は含まれていませんが、おおむね参考になると考えられます。

なぜかからない?

さて、ここまでは感染を広げやすい人について見てきました。しかし、同じ環境下におかれても感染する人としない人がいるのは今も謎なんです。

アメリカのCNBCの記事*7を見ていきましょう。

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自宅療養中、家族内感染は意外とまれ

英国のICLっていう名門大の免疫学:オールトマン教授によると、自宅療養中の家庭内感染は意外とまれだと複数の研究からわかっています。

もちろん、さきほど説明した通り、約8割の感染者は他人には感染させないというのもありますが、そもそも『かかりにくい人』の存在もわかってきています。

スーパーサイヤ人

コロナにかかりにくいスーパーサイヤ人の共通点については、今年の1月に、同じくICLから出された論文*8で報告されています。結論としては風邪を引くとコロナにかかりにくくなるというのです。

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風邪を引いた後はコロナにかかりにくい

風邪を起こすウイルスはたくさんあり、コロナウイルスもそのうちの1つです。

そしてコロナウイルスによる『風邪』を引くと、抗体ができるとともに、次回のためにT細胞を中心に免疫記憶をします。この風邪コロナウイルスに対するT細胞がたくさんある人は、新型コロナを発症しにくいという結果が出たのです。

こういったものを交差免疫といいます。

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風邪だけに頼るのはよくない

しかし、「よく風邪ひくから俺は大丈夫」っていう考えはよくなく、ちゃんとした予防にはワクチン接種だと研究者はまとめています。

ま、風邪のうちコロナウイルスによるものは20%しかないので、風邪をよく引くからと言って交差免疫だけに頼るのは危険ですね。

交差免疫のレベル

自宅療養者の濃厚接触になっても感染しない人は、過去の風邪感染による交差免疫免疫記憶が高く保たれているからだと言うております。

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濃厚接触でも感染しない理由

しかし、問題はなぜ一部の人だけこの交差免疫のレベルを高いまま維持できるのかです。これはまだわかっていないようです。

また、ワクチンによる効果が影響を与えている可能性があります。

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ワクチンによる効果は減弱

オミクロン株に対して、現行のワクチンは効果は落ちますが、それでも感染予防効果は有意に認められています。

濃厚接触になっても発症しない人は、主に風邪の交差免疫による保護と、ワクチン接種による保護との二重の恩恵があった可能性があるとまとめられています。

遺伝子の関係

感染しても、無症状の人がいたり、重症化する人がいたり大きな差があります。もちろん、高齢者や基礎疾患が多い人が重症化しやすいことは知られていますが、遺伝子レベルでも関係があるようです。

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HLAが免疫応答に関与

HLAというのは、“細胞の血液型”みたいなもので、『自分』と『それ以外』を認識し、私たちの免疫で重要な役割を担っています。

HLAの型により、膠原病や1型糖尿病や血管炎など多数の疾患の発症に関係していることが知られています。

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コロナ発症しやすいHLAの型

HLA-DRB1*13:02を持つ人は新型コロナに感染すると発症する可能性が非常に高いようです。この遺伝子は重症筋無力症との関連も指摘*9されています。

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理研『日本人はコロナに強いHLAを持つ』

そして、昨年末に理研が発表したのは、HLA-A*24:02を持つ人はコロナに対して強い免疫を持っており、日本人の6割がこの遺伝子を持っている*10というものでした。

このようにHLAと新型コロナの病勢にも関係がわかりつつあります。

さいごに

いかがでしたか?

濃厚接触者になっても感染する人、しない人がいるのは不思議ですね。感染者でも他の人に実際感染させるのは一部だけで、残りの人は誰にもうつさないこともわかっています。

また、過去のコロナウイルスによる風邪により作られた免疫が長く高い水準で保たれている人は発症しにくいことが分かっています。このT細胞の働きを利用したさらに効果が高く長続きする新しいワクチンの開発が期待されています。

そして、遺伝子側の影響でも新型コロナで発症しやすい人、しにくい人がいることもわかっています。

なかなか、情報量は多かったですがお判りいただけましたでしょうか?

では、また(^.^)ノ

*1:Galvani, Alison P.; May, Robert M.. “Epidemiology: Dimensions of superspreading”. Nature 438: 293–295.

*2:Lloyd-Smith, JO; Schreiber, SJ; Kopp, PE; Getz, WM (2005). “Superspreading and the effect of individual variation on disease emergence”. Nature 438: 355–359.

*3:De Serres, G; Markowski, F; Toth, E; Landry, M; Auger, D; et.al. (2013). “Largest measles epidemic in North America in a decade–Quebec, Canada, 2011: contribution of susceptibility, serendipity, and superspreading events”. J Infect Dis 207: 990–998.

*4:https://www.independent.co.uk/life-style/health-and-families/features/the-superspreaders-one-in-five-are-responsible-for-the-majority-of-viral-infections-9901102.html

*5:https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/6/20-0495_article

*6:https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220117-1/

*7:https://www.cnbc.com/2022/02/03/why-do-some-people-get-covid-while-others-dont.html

*8:https://www.nature.com/articles/s41467-021-27674-x

*9:http://www.medic.kumamoto-u.ac.jp/dept/immunoge/frame/HLA-D.html

*10:https://www.riken.jp/en/news_pubs/research_news/pr/2021/20211208_1/