マルチリンガル医師のよもやま話

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アンパンマン列車は正義の味方?

つい先日、JR四国の運行するアンパンマン列車の利用者が100万人を超えたというニュースがありました。

今回は、JR四国の厳しい状況とアンパンマン列車について学びましょう。

国鉄民営化

終戦後、500~600万人ともいわれる戦争引揚者は軍に行っていたので当然職などありません。その雇用対策として、国は国鉄を大きな受け皿としました。

戦争引揚者の雇用

日本が豊かになるにつれ、車社会の到来と、航空機の台頭で鉄道離れが進みました。

そんな中、人件費も上昇し、大量の職員への支払いから国鉄は1964年赤字に陥りました。

大赤字が続く

しかも、田中角栄首相による日本列島改造論や、政治家の票集めのための『我田引鉄』でどう考えても採算性の怪しい路線が次々と作られたことも状況を悪化させました。

国鉄は国有鉄道であり、国営鉄道ではありません。要は独立採算制で、赤字になっても国は責任を負わないが、政治的介入はしますというものです。

政治に翻弄された国鉄

他の私鉄のように、不動産業や流通業など運輸業以外の”副業”を行うことも禁じられていたのでもう打つ手なしでした。

そんなこんなで、色々と議論され、『国鉄をなくそう』となり、分割民営化の方向に進みました。

別の目的

ま、ここまでは一般的に言われている、国鉄民営化の”公式”の理由です。

国鉄最大の労働組合は、国労(国鉄労働組合)ですが、そのグループは共産党や旧社会党を支持するド左翼集団だったのです。

国鉄は左翼に占拠された?

戦後はたしかに共産党が勢いある時期がありまして、それに感化される形ですね。

時代とともに暴力も辞さない革マルらが入り込み、国鉄内でも内ゲバ事件*1も起こり大変だったのです。

日本政府は保守的な自民党が長期政権ですので、国鉄という大きな組織が共産党や社会党などを支持する集団であるとよろしくないわけです。

日本政府は国鉄弱体化を狙った?

すると当然、この革マル派らは国鉄分割民営化に反対し、1985年には放火やケーブル切断、火炎瓶投げ込みなどの国電同時多発ゲリラ事件を起こしました。

これを見た国民はドン引き、国鉄なんてヤバい組織解体してくれ~と風向きが変わり、1987年、国鉄はいよいよ分割民営化しました。

JR四国爆誕

さて、本題に戻りまして、JRは本州3社と、北海道・九州・四国のいわゆる三島会社とJR貨物の計7つに分かれて運輸業を行うことになりました。

国鉄分割民営化

鉄道電話などの通信業は、独立し後に日本テレコムとなり、現在はソフトバンクになっています。

JRとソフトバンク

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本州3社は2000年代にすべて完全民営化を果たしましたが、三島会社は大都市を持たず鉄道事業は正直厳しいです。

さて、JR四国ができた時、なんと全路線が赤字だったのです。お先真っ暗。

しかし、一筋の光が見えました。

全路線が赤字のJR四国

民営化の1年後の、瀬戸大橋の開通です。これにより、四国から本州の岡山まで列車で行けるようになり、新幹線に乗り換えできるのです。

幸先のいいスタートを切った・・・はずでした。

高速道路網

しかし、全国でどんどん作られていく高速道路、四国も例外ではなくなったのです。

1985年に四国初の高速道路・松山道の部分開業を皮切りにどんどんと高速道路が作られ始めます。

JR四国の対抗策

対抗してJR四国はメインの予讃線電化したり、カーブでも速度を落とさず走れる振り子式列車を積極的に導入していきました。非電化区間でも同じく、世界初の振り子式気動車まで開発する気合いの持ちようです。

こうして、何とかスピードアップで時間の正確さ、新幹線との接続の利便性を前面に押し出していきました。

明石海峡大橋完成

しかし、さらに悲劇は襲います。

1998年、明石海峡大橋の完成です。これに伴い、京阪神と四国は高速バス路線がたくさん作られ、岡山周りよりも早くて安いことから、たくさんの客を持っていかれることになりました。

明石海峡大橋の開通

これによりドル箱であった、四国⇔岡山の客も段々と減っていきました。また2006年にはしまなみ街道も開通し広島方面へも高速バスが台頭しました。

本四連絡道(本州四国連絡高速道路協会より)

大幅減収のJR四国は経費削減のために、車掌の乗務しないワンマン列車を増やしたり、格安の特急乗車券を発売するなど色々と手を打ちますが、厳しい戦いを強いられています。

アンパンマン列車

そんな中、この窮地を救ってほしいと正義のヒーローにお願いしたわけです。

やなせたかしさんが高知県出身ということもあり、2000年、高知県と香川県を結ぶ土讃線アンパンマン列車を走らせることに決まりました*2

JR四国『アンパンマン列車はヒーロー』

同じ高知県出身で、当時『MajiでKoiする5秒前』で人気爆発した女優の方もいますが、アンパンマンならばW不倫などのスキャンダルの心配もありませんね。JR四国はコラボ相手を間違わなかったです。(笑)

後に、やなせたかしさんの提案から、アンパンマン列車を増やして四国全体を盛り上げようと、2001年以降、JR四国管内の他の路線でも運行されるようになりました。

JR四国:アンパンマン列車

因みに、アンパンマンのキャラクターを利用するので、著作権料が発生してくるのですが、そこは『非公開』*3とされています。

観光列車の導入

JR四国はJRの中で唯一新幹線を持たず、管内に政令都市を持たない会社です。そして赤字路線の数々、自立維持は難しく、現に今も国からお金が入っています。

JR四国は年間200億円ほど助成金が投入*4されています。

地元で乗る人が減るなら、乗りに来てもらえ!

JR四国:観光列車強化

近年はJR九州やJR四国は観光列車として豪華な内装の特急を走らせたりして遠くから乗りに来てもらうことに積極的に投資しています。

アンパンマン列車の成功もあり、現在、JR四国は観光列車に力を入れております。

非鉄道部門

JR四国の運輸業は大赤字ですが、非鉄道事業は黒字なのです。

民営化したからこそ、運輸業以外もできるわけで、そこでの収益拡大を狙うしかありません。

JR四国:非鉄道事業の強化

例えば、2024年に高松駅の隣にできる駅ビル・高松オルネや分譲マンション、ホテル事業にも現在力を入れています。

JR四国 2022年度連結決算より

実際、2022年度の連結決算を見ると鉄道部門はすごい赤ですが、非鉄道部門は好調のようです。

実際、少子高齢化の日本では、鉄道利用者は減少の一途で、将来的にも厳しいのは四国だけではありません。各社がエキナカや商業施設、ツアー会社や金融にも手を出すのはそういうことからです。

さいごに

いかがでしたか?

人口減少、少子高齢化と鉄道事業には大きな障壁しかない四国。

そんな中で、アンパンマン列車は四国外から”わざわざ乗りに来てくれる”人気列車で、まさにJR四国のヒーロー的な存在でした。

そして、今後JR四国に重要なのは、非鉄道事業の商業ビル、マンションなどで利益を出し続けることです。

そうすることで、沿線住民の鉄道利用も増える可能性を秘めています。

 

では、また(^^♪