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【サク読み】デルタ株 復活の日?

オミクロン株が見つかってもうすぐ半年を迎えます。

オミクロン株は、デルタ株に比して重症化しにくいことが報告されていますが、それに反する大規模な研究も現在査読中*1で、ワクチン接種により弱毒化しているように見えているだけかという結果となっています。

ところで、デルタ株はいまはどうなっているのでしょうか。今回は、イスラエルの研究*2から学んでいきましょう。

下水調査は有用

写真で気づいたかもですが、今回の研究は下水に関係しています。

なぜ下水かというと、コロナウイルスは感染すると発症する前に糞便に排出されるのです。また、手に付着したコロナウイルスを手洗いで流すと、下水にいきますね。

つまり、便や手洗いからのウイルスが下水中にいるので、それを調べればどのウイルスが流行しているか or これから流行するかがわかるということです。

下水調査は簡便

下水調査を通じて、武漢株→アルファ株*3、そしてアルファ株→デルタ株*4の変化もしっかり確認ができています。

今回の研究では、イスラエル、第4の都市ベルシェバ市での下水調査は週に2回、24時間かけて行い、その検体をRT-qPCR検査にかけます。ま、ザックリと”PCR検査”と考えてください。

イスラエルとワクチン

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デルタ株は消えていない

すると、ある事実がわかりました。

オミクロン株による感染の波の間もデルタ株がずっと下水中に見つかっていたのです。

今までは、より感染力の強い変異株が出現すると、前の株は置き換わり消滅していたのですが、デルタ株は変わらず検出されているのです。

デルタ株は消えていない (論文のFig.3)

このグラフは紹介している論文中に出てくるものですが、下水調査から得られたデータが出ています。灰色が全株の感染、緑色がデルタ株の感染、オレンジ色がオミクロン株の感染を表します。

そして、黒のドットが、下水ではなく、実際に報告された感染者数を表しています。

この図で、緑色のデルタ株は常に同じくらい下水中から見つかっているわけです。つまり、消えていないのです。

いわんとすること

ややこしいですが、一つずつ確認していきましょう。

まず、黒ドット(実際の感染者)と灰色(下水調査の全株)が同じような波ですね。つまり、これは下水調査の精度が高いことが示されています。

いわんとすることは・・・

次に灰色(下水調査の全株)の波と、オレンジ色(下水調査のオミクロン株)の波は2022年3月途中までほぼ一致しています。つまり、その時の感染者はほぼ100%オミクロン株によるものであると言えます。実際そうです。

ところがですよ、最後に、緑色(下水調査のデルタ株)を見るとずっと一定数が下水で見つかっているのです。過去の変異株ではこんなことはなく、完全に消えていました。

デルタ株は存在するが感染はしない?

つまり、より感染力の強いオミクロン株が席巻している間、デルタ株は身を潜め感染を起こさないものの引き続き存在していたということになります。

オミクロン株が減ると

さて、さきほどのグラフをもう一度見てみましょう。

オミクロン株が減ると

オレンジ色のオミクロン株が下火になると、灰色(下水調査の全株)の波と大きく乖離していきます。しかし、緑色のデルタ株は横ばいと。

黄色矢印が、シミュレーションでの5月14日になります。このとき以降、緑色(デルタ株)と灰色(全株)の波が完全に一致していきます。

つまり、それ以降は、潜んでいたデルタ株がメインとなる感染が広がるだろうという予測ができるということです。

ここ最近、デルタ株再来?的なニュースが散見されるのはこういった事情でした。

論文の結論

ここまでは、私なりのザックリ解説でしたが、本家の論文はどう結論付けているのでしょうか?

デルタ株による感染の再来?

今までは、感染力の強い変異株が登場すると、置き換わる形で消滅していました。しかし、デルタ株はオミクロン株に感染の座は譲ったものの、しぶとく潜伏し続けていたのです。

現在のシミュレーションでいくとオミクロン株は他の変異株のように完全に消滅し、デルタ株のみ残るようです。

結論として、今後はデルタ株による感染の波の再来か、デルタ株は潜伏したまままた新たな変異株が流行することになるだろうという結論でした。

 

ま、デルタ株ならワクチン効果高いからそれほど恐れなくてもいいかもですね。

 

では、また(^.^)ノ

*1:https://www.researchsquare.com/article/rs-1601788/v1

*2:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S004896972202695X?via%3Dihub

*3:Yaniv, Karin, et al. "Direct RT-qPCR assay for SARS-CoV-2 variants of concern (Alpha, B. 1.1. 7 and Beta, B. 1.351) detection and quantification in wastewater." Environmental Research 201 (2021): 111653.

*4:Yaniv, Karin, et al. "RT-qPCR assays for SARS-CoV-2 variants of concern in wastewater reveals compromised vaccination-induced immunity." Water research 207 (2021): 117808.