マルチリンガル医師のよもやま話

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花粉とコロナの不思議な関係

アメリカでは今1日に7~8万人、イギリスでは4~5万人の新型コロナの感染が報告されています。アメリカでは死者も増えていますが、イギリスはそれほど増えていません。

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11月8日時点での状況

アメリカはワクチン接種が57.2%*1で止まっており進んでおりません。過去の黒人でのタスキギー梅毒実験や共和党支持者による反ワクチン・反マスク勢力が一定数いることがネックとなっています。

イギリスはワクチン接種が67.2%*2とアメリカより高いためか、感染者は多くとも死者は少なく保てています。(※11/09 日本接種率:73.7%)*3

今回はコロナと花粉に関する論文を覗いてみましょう。

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色々な説がある

『日本人にはファクターXがある』とか『既にみんな免疫を持っている』とかいう”神風”発言はあまりに希望的観測すぎるので信じ込むのはいけません。

例えばアメリカで日系だけ感染率低いですか?いいえ。

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諸説ありますが・・・

個人的には知人が秋からアメリカに行ったらすぐに家族全員コロナになったというのが数人います。医師でワクチン接種済みの”ブレイクスルー感染”でみな軽症でした。

つまり、日本人だからかかりにくいんではないですね、日本にいるから少ないんです。環境、周囲の感染対策、衛生観、これらが違うと考えられます。

また、日本でデルタ株が独自の変異をして自壊したなんてことも言われますが、仮にそうだとすれば、楽観視できません。11月8日以降、原則停止されていたビジネス関係者・留学生の新規入国を大幅に緩和しました。

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コロナ予測なんて意味がない

いずれにしてもコロナの感染予測なんて当てになりません。自分のできる対策を続けるのみです。

第5波はなぜ収束したのか?

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さて、”日本に神風”的な説は置いといて、花粉と風邪や新型コロナに関する論文を見てみましょう。

論文① from オランダ

インフルエンザの季節性

2020年のオランダからの論文*4をご紹介します。コロナが広がりだした頃の論文です。

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花粉と風邪・インフルは逆相関

インフルエンザは毎年冬に流行し、春にはなくなります。次にインフルエンザの流行は南半球へ移り、そちらの冬に流行するという感じですね。

インフルエンザの流行を妨げる因子もわかっています。

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インフルエンザや風邪を妨げる因子

紫外線が多いとウイルスが不活化しやすく、高温多湿では広がりにくいことがわかっています。気候により換気がしやすく、室内に閉じこもる時間が少ないことも感染を減らす因子に含まれます。

そして、最後に、注目されているのが花粉です。

花粉量と風邪受診者

花粉の飛散とともに植物にいるウイルスが広がります。そして、花粉が人間の体内に入ると、免疫機能が働き、人によっては症状が違えど花粉症が起こります。

アレルギーと免疫

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そこで、研究者らは花粉量と風邪症状での受診数の関係を調べてみました。

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論文の図1引用(日本語に改変)

2016年~2019年のオランダでの花粉量(水色)と風邪受診の患者数(オレンジ)をグラフ化したものです。オレンジのピークが来て落ち着いたころに水色のピークが来て、似たような周期ですね。

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論文の図2引用(日本語に改変)

次の図は花粉量は先ほどと同じですが、風邪症状での受診患者を先週と比べてどのくらい増えた(or減った)かを比べた図になります。すると、水色の花粉量がピークの時は、オレンジ色はすべてマイナスになっています。

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花粉が多いときは風邪が少ない

花粉の飛散が多いときは免疫機能が亢進しており、風邪やインフルエンザになりにくいという関連性を指摘する論文でした。

問題は、新型コロナについても同じことが言えるかです。

論文② from ドイツ

31か国のデータを利用

次は2021年1月に掲載されたドイツの論文*5で、5大陸・31か国からの花粉の状況と新型コロナの感染状況との関連性について書いた論文です。タイトルは↓↓

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タイトル:花粉飛散増加でコロナは増える

この研究のきっかけは新型コロナが世界中に広がりだした2020年3月は”暖波”の影響で北半球では広範囲に花粉の飛散が増えている時期にあたるという事実です。

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花粉の飛散が増えると感染増?

先ほど紹介したオランダの論文とは反対の方向になりますね。

そして、もう一点、抑えておく必要があります。それはインターフェロンです。

インターフェロンというものは抗ウイルス作用抗腫瘍作用をもつサイトカインです。

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花粉とインターフェロン

実は、吸い込んだ花粉が鼻の粘膜につくと、インターフェロンが抑制され、抗ウイルス作用が減じてしまう*6ということが分かっています。

この論文からわかること

この論文かなり長いので、簡潔にまとめてみます。

31か国で花粉飛散量の変化と感染の増減を調べて、さらに、ロックダウンの効果についても確認しています。

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リスク+なら花粉飛散期にはマスクを!

調べてみると花粉飛散量が多くなった後4日以内で感染増加がみられることがわかりました。先ほど書いたように花粉によりインターフェロンが低下し抗ウイルス効果が低下しているからと考えられます。

また、花粉の飛散量が100個/m3増えると、ロックダウンなしだと約4%、ロックダウンしても約2%感染が増加することもわかりました。

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花粉量が増えると感染者が増える

つまり、花粉量が増えたときは、ロックダウンしても感染者が増えている(=花粉量と感染者数に相関有!)が、増加率を半分にできる効果がある。

要は花粉飛散シーズンには、ハイリスク群の人たちはマスクをしましょう!そして、ロックダウンは感染拡大抑制にいい影響を与えていたという話でした。

日本の花粉

とりあえず世界的に見て花粉が増える時期に感染は増悪しやすいということです。

ところで、この論文では日本が出てこなかったので、こちらで日本の主な花粉について考えてみましょう。

スギヒノキは2月末~4月までが非常に多い時期で、確かに2020年も2021年もその時期は”感染の山”があります。

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日本の花粉とPM2.5

主に関東・東北では8月後半からブタクサが飛びますが、ま、夏の”感染の山”のタイミングに当たるっちゃ当たりますな。

ほな冬は?ま、元々呼吸器系のウイルス感染は低温低湿の冬に広がりやすい性質があります。また、偏西風の影響で中国からPM2.5が飛んできます。京都大学の研究*7ではPM2.5がコロナ感染リスクを上昇させることがわかっています。

PM2.5について

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さいごに

いかがでしたか?

1つめの論文では花粉飛散時期は免疫機能が亢進しており、風邪をひきにくいというオランダのみでのデータを用いた論文でした。

一方で、2つめは新型コロナに関する論文で、花粉飛散時期にはインターフェロンが低下し、新型コロナ感染者が増えるというものでした。こちらは31か国のデータを用いており、こちらの方が信頼性は高いと考えられます。

日本の第5波収束の理由にブタクサの飛散が落ち着いたというのがわずかながら関連があるかもしれませんが、、、ちょっと”弱い”ですね。笑

では、また(^.^)ノ

日本もまた12月頃増加する?

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