マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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転移しても治せる未来へ・・・

がんは”不治の病”と昔は言われていました。

昔は早期発見が難しく、進行がんで見つかることが多かったのも一因です。

医療機器の進化、検診の普及で早期で見つかるがんが増えたこと、日進月歩で抗がん剤が進化し、がんと戦えるようにはなってきました。

『がんが治せる時代』はもうすぐ来るのでしょうか*1

早期発見が重要

生涯のうちに2人に1人が『がん』と診断されます。

つまり、誰ががんになってもおかしくありません。がんの原因については1つのものということはなく、様々な複合的な要因の合せ技で起こります。

日本人のがんの2大原因は、感染と喫煙です*2。この2つは予防できるリスクです。

日本人のがんの原因

禁煙と感染症対策です。感染症でがんと関連するとされるものは、肝がん、胃がん、子宮頸がんなどが有名です。

ワクチンで予防できるものもあるので、これはしっかりと!

子宮頸がんワクチン

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過去には不治の病とされたがんも、医療・科学の発展で、戦える病気になっています。

もちろんがんの種類にもよりますが、一般的に言えるのは早期発見が何よりも重要です。

一般的には1個のがん細胞が細胞分裂を繰り返して、検診で見つかる1cm(がん細胞 10億個)までなるのに10~20年以上かかると言われています*3

年1回はがん検診を

倍→倍→倍と指数関数的にどんどん増えていくので、1cmから次に2cmになるまでは1~2年しかかかりません。

この2cmまでに見つければ早期がんである可能性が高いので、年1回のがん検診が推奨されているのです。

がん保険のひみつ

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転移について

がんの厄介なところは、どんどんと進行し、血液・リンパ液に乗って他臓器へ転移することです。

他臓器への転移があれば、Stage IV非常に予後が悪いのです。血液中などに目に見えないがん細胞がウジャウジャいて全身を駆け巡って次の移住先を探している状況です。

通常の細胞は、増殖はコントロールされており、異常に多くならないようにプログラムされています。

がん細胞は無限に増殖できる

しかし、がん細胞は、細胞増殖因子を多量に分泌することができ、無限に増殖できるようになっているのです。

代表的なものが、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というもので、これにより新生血管をどんどん作って、十分な栄養を供給してもらい大きくなります。

このようにがん細胞はどんどんと新生血管を作り、成長していくのですが、あまりの速さにその新生血管の構造は脆弱なのです。そのため、血管があるのに血流不全になり、低酸素状態となります。

転移のメカニズム

低酸素状態では接着分子という、細胞と細胞をひっつけるのりが低下してしまい、がん細胞同士が離れて動きや回りやすくなります。これにより血流などに乗って他の臓器に転移するのです。

ATP枯渇

転移が、がん治療を難しくしている原因です。

がんが転移した患者の9割以上はその転移が原因で亡くなります。

それではがんを転移させないようにする予防法を考えよう!これが今回のテーマです。

英国・サルフォード大学*4の研究者らは、転移する際にエネルギー源となるATPを枯渇させることが効果があることを見つけました。

しかもそれに使うのは既に使用されているドキシサイクリンというテトラサイクリン系の抗生剤なのです。

皮膚科でニキビの治療などに使われます。

ドキシサイクリンに抗がん作用

テトラサイクリン系の抗生剤はミトコンドリアを破壊することが知られており、がん細胞のミトコンドリアを破壊してATPというエネルギー供給を経てば転移を阻止できるというものです。

実は、すでに、このドキシサイクリンが子宮頸がん卵巣がんに対して抗がん作用があること*5*6が確認されています。

逆に、ドキシサイクリンが大腸がんと転移を促進するのでは?というインドの研究*7もあるのもまたややこしい話であります。

5倍力価に

ドキシサイクリンを5倍強くして、がん細胞に使うのですが、この濃度では、抗生剤としての効果は失われます。

つまり、菌を殺さないので、常在菌が死んでしまったりとか、抗生剤耐性について心配する必要なくがん治療に使えるのです。

これから臨床試験を行い、実際に狙い通りがん細胞のミトコンドリアを破壊しエネルギー供給を絶ち、兵糧攻めで転移を防げるのかを確認していきます。

うまく行けば、がん治療は大きく変わるでしょう。

もちろん効果と同時に安全性も重要で、5倍力価にして副作用が増えないかなどの確認もしていきます。

さいごに

いかがでしたか?

日進月歩の医療分野ですが、既存の薬を少し変えただけというのは、安全性が担保できているのはメリットとして大きいです。

いずれにしても、高齢化社会でがん患者は増えています。それだけでなく、食事の変化、公害など環境の変化、農薬、放射線・・・

あらゆるものの合せ技で、がん患者はさらに増えており、若年性のがんも増えてきています。

何よりも重要なのは、早期発見です!

かならずがん検診を受けて、早期発見!

その上で、今回のような【転移予防】できるようになれば、がんも怖い病気でなくなる日が来るかもしれません。

では、また(^o^)