インフルエンザワクチン不足!なんてニュースを見かけますね。
コロナワクチン大量生産で材料が足りないのが原因です。さて、今回はインフルエンザワクチンについて少し詳しくなってみましょう♪
インフルエンザ
昔々、ウイルスなんていう目に見えない存在が知られていない頃、冬に流行る呼吸器感染症の原因は天候と考えられていました。天の影響という意味で influenza (イタリア語でinfluence)と呼ばれていました。
1892年に北里柴三郎らがインフルエンザが流行していた時期に患者から見つけ培養した細菌が”病原菌”だと考えられ*1*2インフルエンザ菌と呼ばれました。
そして、1918年のスペイン風邪の時に、このインフルエンザ菌を元にワクチンを製造しましたが、効果はありませんでした。
そして北里の死後2年が経った1933年ついにその原因が”ウイルス”という細菌とは違ったものであることがわかり、インフルエンザウイルスが知られるようになりました。
つまり、インフルエンザ菌は、こういった歴史的背景から今もそう呼ばれていますが、インフルエンザとは関係がありません。中耳炎や副鼻腔炎や肺炎や髄膜炎の原因菌です。
現在はこのインフルエンザ菌に対するワクチンはHibワクチンと呼ばれ、新生児が接種していますね。
▼インフルエンザ予防▼
インフルワクチン製造
さて、話はインフルエンザ"ウイルス"に戻って、そのワクチンについてです。
ご存知の通り、インフルエンザワクチンは鶏卵を用いて製造します。受精卵に小さな穴をあけ、尿膜腔というところにウイルスを注入します。
要は卵に感染させて、卵の中でウイルスを複製させるのです。ウイルスは生物でなく、遺伝子情報の塊なので、自ら複製できず、感染することで複製してもらうのです。
2日間、卵を温めたりして増殖させ、尿膜腔液を回収すると、1回分のワクチンの量ができるのです。つまり、卵1つからワクチン1回分です。
しかし、このまま打つと、普通に感染してしまうので、エーテル処理を行って不活化し感染しないようにします。これが不活化ワクチンです。
全過程で半年ほどかかります。
新しい製造法
卵を使うので、重度の卵アレルギーの人には使いたくはないです。また、1つの卵から1回分しか作れないので大量生産に向かないですね。
これらの問題点を克服しようとするのが卵を使わない製法です。これはウイルスを使わず、遺伝子情報を使い、VLPつまり”ウイルスもどき”を作ります。
インフルエンザウイルスの遺伝子情報をバキュロウイルスに組み込んで蛾の幼虫に感染させてワクチンを作る方法があります。既にアメリカでは実用化されています。
またこれは、塩野義製薬がコロナワクチンの製法に採用していますね。
他にもタバコの葉に遺伝子情報を組み込んで作る方法もありますが、こちらはまだ実用化されていません。これらの方法は不活化処理が不要なので1-2ヶ月と短期間で製造できます。
もうお気づきかもしれませんが、今回のコロナのワクチンで初めて使用されたmRNAワクチンも考え方は同じです。ポイントは自分の体内でウイルスもどきを作らせて免疫を働かせるという所ですね。
なので、さらに製造期間が短いんです!
▼新型コロナウイルスワクチン▼
インフルワクチンの効果
ワクチンの効果を表す有効率というのはもうおなじみですが復習しておきましょう。
ワクチンの有効率と言うのは、接種した人たちと接種していない人たちを同じ人数で比較して、ワクチン接種によりどのくらいの人が感染(有症状で陽性)を免れたかというものです。
インフルエンザワクチンの有効率は67%と報告*3されています。
また、感染した場合でも重症化を抑制*4*5することがわかっています。
接種義務化
実は過去に日本でも、児童のインフルエンザワクチンは接種義務となっていました。
1977年から予防接種法により、11年間集団接種されていました。接種後の副反応で高熱が出て、後遺症が残ったという訴訟が相次いだこともあり、1994年以降は任意接種となりました。
すると、児童の接種率は1ケタ台にまで落ちました。
慶応大の研究*6によると、接種率が落ちたことで学級閉鎖の日数が増加し、高齢者のインフルエンザによる死亡者が急増、インフルエンザ脳症で亡くなる児童が有意に増えました。
そう、子供たちの接種を辞めると、高齢者の死者も増えたんです。つまり、高齢者を守るには高齢者自身がワクチンを打つだけでなく、感染自体を減らさなければいけないということです。
現在、『若者もコロナワクチンを』と言う専門家らの意見はこれと同じですね。
接種推奨の対象
今、日本で使われるインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、効果持続は数か月ほどです。だから、毎年打っています。
▼コロナワクチンは追加接種不要▼
インフルワクチンの定期接種が推奨されているのはどういった人でしょうか。
ま、誰でも想像つくのは、インフルで死ぬ可能性が高い人ですね。ですから、高齢者や免疫不全患者、慢性の基礎疾患がある患者ですね。
医療従事者はこれらの人に移さないために、また、その時期に大量の出勤停止が出て病院業務に影響が出ないように推奨となっています。
インフルエンザ脳症は5歳以下の子供に起こりやすく、最悪死に至ります。そのため、6ヶ月以上5歳未満も接種のメリットは大きいとされています。
今年のインフルエンザ
気になるのは今年インフルエンザが流行するのか?ですね。こんなもの誰にもわかりません。笑
昨シーズンは流行なしでした。南半球では今年の冬もインフルエンザの流行はありませんでした。しかし、バングラデシュやインドでは今年インフルエンザの流行があった*7のです。
また、去年はRSウイルスの流行もなかったのですが、今年の夏は日本国内で大流行があったのは記憶に新しいですね。こう考えるとウイルス干渉は期待できないかもしれません。
▼RSウイルスも流行▼
RSウイルスと同じように考えると、去年流行しなかったことで国民のインフルエンザへの免疫が落ちている可能性がありこの冬は大流行となる可能性があると、日本感染症学会*8はインフルワクチンの積極的推奨としています。
さいごに
インフルエンザが今年日本で流行するかどうかは誰にもわかりません。
コロナ禍以前の冬よりはしっかりした国民の感染予防マインドによる効果で流行しないかもしれないです。しかし、RSウイルスの夏の流行を考えると、インフルエンザも流行してもおかしくない状況です。
とりあえず、大流行に備えて、なければラッキーくらいの気持ちでいるのがよさそうです。
では、また(^.^)ノ
*1:田口文章, 滝龍雄, 会田恵、「インフルエンザ菌:だれが最初の発見者か」『日本細菌学雑誌』1995年 50巻 3号 p.787-791
*2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb1944/50/3/50_3_787/_pdf
*3:Osterholm, Michael T; Kelley, Nicholas S; Sommer, Alfred; Belongia, Edward A (2012). “Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: A systematic review and meta-analysis”. The Lancet Infectious Diseases 12 (1): 36-44.
*4:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X21005624?dgcid=author
*5:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X18309976?via%3Dihub
*6:https://academic.oup.com/cid/article/53/2/130/286341
*7:https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=44#02