マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

MENU

【解説】韓国医師ストライキ問題

お隣の国、韓国で医師のストライキ問題が連日報道されており、コロナ以上の医療崩壊になりつつあります。

今回はこの問題を学んでいきましょう。

専攻医

まず今回の話題に重要な登場人物を知っておきましょう。

前期研修医は2年間(韓国では1年)色々な科を回って患者を担当し症例を学んでいきます。

研修医について

その後、希望の科へ進み、そこから3年間(韓国では4年)が専門分野で学ぶ後期研修医(専攻医)です。

この研修医の間は、圧倒的に臨床経験値が低く、上級医にかなりお世話になるわけですが、旧態依然とした医師の縦社会では、やはり古い上司がいると、過労死や追い詰められ自ら命を絶つケースもあります。

2022年に甲南病院の専攻医の件は記憶に新しいです。

『自己研鑽』

若い医師らも、早く一人前になりたいという気持ち、患者の命を預かっているという自覚などから休日も病院に張り付いたりすることもしょっちゅう。

これは日本も韓国も同じです。

よく言えば、下積み時代ってやつですかね。

医薬分業

実は韓国で医師の大規模なストライキは今回初ではありません。

2000年の医薬分業の導入時も大変でした。

昔は病院で薬を出してもらうことが一般的でした。薬は製薬会社から定価より安く仕入れられるので、その差額も病院の収入になります。

医薬分業の意図

そうなると、高い新薬を使うとその差額も大きくなりますので、高い薬を出したがります。結果、医療費が高騰し国の予算をひっ迫します。

これをやめようと、日本も韓国も医薬分業を勧めたり、ジェネリック医薬品を推奨して医療費を下げようとしています。

ジェネリックを知ろう

www.multilingual-doctor.com

医薬分業にされると、病院の収益が減るわけですから、開業医や病院経営者は反対するのは目に見えていますね。

2000年のストライキ

はい、想定通り、韓国の開業医ら主体に医薬分業反対運動が起こり、ストライキに突入しました。

専攻医が火に油を注いだ

断続的に行われるストライキは、開業医だけでなく、なんと大病院の専攻医らに飛び火しました。ま、正直、ただの便乗ですね。

中国とかで反日デモのとき物壊しても罪にならないから便乗して鬱憤晴らすのと似てます(笑)

最終的には長く続いたストライキなどに国民がドン引きで、「医師は利己的でクソ」という空気が大きくなり、次第に収束していきました。

日本での医薬分業

日本では医薬分業の際、どうだったのでしょうか。

1955年、医薬分業の方針が決まった時、日本医師会が猛反発しました。

結局、1956年に”強制”ではなく”任意”の医薬分業となり、落ち着きました。しかし、今や日本では圧倒的に院外処方が多いですね。

日本の医薬分業議論

それは、院内処方の調剤料よりも処方箋を出した方が診療報酬を高く設定したからです。自然と、多くの開業医や病院は院外処方に切り替えました。(笑)

ま、今は医薬分業が行き過ぎて、病院前にある”門前薬局”が儲けすぎ!!問題があります。

コロナ禍のストライキ

韓国での大規模な医師ストライキは2020年、コロナ禍初期にも起こりました。あれはビックリしました(笑)「今?マジ?」

コロナ禍でも医師ストライキ

前の文政権の時でした。

実はこれこそが今回のストライキに直結するものです。

日本も韓国も同じく、人口当たりの医師数がOECD平均より少ないんです。

人口1000人当たりの医師数(OECD)

で、このデータを元に、日本も韓国も”医師不足”という言葉が独り歩きし、政府も医師増やそう!としているわけです。

ま、実際は、日本も韓国も同じで、都会は医師多くて過剰気味、田舎が医師不足が深刻というわけです。医師偏在の方が問題です。

医師増員計画には当然、医師らは大反発します。このときの主力が専攻医です。

文政権は『医師免許停止』をチラつかせ圧力をかけますが、医師らも折れません。

コロナ禍という特殊な状況もあり、文政権は医師会と話し合い、この問題を”棚上げ”しました。

今回のストライキ

そして、2024年のストライキが出てきました。

重要なので先に言います。韓国では4月に総選挙が予定されています。与党も野党も必死です。尹大統領の支持率は直近37%くらいです。政局を安定に進めるためにも今回の選挙は重要。

となると、票が集まりそうな政策が必要。

票稼ぎか?このタイミングでの医師増員

国民の7割が賛成する医師増員計画を高らかに叫び、得票につなげたいというのが本音でしょう。ま、最終的には選挙が終われば医師会と話し合いして適当な落としどころを見つけるという、政治的なショーだと思いますが。

すると、当然医師らの反対が始まり、ストライキに発展しました。

今回の医師増員に主に反発しているのもやはり専攻医たちです。韓国内の専攻医の6割以上がストライキに参加しており、救急医療がストップなどして大きな影響が出ています。

では、なぜ、”専攻医”が主体となっているのでしょうか。

そして、なぜこれだけ大きな影響が出ているのでしょう。

今回の背景①

今回のデモの背景を見ていきましょう。

医薬分業の時は、すぐさま影響を受けるのはその時点の開業医や病院なので、まずはその人たちがストライキをしました。

今回の医師増員の場合は、医学部の定員を増やして、彼らが医師になって増え始め影響が出るのは10年以上先の話ですかね・・・となると、今のおじさん世代の開業医や上級医はそれほど関心はなく、今の専攻医らが脂の乗った時期に影響が出ます。

今の若手の将来に影響する?

では、どういう影響が出るか?給料ですわな。

病院の収入は変わらないのに医師が増えると・・・?当然医師の給与は下げられるでしょう。

韓国での医師の平均年収は3000万円と、日本の医師の平均の2倍です。

韓国の医師は超高給!!

政府の計画では医師を1.6倍に増員すると、当然平均年収も2000万円くらいに落ちますわね。これに対して今の若い専攻医らが反対しているわけです。

これは将来開業医になっても同じです。開業医も増えますから。

今回の背景②

そして、このストライキで救急が停止したりと大きな影響を受けていますが、それはなぜでしょうか?

専攻医の割合が大きい

韓国5大病院(Big 5)のソウル大や延世大などでの専攻医の割合は約35~45%くらいで、Big 5でない高麗大でも35%でした。

記事によれば、東京大学や米・メイヨークリニックなどでは、専攻医の割合は10%ほどだそうです。

それだけ、韓国の大病院は若い専攻医に依存していると言えます。

ほな、おじさん世代はどこに行ったのか?開業とか、美容大国ですからそちらの方です。

専攻医のお気持ち(推察)

今回のストライキは専攻医からすれば、自分たちがいなくなればこれだけ困るんだぞ!とここぞとばかり見せつけるチャンスだったのです。

ま、日本では、起こらないでしょうな・・・

さいごに

資格がないと働けないゆえ、高収入。

いわば既得権益です。ここで医師数を増やすとなると、医師らは反発します。

医師不足と叫ばれますが、日本も韓国も寿命なんて世界トップクラスの2国ですし、医師数だけのパラメーターで見るのは不適切と思います。病院数とか病床数は圧倒的に多いし。

医師の偏在の問題をいかにするかの方が重要かと。

戦後、日本では虫歯が多いからと歯科医を増やすことにしました。しかし、衛生観念も高まり虫歯が減りました。コンビニ以上に増えた歯科医は収入が減り、インプラントや歯の美容方面に走るところが多いです。

歯科医多すぎ問題

www.multilingual-doctor.com

さらに、歯科医師会の圧力?もあり、歯科の国家試験の合格率を下げて、新しい歯科医を制限しています。

いまは薬剤師も過剰・・・

当然、医師もそうなりますな・・・

年収が下がると、希望者が減り、レベルも下がるかも?

するとまさにAIの時代到来???なんて未来があるのかもしれません。

 

では、また(^^♪

 

 

 

(参考記事)

https://diamond.jp/articles/-/212915

https://pungs.tistory.com/165

https://www.nli-research.co.jp/files/topics/51555_ext_18_0.pdf?site=nli

https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/08/post-21_3.php

https://www.yomiuri.co.jp/world/20200827-OYT1T50092/

https://www.oecd.org/health/health-systems/Health-at-a-Glance-2021-How-does-Japan-compare.pdf

https://www.joongang.co.kr/article/25230047#home

https://time.com/6696591/south-korea-doctor-strike/