オミクロン株になって以降、肺炎を起こすことが減り、主に上気道炎症状が中心となっていることは、患者さんを診ていてもそう感じます。
それで、オミクロン株は『弱毒化した』と言われていますが、当初から「弱毒化したように見えているだけ」という見解*1がありました。
つい先日、アメリカ感染症学会のJID*2という機関紙に載った香港の研究*3から学びましょう。
香港の惨事
まずは背景を知っておきましょう。
中国ではゼロコロナ政策で厳しい行動制限をしており、香港も例外ではありませんでした。
デルタ株までは、ゼロコロナ政策で何とか封じ込めるレベルでしたが、オミクロン株の凶暴な感染力には太刀打ちできなくなったのです。
これはワクチンでも同じですね、デルタ株までは発症を抑え込めたけど、感染しやすく、増殖しやすいオミクロン株になってその発症予防効果は格段に落ちました。
優秀だった香港が、オミクロン到来後2カ月で、感染者急増、死者急増という急展開になったのです。
死者の7割は80歳以上で、そのうち未接種が73%だったといいます。
「死者の73%が未接種??? 普通に考えて多すぎやろ・・・」と感じたあなたは鋭いです!ちゃんと事情があるのです。
香港のワクチン事情
オミクロン株の到来までに香港では中国製のシノバックだけでなく、西洋文化にも近いのでファイザーのワクチンも打てるようになっていました。
そして世界と同じように、高齢者は優先接種となっていました。
しかし、ゼロコロナ政策もあり、あまり『感染』への実感がなかったことで接種は進みません。
オミクロン株が始まった頃、香港ではワクチン接種が始まって約1年経過しているのに、80歳以上の接種があまり進んでいなかったのです。しかも『1回だけ』で辞めた人が多いのです。
一方で若い世代では70-80%以上の接種率でした。そう、一番打つべき高齢者が打っていなかったのです。
このときの香港のデータでは60歳以上で未接種では2回接種と比べて20倍死にやすいとわかっています。1回だけ接種は0よりマシ、でもどのくらい効果あるか不明といったところです。
しかし、なぜ高齢者だけ極端に接種率が低かったのでしょうか?
政治的な問題
ファイザー製のワクチンは治験第Ⅲ相でも良好な結果が出ていましたが、そのとき中国のシノバックはまだ治験の途中でした。
本土とは違い、2種類のワクチンが使えるようにしていたものの、香港政府は中国政府のお役人なわけで、政治的にもシノバックをゴリ押ししたのです。
他にも因果関係問わずにメディアが『ワクチン接種後に死亡』を大々的に報道したことも接種を控える要因となりました。もちろん不活化ワクチンのシノバックでも接種後の死亡の報道がありました。
しかし、これだけでは『高齢者だけが接種率が低い』理由になりません。
政府は、高齢者や基礎疾患のある人は接種前に主治医に相談するように強調しました。そのことで、ハイリスク群の人たちは「打ったら危険なワクチン」というイメージが染みついたと考えられています。
弱毒化していない
本題に入ります。さきほどもありましたが、オミクロン株になった時点で、多くの国では接種が進んでいました。しかし、香港では高齢者のワクチン不信が強く未接種が結構いました。
未接種の人が多いからこそできる研究があります。
そうです、オミクロン株以前との”毒性”の比較です。例えばワクチンのなかったころの原始株との比較などです。
未接種者で未感染の人に絞って、コロナによる入院、死者を2020年1月~2022年10月まで調べました。
すると、オミクロン株以前の未接種者の入院・死亡リスクは10%未満でした。
オミクロン期に入っても、未接種者での入院・死亡率は原始株と同じくらいでした。
さらに感染者急増による医療ひっ迫が大きく影響し、一時的には最大41%となる時期さえありました。
年齢別にみると、多くの世代で原始株とほぼ同じ程度でしたが、高齢者に限っては、未接種ではオミクロン株での致死率の方が原始株より高かったのです。
結論
この研究の結論としては、オミクロン株になって以降、未接種者では入院・致死率は原始株やデルタ株などとも変わらない、つまり弱毒化していないというのが1点。
もう一つは、オミクロン株の感染力の強さで、感染者が急増し医療がひっ迫すると、脆弱である高齢者においては、オミクロン期が一番致死率が高かったのです。
オミクロンとてあなどることなかれということですね。
実際、ワクチン接種が進むこと、既感染者が増えることである程度の免疫を持った人たちがmajorityになった社会では、”弱毒化”したように見えます。
ウイルスは変異するたびに弱毒化すると昔から言われてきた説も、実は感染者が一通り増えたからそう見えてきただけなのでしょう。
では、また(^^♪
*1:https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/omicron-subvariant-ba2-likely-have-same-severity-original-who-2022-02-01/
*2:https://academic.oup.com/jid/pages/About?login=false
*3:https://academic.oup.com/jid/advance-article-abstract/doi/10.1093/infdis/jiad236/7208626?redirectedFrom=fulltext&login=false