マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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久しぶりにユッケが食べたいな

焼肉に行くと昔は必ずユッケを注文して食べていました。2011年の集団食中毒を理由に現在はお店で提供されることは「原則」ありません。原則ね。笑

さて、あのニュースでユッケは危険という汚名を受けてしまいました。ユッケが食べれなくなった事情を振り返ってみましょう。

 

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ユッケ

久々の(?)語学の話になります。ユッケは韓国語です。

육회と書きますが、육(=yuk 肉)회(=hwe 生もの・刺身つまり「肉の刺身」という意味です。韓国旅行に行ったときに「フェ(회)」とか「センソネ(생선회」というものを聞いたことありますか? それは魚のお刺身のことです。

ユッケはタルタルステーキに近いので英語で説明するときに steak tartareと呼んだりもします。ちなみにタルタルと言うのはモンゴルの遊牧民タルタル人から来ています。

 

集団食中毒

2011年に起きた集団食中毒事件を覚えていますでしょうか?焼肉酒家えびすの富山・福井・神奈川のお店でユッケを食べた計100名以上が集団食中毒になり5名が死亡しました。原因菌はO-111という大腸菌でした。特徴としては下痢を繰り返した後に出血便がでることです。1996年に問題になったO-157の親戚です。

その後、焼肉酒家えびすは休店の後に、廃業となりました。

 

原因

食中毒で最初に目を向けられるのは店内の保存などですが、これは同時に複数の都道府県で発生しており、店内の原因と言うよりその前の配送時点での処理に問題があるのではないかと考えられました。実際、開封前の肉からもO-111が検出されました。

となると、さらに前の段階での感染についても調べるのが自然ですね。卸業者とその前の食肉市場も調査をされましたが、この2つからはO-111は検出されませんでした。

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しかし、その後の調査でいろいろと実態が見えてきました。間に入った食肉卸売業者と集団食中毒を出した焼肉店の双方で問題が指摘されました。まとめたものが次の図です。

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レバーは病原性大腸菌や、カンピロバクターなどの食中毒を起こす病原体が含まれており、1996年のO-157集団食中毒以降、「生レバー禁止令」が出ていたわけです。しかし、その後も闇で提供されていましたが、ついに2012年(今回のテーマの食中毒事件の翌年)食品衛生法により完全に禁止されました。

肉同士が保管時に触れ合っていたということは、感染した肉があればどんどん広がったということです。おそろしい。

 

トリミング処理

写真のトリミングなどで意味は大体わかるかと思いますが、trimという言葉は「(余分な部位を)そぎ落とす」という意味です。牛肉は他の豚や鶏肉と違って寄生虫や病原体が少ないです。ただし、「肉自体」の話です。

そのお肉を加工していくときに、肉の「表面」は色々なところに触れるわけです。たとえばまな板、包丁などね。こういったものに付着している菌が肉につくのです。

そのため、特に生食するような場合は、表面の菌が付着している可能性がある部分は殺菌したきれいな包丁などでトリミングすることが重要なのです。

この事件で問題となったのは、卸売加工業者もトリミングせずに「生食用」として流通させたことと、お店側も提供前にトリミングを行わなかったというこの2段階です。この、いわゆる「怠慢」により5名の命が失われました。

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カンピロバクター

その後の影響

先ほども出てきましたが生レバーに関しては翌年(2012年)に法律で完全に禁止となりました。

ユッケに関しては各店舗で販売自粛の状況が続いています。その後、食肉の処理につていは、基準が明記されました。

衛生的に密封した肉塊を熱湯等で表面から深さ1cmまでを60℃で2分以上加熱処理すること

 

まとめ

もともと牛肉の「肉自体」は無菌、寄生虫もいない。

生食するには肉表面に付着した病原体をトリミングする必要がある。

2011年の集団食中毒はトリミングを怠ったがために起こった人災悲劇。

生レバーは完全に禁止されています。(馬は体温が高くそのレバーはO-157が住みにくく比較的安全なため提供されています)

鶏の生レバー提供している店もありますが、鶏肉の生レバーもカンピロバクターという細菌感染のリスクがあることを覚えておいてください。

いずれにせよ肉の生食は牛であれ、処理が適切にされていない場合もあるため、基本的には控えるべきですね。