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イスラエルの”ワクチンパスポート”

先日、イスラエルのワクチン接種率や追加接種に関する記事を書きました。

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なぜイスラエルは、ワクチンモデル国となったのか、なぜ『接種率が高い』という勘違いが起こるのか等。

その中で、ワクチンパスポートに関するご質問をいただいたので、今回はそれについて少し記事にしてみます。

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さらっと復習

ワクチンモデル国

少し、前回の記事の復習をしておきましょう。

イスラエルは人口が約930万人と、神奈川県くらいの国で、アメリカとは昔から友好国で軍事・経済的につながりがあります。

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ワクチンモデル国に

コンパクトな国で、アメリカと仲がいいというのが重要です。

大国がお金のパワーで優先的に買い付けすることを見越して、高速接種&データ提供を武器に交渉しました。

ファイザーからすれば、治験で優秀な結果があったので、実臨床で使ってみて治験同様に優れた結果が出ればそれが”宣伝”となりワクチン市場で優位に立てますし、実際そうなりました。

この利害関係が一致し、イスラエルはワクチン接種が早かったのです。

接種率は実は高くない

2022年2月12日現在でのイスラエルの2回接種完了率は65.8%*1です。それを20歳以上に限定すると86%なんです。

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イスラエルの接種率の真相

要は、”成人の約9割接種”という報道がなされたため、その9割という数字だけが独り歩きして勘違いする人が続出しているのです。

いずれにしても、当時の状況では60%の接種完了で集団免疫に達するとされており、実際一時的に感染はほぼ0と言えるレベルまで行きましたね。

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人口ピラミッド  イスラエル vs 日本

上の図を見るとわかりますが、イスラエルは日本と違い、子供が非常に多いのが特徴で、大人だけの接種だけでは、感染力の強いデルタ株オミクロン株ではどうしても集団免疫には達しません

こうして『若い世代へも接種を!』と進めているのでした。日本とは大きく人口ピラミッドが違うので、日本でそのまま当てはめる必要はないですね。

詳しくは過去記事ご参照ください。↓↓

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グリーンパスについて

ワクチンパスポート

ワクチンモデル国となったイスラエルは、世界に先駆けアフターコロナの世界に移りました。その方法がワクチンパスポート、通称グリーンパスです。

要はワクチン接種完了であることを提示することで、レストランやジム、コンサートなど”不要不急”の日常生活を回復させるためのプログラムです。

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グリーンパスについて

昨年の2月にグリーンパスが導入され、安心して元の社会に戻るための仕組みとして開始しました。重要なのは『ワクチンパスポート』と言われますが、未接種でも直近の陰性証明が代わりになります。

こうして一時は、夢の国・イスラエルとなって羨望のまなざしで見られていました。

デルタ株の到来

イスラエルでは、新規感染者がほぼほぼ出なくなったこともあり、2021年6月1日にグリーンパスを中止しました。

しかし、その後、接種後半年ほどで抗体価が低下することがわかり、そのタイミングでデルタ株も流入、再感染や高齢者の重症化・死亡が出ました。

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グリーンパス中止⇒再開

そこで、イスラエルは7月29日にグリーンパスを再開*2することにしました。このとき、『接種完了』の定義を2回接種済ではなく、3回接種済に変更しました。

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再開したグリーンパス(2021年10月)

2回接種していても6ヶ月経過するとグリーンパスは期限切れとなります。更新するには3回目の接種を受けるか、6か月以内に感染し回復したという証明を登録する必要があります。

また、暫定グリーンパスというものがあり、レストランやジム、博物館などに入る都度に陰性証明を提示するという方法もあります。しかし、基本的には検査は自費になります。医療上の理由で接種できない人は特例で公費となります。

新グリーンパスの期限

最初は2回接種済みで無期限のパスポートでしたが、抗体価低下やウイルスの変異などから3回接種済みで無期限フリーパスに変更となりました。

こればかりは、しょうがないことです。むしろ状況に合わせて、変わるのが科学のあるべき姿ですからね。

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接種完了の定義を変更

となると、心配なのは、またこのグリーンパスの定義が変わるんじゃないの?ってとこですね。

グリーンパス自体の暫定の終了日が2022年2月1日となっていました。つまり、これ以降は状況に応じて変更しうるっていうことですね。

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科学的根拠に応じて軌道修正を行う

しかし、これは科学的にきちんと見ていて、必要があれば柔軟に軌道修正を行う意図があるということです。素晴らしいことですね。

グリーンパスの縮小

イスラエル政府は、各国の状況、現在のイスラエルでオミクロン株のピークを越えて減少傾向にあることや、欧州で規制緩和が進む流れなどを考慮し、2月6日以降はグリーンパスの運用を大幅に縮小することになりました。

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グリーンパスの運用を縮小

レストランや博物館、ジムなどの入館にグリーンパスの提示は必要なくなります。しかし、高リスクと考えられる、大規模な屋内の集まりであるパーティーやクラブ、祝宴などに限定して運用することに決まりました。

また、4回目の追加接種の臨床研究では、オミクロン株に対して『効果が限定的』である*3という結果もあり、ワクチンパスを続ける根拠も少し乏しくなりました。

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4回目接種の効果は限定的

これについては、とりあえず3月1日まではこのルールで経過を見て、必要があればまた変更を行うということです。

(参考記事:The Times of Israel *4

さいごに

いかがでしたか?

日本ではイスラエルのニュースは断片的にしか報じられません。あたかも行き当たりばったりで行動しているように見えるかもしれません。

そのせいか、誤った情報が拡散されたり、反ワクチンに利用されることもあります。

しかし、実際は、かなり科学的に判断され、新たな知見をしっかり取り入れてその都度対応しているということがわかりますね。

もちろん、国が小さく人口が少ないこともこの機敏さの理由であり、日本ではマネはできませんね。

では、また(^.^)ノ