最近、有名人が痛い目に遭ったことでよくTVで登場するアニサキスですが、いままで存在を知らなかった人も多いのではないでしょうか。
最近の報道を見ると、コロナ禍にアニサキスが急増しているように思えますが、実態はどうでしょうか?
アニサキス
医者はみんな学生時代に寄生虫とか授業で習うので、確実にアニサキスのことは知っています。でも、実際にアニサキス症の患者を見ることは消化器内科以外だとマレでしょう。もちろん僕も見たことありません。
アニサキスというのは、細菌とかウイルスではなく、小さな虫です。
イルカやクジラの腸の中に住んでいるのですが、卵は便とともに海に排出され、孵化します。すると、それを食べたイカなどの甲殻類やサバの内臓でまた増えるんです。
で、人間がこれらを食べると、まれに胃の中で暴れちゃうっていうのがアニサキス症です。(体内に入っても95%以上の人は無症状と言われています。)
イカの握り寿司って、包丁で切れ込みが入っていますよね?あれは、取り除けなかったアニサキスがいてもそれで殺せるようにしています。
サバってあまり生で食べませんよね?もちろん、サバは鮮度が落ちやすいのもありますが、アニサキスのせいでもあるのです。
アニサキス症の治療
アニサキス症に特効薬はありません。
昔、正露丸が効くっていう話もちらっと耳にしたことがありますが(笑)試験管内ではアニサキスの殺虫効果が見られた*1ようです。
胃の壁に入り込んだアニサキスを取り除くのは、基本的には内視鏡で胃の中を覗きながら、つまみ出すしかないのです。取り除けば、胃痛などの症状は回復します。
厄介なのは胃からさらに進んで腸に嚙みついたときです。この時は手術です。
アニサキスの予防
では、予防法はあるのでしょうか?
アニサキスは肉眼で見えるサイズなので丁寧に取り除くしかないです。
それ以外には、70℃で1分以上の加熱か、-20℃で24時間以上の冷凍でアニサキスを殺せます。
「じゃあ、冷凍すりゃ生で食べれるじゃん」となりますが、一度冷凍すると、食感や色調変化が起こりよろしくないそうです。
結論、一番確実なのは生で食べないことです。(笑)食中毒の基本ですね。
海外では生で魚を食べるなんて日本人 CRAZY と考えられてきましたが、近年は日本食の人気もあり寿司などが世界的にも食べられるようになりましたね。
要は、日本では、海に囲まれており新鮮な魚介類が手に入りやすいことと、昔から生で魚を食べる文化があったので、対策が構築されてきたのですね。
アニサキス増えてる
さて、では日本の状況を見てみましょう。
先ほども書いた通り、日本では生食の文化がありますね。ということは、当然リスクは高くなります。
実は今や食中毒の報告で一番多いのはアニサキス*2なんです。意外ですよね。O-157とかカンピロバクターではないんです。
因みに、アニサキスが食中毒として位置づけられたのは、1999年とまだ歴史は浅く、さらに、保健所への報告義務ができたのは2012年とまだ10年しか経っていないんです。
つまり、アニサキスが増えているというよりは、義務化以降報告が段々増えていっている最中であるというのが実際なんでしょう。
今までは過小評価されてきたということですね。
意外な落とし穴
大学でアニサキスを学んだ時も、代表例としてイカとサバを習ったのを覚えています。特に太平洋側で獲れたサバでアニサキス症を起こしやすいこと。(日本海側と太平洋側でアニサキスの種類が違うから)
イカやサバは有名なので知っている人も多いでしょうが、その反面、「それ以外は大丈夫」って思われがちなんですね。
実は、近年のアニサキス症の報告を見ていると、アジやサンマの刺身、しめ鯖、キンメダイのカルパッチョなどが多いのです。また、少ないながらサケの生食でも報告があるのです。
ちなみにシメ鯖は塩締めや酢締めにすると思いますが、それでもアニサキスは死にません。
さいごに
いかがでしたか?
アニサキスが増えているのは、流通の発達もあるでしょうが、食中毒の届け出義務ができてまだ10年弱で、今増えているところというのが一番大きいでしょう。
有名なイカとサバ以外の魚でも、アニサキスを起こしていることは知っておく必要があります。
日本食では生で魚を食べることが多いので、自分たちでも気を付けましょう。肉眼で見えます。
しかしながら、実際は体内に入ってもほとんどは無症状です。恐れすぎないようにしましょう。
では、また(^^ノ
▼ノロウイルスの秘密▼
*1:Matsuoka, K., Matsuoka, T., [Over-the-counter medicine (Seirogan) containing wood creosote kills Anisakis larvae] Open J. Pharmacol. Pharmacothr. 6 (1) 9-12 (2021).
*2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html