マルチリンガル医師のよもやま話

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新型コロナの薬を見てみよう~アビガン、レムデシビル~

3密とは密閉・密集・密接のことですが、ネットでは「集・近・閉を避ける」という言い方もあるそうです。中国の国家主席、習近平を意識しています(笑)

韓国の梨泰院(이태원 / イテウォン)にあるクラブでクラスターが見つかりました。これは日本にとっても重要な話です。

「新規感染者数0人」が続き、一足先に以前の生活に戻った韓国でしたが、今回のコロナさんは相当しぶといことがわかりました。クラブやカラオケなどの集・近・閉は引き続き避けなければいけないことがわかりました。

日本も一気に自粛を緩解するときも、注意が必要で、相当な長期戦になりそうですね。

さて、今回は新型コロナ感染症の治療についてまとめてみたいと思います。

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特効薬はない

まず、細菌感染症と違ってウイルス感染症には特効薬はありません。自分ので力で治すものと考えてください。しかし特定のウイルスには薬があります。おなじみのインフルエンザなどがそうですね。

残念ながらコロナウイルスには特効薬はありません。なので、今まで使われた他のものに効く薬で代用できないか?というのが今の状況なわけです。

 

COVID-19

もう皆さんご承知の通り、大部分の人は無症状か軽症となります。軽症といえど、インフルエンザワクチンを打ってインフルエンザになった人とは比べものにならないくらいしんどいようです。

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コロナウイルス感染

コロナウイルス(SARS-CoV2)は飛沫感染接触感染により体内に入ります。そしてウイルスは自分の力で増えることができないので生物の細胞に複製してもらうのでしたね?(上の図は肺への飛沫感染をイメージして作りました)

ウイルスについてはコチラ

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 なのでヒトの細胞に入り込み(感染)、増殖してもらうのです。基本的には自分の持っている免疫で増殖したウイルスを抑え込んで回復するというのが一般的なウイルス感染症です。

コロナウイルス自体は一般の風邪のウイルスの1つですが今回の新型コロナウイルスはフルモデルチェンジをしてヒトはそれに戦う武器(抗体)を持っていないのです。

 

サイトカインストーム

サイトカインというのは簡単に言えば「外敵に攻撃しろ」という指令みたいなものです。普通は免疫細胞がサイトカイン=”攻撃命令”を出してウイルスと戦います。

ただ、今回のCOVID-19重症例では、このサイトカインが暴走して過剰な炎症が起こってしまっているようです。それにより肺が”焼け野原”になってしまうのです。

つまりコロナの重症化はウイルスに直接やられたというよりも、ウイルス感染により自分の免疫が過剰に反応しすぎたということになります。

この重症化する人たちの特徴については過去にも何度も書きましたが、高齢者、高血圧、肥満、糖尿病、免疫不全などがある方はリスクが高いことがわかっています。

 

薬を知ろう

さっきウイルスが体内に入って感染し増殖する過程のお話をしました。では、それらの各段階に対応していきましょう。

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まず、体内に入るのを防ぐのは手洗いと消毒が基本ですね。マスクも限定的ではありますが効果があるとされます。

手洗いは石けんならば固形だろうが、フォームだろうが何でも構いません。ビオレである必要はありません。(笑)石けんに含まれる界面活性剤がウイルスの膜を破壊し、ウイルスは”死ぬ”わけです。

さて、ウイルスが体内に入ってしまった後は、基本的には自分の免疫で治すのですが、薬の入る余地を見ていきましょう。そう、ウイルスが細胞内に入るのを防ぐのと、増殖を防ぐの2つ方法がありますね。

 

RNAウイルス

コロナウイルスはRNAウイルスでしたね。

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インフルエンザやHCV(C型肝炎ウイルス)やHIVウイルス、エボラウイルスも同じRNAウイルスです。特徴としては不安定で変異しやすいことでしたね。

もう一度復習したい方はコチラ

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そこで、同じRNAウイルスの薬が使えないだろうか?と考えたわけです。

 

アビガン

これは以前、記事で紹介しましたが、『インフルエンザの最後の砦』の薬でした。

アビガンについてはコチラ

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元々インフルエンザの新薬として日本で作られましたが、なんと動物実験で催奇形性がわかったのです。それは副作用としては重大なので使いたくありません。

しかし、既存のタミフルなどとメカニズムも違うので、もしものときの選択肢として置いておきたいので、新型インフルエンザや他の薬で効果がない場合に限って特別に使用を認められる薬として位置づけられていました。

しかし、それは”インフルエンザ”の場合で、コロナウイルスの場合は認められていないのです!

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今回、中国でコロナウイルスに対しての臨床研究で効果があるとされ、日本でも現在臨床研究を行なっています。

アビガンは軽症から重症への増悪を防ぐ効果を期待されています。早く使いたいのですが、元々お蔵入りであり、海外で承認された薬ではないので「特例承認」ができないのです。なので、国内の臨床研究の結果を待っているところです。

催奇形性があるので、妊娠可能年齢への投与はかなり慎重になると思われます。(内服終了後1週間の性行為は控えるようにとされています)

 

レムデシビル

こちらは海外で既に承認された薬で、「先進国でコロナにも効果を認めた」ということで日本で5月7日に特例承認されました。

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これはアメリカのギリアド社が作ったエボラの薬です。他のRNAウイルスにも効果があることがわかっています。こちらは重症患者の7割で改善を認めたと報告されています。

 

クロロキン

こちらはアメリカで一時かなり話題になっていました。

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こちらは蚊を通じて移るマラリアという原虫の薬なんです。

他にも全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫疾患にも使われます。要するに自分の免疫が過剰に働く病気に使われています。

おっ、サイトカインストームも状況が似てるので使えるのではないか?といわけでSARSのときに使用されました。実際、ウイルスの増殖抑制は認められています。

副作用が問題で心臓毒性と網膜症、なんと怖い。実際ブラジルでは死亡者が多数出ており治験は止まりました。

 

カレトラ配合錠

これはAIDSの原因となるHIVウイルスの薬です。

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実際今回の新型コロナウイルスにも使われたのですが、これと言って効果がわからず、候補からは落ちそうです。

 

オルベスコとナファモ

オルベスコ喘息治療の吸入ステロイド薬なんです。普通は気管支の炎症を鎮めるのがステロイドの作用なのですが、このオルベスコに限って新型コロナウイルスの増殖抑制効果があることがわかっており、使われています。ただしメカニズムはわかっていません。

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ナファモスタットは膵炎に使う薬です。膵炎は膵液が周りの臓器を溶かしてしまう病気です。最後は焼け野原になるのでコロナの重症化肺炎も状況が似ていますね。

で、さらに、この薬は今まで紹介した薬と違って、ウイルスが細胞内へ入るのを防ぐ効果もあるんです。実際MERSで効果があったことが知られています。

東大がアビガンとナファモスタットの併用療法について治験を行なうと発表していました。結果を待ちましょう。

 

まとめ

いかがでしたか。いろんな薬の名前が連日TVに出てきますね。

実際、期待されているのは主にアビガンレムデシビルの2本柱でしょうか。それに追加でオルベスコやナファモスタットも考えられるのかな~なんて思っています。

アビガンが一般に使われるようになったときに「安倍首相、古森会長*1はお友達」とかくだらん報道しないでくださいね~メディアさん。(笑)

 

ではまた(^^)

*1:富士フイルム会長