マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

MENU

【サク読み】ドーパミンとギャンブル依存

食欲の秋というのは、セロトニンという物質の影響があることは前回お話をしました。

食欲の秋は太りやすい!

www.multilingual-doctor.com

ホルモンやら神経伝達物質は知れば面白いものが多いです。今回お話しするのは報酬系と呼ばれる神経回路についてです。

また、報酬系の暴走で起こる、ある疾患についても学んでいきましょう。

f:id:jonny1205:20211104122119j:plain

ドーパミン

ドーパミンという名前はよく聞くと思います。

医療の臨床の現場でよく使うのは救急搬送で来たショックバイタル(重篤な血圧低下など)の患者に使用するのが一番最初に思い浮かびます。

f:id:jonny1205:20211104124758p:plain

ドーパミンの作用

また、ドーパミンの量が減るとパーキンソン病で体が動きにくくなったり、また過剰では統合失調症などの精神疾患に関連すると考えられています。

実際、パーキンソン病の治療にはドーパミンを増やす薬を使い、統合失調症にはドーパミンを抑制する薬を使います。

今回のテーマに関係するのは黄色いマーカーで示した報酬系です。

報酬系とは

報酬系とは、端的に言うと快楽・快感・幸福を司る神経系のこと*1です。ここに、ドーパミンが関与しています。

f:id:jonny1205:20211104130446p:plain

報酬系とは

野性的には食物や水、子孫を残すための異性を見つけることが『報酬』と脳に刻まれており、それらを見つけたときにドーパミンが出ることで快感を覚えます。そしてその快感を得るために、食料やパートナーを求めるようになるのです。

f:id:jonny1205:20211105135646p:plain

元々は生きて子孫を残すため

つまり、快楽を求める『意欲』『やる気』を増やすのがこの報酬系です。

現に、ヒトは食欲や性欲が満たされると幸せな気持ちになりますが、それはドーパミンにより報酬系が活発化されたからです。「またそうしたい」と意欲を持つことで、食事を取り長生きして、子孫を作って繫栄するのです。

気づかぬうちに利用

実は、人間は気づかないうちにこの報酬系をうまく利用して、意欲を出して、仕事をやり遂げたりしているのです。

f:id:jonny1205:20211104131943p:plain

気づかないうちに利用している

こんなことみんな既にやっていますよね?こうして、仕事や勉学への意欲を高めるのに知らず知らずのうちにドーパミンを出しているんですね。

ただ、心理学の中では、過剰正当効果というものがあります。

f:id:jonny1205:20211105163101p:plain

過剰正当化効果とは

わかりやすく言うと、元々あることにやる気満々だったときに、そこに報酬などのインセンティブをつけると、却って関心を失わせてしまうというものです。

要は、物事は適度にしましょうってことですね。

報酬系と依存症

報酬系は適度にうまく利用すればモチベーション向上につながります。

しかし、時にそれはよろしくない結果を招くこともあります。依存症です。

f:id:jonny1205:20211104145405j:plain

アルコールにより得られる快楽という”報酬”、賭け事により”報酬”が得られそうという期待などで報酬系が暴走すると問題となります。

病気かどうかの線引きは、『日常生活・人間関係に支障があるか』どうかで判断します。

ギャンブル依存症

日本国内ではおよそ280万人*2ギャンブル依存症患者がいるとされます。

f:id:jonny1205:20211104140423p:plain

日本のギャンブル障害の分類

また、ギャンブル依存症は他の疾患の併存が多いとされ、アルコール・薬物依存症や、うつ病統合失調症パニック障害など*3が知られています。

ここで重要なのは、その背景にうつ病や統合失調症が隠れていることがあるということです。つまり、自殺願望が見られることもあることに注意が必要と言われています。

自分だけの病気でない

通常、病気と言うのは本人に悪影響があるものですが、ギャンブル依存症は他の人にも大きな影響を与えるという特徴があります。

f:id:jonny1205:20211104143515p:plain

自分だけの病気ではない

自分の全財産を費やした後は、配偶者のお金に手を付けます。また、ギャンブルを辞めるように説得されたりすると逆上し暴力をふるったり、子供の虐待につながることもあります。

家族や周囲の人たちをも巻き込んでしまうのです。

治療法

ギャンブル依存症は遺伝の影響家庭環境から起こる*4とされ、先ほども書いたように他の精神疾患などの一部として見られることもあります。

f:id:jonny1205:20211104145727p:plain

つまり、元の疾患があるのならばその治療をする必要があり、実際治療に抗うつ薬や精神安定剤も使用されています。

さいごに

いかがでしたか?

元々は生物の生存と子孫を残すためにある報酬系ですが、人間は様々な文化を築くとともに間違えた使い方をしてしまう時もあるのです。

アルコールもギャンブルも節度を守って付き合うのであれば問題はありません。本能に負けず『理性』を働かせられるのが人間です。

では、また(^.^)ノ

*1:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4491543/

*2:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gambling_addiction/index.html

*3:Nower, L., & Blaszczynski, A. (2017).Development and validation of the Gambling Pathways Questionnaire

*4:DSM-5:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed. American Psychiatric Association