マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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日本の医療の特殊性とは

先進国で、高水準の医療を施し、世界的にも長寿で有名なこの日本。

新型コロナウイルス感染症拡大で、いまや自宅療養で亡くなる人がいます。欧米と比べても圧倒的に少ない感染者数でなぜこのようなことが起こっているのでしょうか。

なぜなかなか病床を確保できないのか。突き詰めるには日本の医療制度の特殊性を知る必要があります。

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世界一の病床数

そもそも、病院の数は日本は圧倒的に世界一です。約8300もの病院*1が存在しています。(人口2.5倍のアメリカで5500ほど。)

そして、病床数も当然多く、約164万床*2で、これは人口1000人当たりで約13床と、OECD加盟国の中でTOP*3です。これはドイツの1.6倍、アメリカの4倍以上に相当します。

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日本の病床数は世界一(OECDより)

日本のコロナ向け病床は9/01現在 8万2640床*4で、全感染症対応病床(約73万床)の約11%ということになります。

また、コロナ重症者向けは5656床*5(8月25日時点)と少ないのです。

公的病院と民間病院

まず、病院は大きく2つに分かれます。国立病院や市民病院のような公的病院と、”医療法人○○会”などといった民間病院です。

日本の病院の約8割*6が民間病院です。そして、東京や大阪や福岡などの大都市ではその比率が上がり、約9割が民間病院です。

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民間病院が多すぎる

次に、病床で見ていきましょう。

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病床比率

病院数の比率と比較してみると病床の比率は差が縮まりましたね。

そう、つまり、民間病院は数は多いけど、病床の少ない中小規模(200床未満)の病院が多いのです。

小規模の民間病院が多い

小規模の病院では、物理的にも小さいく、当然個室なども少なく、隔離が十分にできません。つまり、コロナ患者と他の病気の患者の動線を完全に分けるのが難しいです。

こういう病院は療養病床といって、長期に入院する患者を診るため、感染症の専門家もいないでしょうし、そもそもスタッフも少なくていい(法律上)のです。

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小規模民間病院では受け入れ難しい

そして、何よりも民間病院ゆえ、コロナ受け入れによる風評被害は大きいのです。第3者なら「お前らも医療者なら受け入れろよ」と言うのは簡単ですが、自分の家族が別の病気で入院するときに、コロナ患者がたくさんいる病院に入院したいですか?おそらくNOでしょう。

また、コロナ患者から院内で感染拡大し、クラスターが発生すると2週間ほどは病棟閉鎖休診となります。こうなると、小さい民間病院は経営難に陥ってしまうのです。

つまり、コロナ患者を受け入れることで病院の収益が減る可能性が結構高いのです。公的病院では税金投入などがありますので、ここの差はあります。

スタッフが少ない?

病院数が圧倒的に多い日本ですが、実は人員は全然多くないのです。

例えば、日本の医師数は人口1000人当たり2.5人*7で、OECD加盟国の平均が3.5人なので、実は少ないんですね。

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人口1000人当たりの医師数(OECDより)

「でも、アメリカと同じですやん」と言われそうです。そうです、しかし、病床数が圧倒的にアメリカより多かったですよね?

ということは、一人の医師が見る病床数はアメリカの4倍以上なんです。

実はこれは同じことが看護師についても言えます。人口1000人あたりの看護師は、アメリカと変わらない*8ですが、一人の看護師が見る病床数は多いんです。

つまり、日本は病院が多すぎることで、医療人材が分散しすぎているのです。(韓国も同様)

欧州の医療

欧州では、多くの病院が公的病院で、しかも建物自体すごい大きいんです。公的病院が多いと、政府の意見が通りやすいのです。つまり、コロナ禍でコロナ用ベッドを確保するのも圧倒的に早いです。

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欧州の医療体制

あとは、棲み分けです。家庭医(GP)という概念があって、いわばかかりつけのクリニックですね。まず、ここで診察を受けます。必要あらば専門科のある大きい病院に紹介されて、治療が終わればまた家庭医に戻ってくる。

この棲み分けがキッチリできていることで、医療人材の有効活用ができています。

ちなみに、ドイツやフランスやイギリスなどでは日本同様に公的保険で医療財政を賄っています。

僕もドイツで超短期間ですが、色々学ばせていただきました。

インフラかサービスか

一方で、アメリカの病院は、実は大部分(約75%)が民間病院です。

アメリカは日本のような国民皆保険制度がありません。高齢者や低所得者は公的な保険*9がありますが、その他の人たちは民間の保険を契約します。

アメリカは医療を"サービス"として見ている側面があります。ですので、民間病院が多く、医療費は病院が決めます。民間医療保険に加入していないととてもじゃないけど受診できません。アメリカは医療格差が激しいんです。

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サービスかインフラか

かたや、欧州などでは医療は”インフラ”として考えられ、公的病院が多く、国の政策が反映されやすいのです。

すると、不思議ですね。日本は欧州のようにインフラの側面がある割に、アメリカのように民間病院が多い。中途半端な状況になっています。

日本の社会保険

www.multilingual-doctor.com

 

日本の国民皆保険制度

日本の医療費は年間42兆円(2015年)で、その4割は75歳以上(人口の13%)の人が使っています。少子高齢化で医療費は年々膨れ上がっており、今はその4割は税金を投入して賄っているのです。つまりは、75歳以上の医療費は税金で賄ってるといえますね。

ゆえに、『皆保険制度の破綻』とも言われています。

その医療費を一番使っている75歳以上の後期高齢者の自己負担は1割なんです。だから、ここを2割に上げましょうよというのが最近の話題ですね。

それとも、現役世代の税金を上げますか?って話ですわ、ザックリ言えば。

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医療費がどんどん膨れ上がる

これに対して日本医師会(≒開業医の集まり)は慎重な姿勢です。自己負担が増えたら受診控えに繋がり、開業医の減収になるからです。

政治家的にも、選挙によく行く世代*10から嫌われることはあまりしたくないのかもしれませんが。

さいごに

いかがでしたか?

日本の長寿を支えているのは、国民皆保険で、特に後期高齢者が気軽に受診できること、人口当たりの病床数が非常に多いなど医療へのアクセスが非常に容易なことです。

日本の医療は、欧州のようなインフラとしての医療とアメリカのサービスとしての医療のいいとこどりをしているように思えます。普段はそれが上手くいきますが、コロナ禍のような非常時には逆に弊害となっています。

また、日本は少子高齢化が進んでおり、今のままで医療費が増大すれば、さらに税金を投入することになりかねません。ひいては現役世代へのさらなる負担となりえます。

どうなることやら

 

では、また(^.^)ノ