マルチリンガル医師のよもやま話

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【サク読み】花粉症が増えている理由とは

大学生くらいまで花粉症はなかったと思っているのですが、ここ10年くらいは年に4-5日ほどひどい花粉症で目のかゆみと鼻水で辛い日があります。

昔は気づいてなかっただけ?かもしれません(笑)

ところで、花粉症患者が増えているなんてことをよく耳にするわけですが、今回はこの辺学んでいきましょう。

突然発症する

今まで花粉症がなかった人が急に、「なんか今年は目がかゆいぞ」っていうパターン、これ普通によくあるんです。

花粉が鼻や喉や目の粘膜に触れると、たんぱくが取り込まれ免疫反応が起こります。その後、B細胞によりその花粉に対する抗体が作られます。

抗体の中でもIgEと呼ばれるものがこのアレルギー反応にかかわります。で、このIgEがある閾値を超えると花粉症を起こすと考えられています。

花粉症の発症

つまり、以前から花粉を食らっていても、大丈夫だったけど、あるときIgEがたくさん作られたときを皮切りに発症することで、アレルギーコップなんて言い方もされます。

コップに水が少しずつ注がれていき、ある限界を超えると水が溢れ発症するということです。

この理論が100%正しいかはわかっていないことと、閾値自体も個人差があるため予測ができないというのが現状です。

アレルギーを詳しく

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幼児期の感染

花粉症の発症にIgEがかかわるという話が先ほどありましたが、このような抗体を作る免疫は液性免疫と呼ばれます。もう一つ人間に備わっている免疫は細胞性免疫といいます。

どちらの免疫を誘導するかはヘルパーT細胞という司令塔の型で決まります。Th1とTh2がありまして、Th1が細胞性免疫、Th2が液性免疫に関与します。

ヘルパーT細胞

そして、アレルギー体質の人はTh2が優位に働くと考えられておりまして、その理由として細胞性免疫を使う機会が少ないからでは?という考えがあります。

すなわち、いろんなものに感染する小児の時に、清潔な環境や、感染予防などにより感染しにくくなり、細胞性免疫が働く機会が少ないのが一因では?というものです。これは衛生仮説*1と呼ばれています。

昔は結核が国民病といわれていましたが、めっきり減りました。これもTh2が優位な日本人が増えたのに関係あるのでは?とも言われています。

他にも幼児期に犬を飼っていると喘息になりにくいなんて研究*2もあります。

要はあまりに清潔にしすぎるのはよくないよ、ってことですね。

実は公害?

もちろん衛生状態がよくなり、感染症予防などの知識がアレルギー患者を増やしたという一面もあるかもしれませんが、忘れてはいけないのは環境の変化です。

森にある木を大きく2つに分けると、広葉樹針葉樹に分かれます。葉が丸く大きいものが広葉樹、葉が細いものが針葉樹です。

広葉樹と針葉樹

もともとの日本では広葉樹が90%を占めていたのですが、高度経済成長期に建築用木材の需要増大からスギやヒノキなどの針葉樹を大量植樹しました。

すると、現在は半分が針葉樹にまでなったのです*3

ところが、高度経済成長期が終わり、その後、海外から安い木材が手に入るようになると植樹されたスギやヒノキはそのまま放置されるようになりました。

大量植樹された針葉樹の運命

これらの木は樹齢が30年位になると、子孫を残す段階に入り、特に大量の花粉を飛ばすようになるので、それがちょうど現在にあたるわけです。

スギ花粉症は日本で一番多い花粉症ですが、スギがないヨーロッパや中央アジアでは当然まれな疾患なのです。

そのスギ花粉の大量飛散の原因がこれだったのなら、まさに公害ですな。

都市化の影響

車の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)やオゾンに長期曝露されると、花粉のアレルギーの閾値が下がり、花粉症を起こしやすくなるといわれています。実際、幹線道路沿いに住む人は花粉症になりやすい*4ということもわかっています。

ただし、ほかにもPM2.5による影響や、道路粉塵、たばこの煙など他の因子による影響も考慮しなければいけないのでまだ確定的と言うわけではなさそうです。

住居も昔ながらの日本家屋は通気性がよく、冬は寒いんですが、最近の家は気密性が高く、換気が不十分になりやすいです。それにより、一度花粉が入ったらなかなか出ていかないということも指摘があります。

スギを伐採?

だったら放置されたスギとかを伐採すればみんな花粉症に悩まされないんでないでしょうか?

あるいは品種改良で花粉を飛ばしにくいスギに植え替えればよいですね?実際、林野庁のHP*5を見ると、花粉の少ない or 無花粉のスギの品種についても掲載されています。

ところがこれには莫大な人の手が必要になります。しかし、高度経済成長期が終わり、さらには海外から安い木材が十分手に入る日本で、林業に携わる人の数は・・・

こういった事情で、なかなか進んでいないのが現状です。

 

では、また(^.^)ノ