マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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ワクチン接種が進まないワケ

日本で新型コロナワクチン接種が開始されて間もなく3週間になります。僕も来週くらいには接種予定でしたが、急遽『未定』となりました。

さらにこの3月で今の病院を退職するのですが、『退職者は次の勤務先で打ってね』という通知が来ました。笑 

多くの病院は既に接種希望者確認がもう終わってるわ!笑 ということで、いつになるやら。

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『いつになったら打てるのか』

ニュースでは、緊急事態宣言後の人出が増えていると報じ、その中で「街に出てみたら(宣言明けで)人が多くて怖いです」とかいうインタビューに答える人、「いやいや、あんたも街出とるやないか!」と言いたくなりますが、それはさておき。

高齢者や、高血圧など一般に重症化リスクが高いとされる人たちにとってこのコロナ禍というのは不安と戦う毎日です。昨日外来で話した患者さんがこんなことを言っていました。

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『いつになったら打てるのか』

お気持ちはめちゃくちゃわかります。早く打ちたいという思いも語ってくれました。

菅総理のせいだとは個人的には全然思いませんが、もちろん、その場で本人の意見を否定することはしません。(笑)モットーは ”和を以て貴しとなし” ですから~haha

では、この患者さんの言われている内容について見ていきましょう。

 

韓国に一瞬で抜かれた

日本の優先接種開始は2月17日でした。そして韓国は1週間遅れて接種を開始しました。

3月8日時点で、アメリカでは既に9000万人以上、韓国では31万人以上、日本では7万人以上の接種が行われています。日本はめちゃくちゃ遅いですね。(笑)

ま、アメリカは自国生産ですから優先的に早いのはわかります。

さきほどの患者さんの言う通り、後で始めた韓国に抜かれて大きく水を開けられています。当然、このような状況は韓国メディアでは嬉しそうに報道されていて、わざわざ日本語訳記事もyahooニュースでよく見かけます。

そもそも何故、こんなに韓国と差がついたのでしょうか?

 

韓国のワクチン契約

日本で現在承認されているのはファイザー(+バイオンテック)のワクチンのみです。これは有効性がかなり高いと世界から結果が出てきており世界中がいま欲しています。

韓国で今、主に打たれているワクチンは英国・アストラゼネカ社のワクチンです。有効性ではファイザーに劣るとされていますね。韓国にはファイザーワクチンもごくごく少数ですが入っています。

ここで去年の夏・秋ごろに時代を戻してみましょう。

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ワクチン確保競争~初期~

先進国を筆頭に次々とワクチン契約が進む中、オリンピックを開きたい日本もかなり早い段階で契約を取りつけていました。一方、韓国はなかなか契約合意に至っておらず、国内からも批判の声が相次ぎました

そして、ようやく昨年のクリスマスイブに『ファイザーなど1600万人分のワクチン契約』を発表した韓国政府ですが、実はそれがで、アストラゼネカワクチン1000万人分だけの契約でした。文政権ではよくある話ですね。(笑)

当然、国内での批判も大きくなりましたが、なんとかその後、ファイザーとJohnson & Johnsonとも契約し、合わせて”ちゃんと1600万人分”を確保できました。

ちなみに韓国の人口は5000万人以上です。全然足りないわけですが、2月に入って追加でノババックス社などから2300万人分のワクチン契約を結びました。これで3900万人分ですね。

COVAX

日本としては全国民2回打っても余る分の契約を結んでおり、余裕を持っていたのでしょう。しかし、状況は一変します。ワクチン需要が大きく、供給がどんどん遅れます。そして、かなり遅れてワクチンの契約をした韓国がどんどん接種している状況。その理由がCOVAXです。

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COVAXとは

WHO主導の元、自国だけではワクチンが購入できない貧しい国を救うために中・高所得国がお金を出し合って、ワクチンを回してあげようというものです。

中・高所得国は参加をして、いわば ”寄付” するのと同時に自国分も一応購入*1もできます、ルール上は・・・(笑)

現在COVAXで分配されるワクチンの大部分はアストラゼネカ製です。そして韓国に最初に入ったワクチンもCOVAX経由で入手したアストラゼネカワクチンです。3月までに19万人分が韓国に入ります。

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ルール上は問題ない

先ほど書いたようにCOVAXは基本的には貧しい国にワクチンを融通するプログラムですが、同時に共同購入として人口の20%分まではCOVAX経由で買ってもよいとなっています。

欧米、日本など先進国、準先進国などは、COVAXに手を出したら貧しい国へ回る分が減るという理由で基本的には受け取っていません。また、そうすべきであるという空気が流れています。

カナダは自国だけで人口*25倍以上のワクチン契約をしているにもかかわらずCOVAXを利用して190万回分のアストラゼネカワクチンを受け取る予定とし、世界的にこの”買占め行為”は大批判を食らいました。

GDPランキングでカナダは10位、韓国は12位とかなり上位にいますので、COVAXを利用するのはどうなのか!というのが世界の見方なのです。

 

日本はなぜ遅い?

COVAX経由で受け取っていない日本ですが、全然自国でワクチンは余裕がないですね。笑 なぜ日本のワクチン接種は遅れているのでしょうか?

現在日本国内で承認されているワクチンはファイザー製のみです。有効性が高いことがわかり、世界中がファイザーを求めているから、流通が追い付かないのです。だからこそCOVAXも大部分がアストラゼネカ製なのです。

さらに日本は、日本国内で治験をして結果が出てからでないとワクチンの承認をしないという厳格なルールを持っている為、モデルナ製やアストラゼネカ製はまだ治験中であり承認されていません。

つまり、世界中で需要が高すぎ品薄のファイザーワクチンのみが現在承認されている日本では、ワクチン接種がなかなか進まないというワケです。

欧州などでは海外へのワクチン輸出を制限していることもあり相当厳しい状況になっています。

 

特殊な注射器

韓国がよく言っている「ワクチン1瓶から6回打てる注射針」というやつです。日本はその準備ができなかったから接種が遅れているとも言われていますが、そうではありません。遅い理由は、現に国にワクチンが入ってく来ないからです。

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特殊な注射器について

貴重なワクチンを無駄にしないように、今話題になっているのが上図のようなものです。元々、日本とファイザーとは1瓶から5回分の接種と言う前提で契約をしました。

というのも、注射器の先に、わずかにワクチンが残るので、体内にしっかり規定量入れるには注射器で吸い上げる量は少し多めにしておかないといけないからです。

しかし、先端にワクチンが残りにくい特殊な注射器を使えば、このムダを減らせて理論上は7回分、ま、実用的には6回分は取れるようになる!というのが今の流れです。

その注射器も世界では手薄なため、日本では当面は1瓶から5回打ちで行っています。日本のメーカーも特殊な注射器を開発しつつ、インスリン用の注射器で代用して1瓶から7回接種をしている京都の病院もあります。

 

まとめ

日本でワクチン接種が遅れているのは、ファイザーのみが承認されており、さらにそのファイザーが世界中で品薄だからです。

他社のワクチンはまだ日本国内での治験中であり承認されていません。日本はワクチン承認は相当慎重に行っていることの裏返しですね。

韓国で接種の勢いがすごいのは貧しい国向けのプログラムのCOVAXを一応 ”合法的に”利用してアストラゼネカ製を入手したため、届いた分を迅速に打っているからです。

韓国では日本のようにワクチン承認の手続きは厳しくありません。

欧州でのワクチン輸出の制限もあり、いわば『ワクチン戦争』になっている状況なのでした。

 

では、また(^^♪

 

*1:人口の20%まで

*2:約3800万人