マルチリンガル医師のよもやま話

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日本のヒートショック、実は

冬季が一番死者が多いことは以前から知られています。

もちろん、気温低下・乾燥によりインフルエンザなどの呼吸器感染症が流行することも一因です。

それと、もう一つ重要なのは、冬の心臓関連の死亡です。

今回は日本のヒートショックについて学びましょう。

ヒートショック

ヒートショックという言葉はもう有名で説明の必要もないでしょう。

気温が下がると血圧は上がり、気温が上がると血圧が下がります。急な気温の変化により血圧の乱高下が起こり、脳卒中や心筋梗塞を引き起こします。

ヒートショックとは

冬になるとTVでも特集され、入浴で体が温まった後、脱衣所が寒すぎて・・・ってパターンは有名ですね。

日本では毎年、1万7000人くらいがヒートショックで亡くなっており、これは室内での高齢者の死亡原因の1/4を占めています。

それでは少しクイズです。

クイズ

えっ?簡単すぎました??笑

答え合わせ

さぁ、答えを見ていきましょう。

まずは日本の県別のヒートショック死者数は・・・

東京都健康長寿医療センター研究所のデータより

これは純粋なヒートショックだけでなく他の要因の心肺停止も含まれてはいますが、香川県がトップ、次に兵庫県なんです*1。(人口比です)

で、沖縄と北海道が一番少ないんですね!

さらによーく見ると面白い傾向がわかります。雪が多い極寒地域よりもマイルドな冬の地域の方が多いんです。これ重要。

次に国別の比較を見てみましょう。

日本の高齢者溺死は圧倒的に多い

国立保健医療科学院の資料*2によると、上図のようになります。

お隣の韓国と比較しても圧倒的ですね。

これについては、日本特有の入浴文化が大きな理由です。文化的に近い韓国でも基本はシャワーのみで自宅で浴槽につかることは極めてマレです。

冬の長風呂危ないね~

日本のヒートショック

さて、ここまでの状況をまとめると・・・

日本の中でも地域によりヒートショックの多さに差があり、寒い地域ではなく、少しマイルドな冬の地域にヒートショックが多いことがわかりました。

ここまでのまとめ

さらに、国別でみても日本は他国の追随を許さない独走態勢でした。こちらは入浴文化が日本特有だからです。

外気温が低いとヒートショックが起こりやすいことは間違いありませんが、北海道では少ない・・・

ということは、そうです、家の作りです。

北海道や極寒の地域は防寒対策がすごいですね。二重窓など。

冬の寒さが厳しい韓国もオンドル(温突)という床暖房が昔からありますね。

こたつ文化

日本の冬と言えば・・・昔はこたつに入ってみかんを食べるとかでしょうか。

そうなんです、日本は囲炉裏やこたつなど、温かいスポットを作ってみんなで団らんする文化がありました。採暖文化です。

採暖と暖房

一方で、欧米の国ではセントラルヒーティングと言って要は全館暖房みたいなものが普通です。これにより、部屋ごとの温度差がないのです。

日本は廊下が寒すぎるなんてことよくありますね。これがヒートショックに関係します。

北海道の家は防寒対策しっかりで、セントラルヒーティングですね。だからヒートショックが少ない。

では、なぜ日本の他の地域では採暖なのでしょうか。

『コストが高い』『もったいない』

理由の1つは初期費用とランニングコストが高いからです。

この辺ももう少し深堀しましょう。

風通しのよさ

会社や組織で『風通しのよさ』は非常に重要な因子となりますね(笑)

日本は海に囲まれた島国で、夏は高温・多湿です。

エアコンなどのない昔、この蒸し暑い夏を少しでも快適に過ごすためには風通しのよさが重視されました。逆に言うと冬は隙間風が入って寒いのです。

夏を重視か、冬を重視か

欧州など北半球の大陸では冬の極寒への対策が昔からしっかりとあり、英国などでは冬に室温が18℃を切ってはいけないと決まっています。

このためには部屋の気密性断熱性をしっかりと担保した家づくりがなされています。

また地球温暖化で省エネへの関心が高まり、なるべくエアコンを使わなくていいように、断熱などの基準も決められています。

気密性+断熱性+全館暖房

気密性と断熱性もしっかりしているので、熱が逃げていかずセントラルヒーティングでも暖房費が異常に高くならないというのが海外の事情ですね。

次世代省エネ基準

日本でも遅れて1999年に次世代省エネ基準という、初めて家の断熱化基準が制定されました。ま、これも欧米の基準でいえば、一番最低の基準で作られています。

日本の家は断熱ショボすぎ

そもそも20年以上前に決められた古い基準を今も『次世代省エネ』とか言うている時点で、お察し・・・w

日本で断熱性や気密性について規制などの動きが起こらないのは色々事情があるようです。

大手ハウスメーカーの軽量鉄骨

CMでしょっちゅう名前を聞く大手ハウスメーカーは耐震性・耐久性に優れた軽量鉄骨で作ります。鉄は温度により膨張したり収縮したりします。

つまり、季節により気密性が変わります。

気密性(C値)を厳しく設定すると、これら大手ハウスメーカーは冬のキツい状況で基準をクリアしないといけないのです。

気密性の基準は削除された

そういった所からの圧力があった?かは不明ですが、省エネ基準から気密性の項目は削除されました。

大手以外のハウスメーカーからしても、基準は緩い方が都合いいのはわかりますね。

一方で、断熱性(UA値, 断熱等級)も追求すると、こちらも価格がどんどん上がります。

日本の景気、今どうですか?

ただでさえ木材価格が上がっている中、断熱性能を上げて建築費が高くなると、家を買う人が減る、つまりハウスメーカー困る。

また、ルールを厳しくしていくと小さな工務店などがついていけず廃業となってしまうこともあり、日本ではあまり進まないようです。

さいごに

いかがでしたか?

誰もが格安で医療サービスを受けられる国、日本。

そんな国なのに、ヒートショックは圧倒的に多いという。

理由は、浴槽につかる文化、昔からの家のつくり、採暖文化などなど、あとは政治的なもんも絡んでいたのですね。

ヒートショックがイヤなら高い金を払って気密性・断熱性をupして全館空調するしかないってことですな~

では、また(^^♪