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『タウリン!お前もか』

ここ30年の間に、アメリカで50歳未満の若年性大腸癌2倍に急増していることは以前から何度も扱っております。

ここ最近は、非常に注目されており、様々な研究が行われております。今回もその一つを紹介します*1

若年性大腸癌急増

過去記事をまずご紹介しときます。

若年性大腸癌急増

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まず、大腸癌自体は減っています。これは検診の普及による、癌化前のポリープの段階で切除できるのが増えているからと考えられています。

若年性大腸癌の急増

しかしながら、通常は癌になりにくい若い世代では急増しているのです。

そして驚くべきことに、若年性大腸癌となる人の多くは、太っていないのです。

しかし、小児期に太っていた人がなりやすいようです。

リスクとしては赤身の肉(牛肉や豚肉)の大量摂取やポテトチップスやウインナーなどの”超加工食品”の摂取も関連していると考えられています。

超加工食品のリスク

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癌化は複雑で一つだけのものが原因ということはなく、複合的なものです。

他にも違った角度からの研究もあり、腸内細菌の違いも指摘されています。

大腸癌急増と腸内細菌

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特定の腸内細菌が、免疫機能を低下させ、異常細胞の増殖のパトロールが弱体化され、癌化につながるであろうと言われています。その1つとして代表的なものが、歯周病の原因となるフソバクテリウムです。

フソバクテリウム・ヌクレアタム

また、他に、若年性大腸癌患者の腸内にはクラドスポリウムというカビの1種が多く見つかっています。

アスコ(ASCO)

カタカナで書くと、急に18禁ワードのように見えますが、そうではありません。

ASCOとは米国臨床腫瘍学会のことで世界最大のがん学会のことです。

シカゴで開かれた今年のASCOの学術集会でのいくつかの発表が話題となっており、ここ30年ほど増え続ける若年性大腸癌の原因にさらに一歩近づいたと記事は伝えています。

オハイオ大学の研究者らは若年性大腸癌患者と高齢大腸癌患者の検体を調べました。

すると、先程書いたようにやはり、若年性大腸癌の患者の腸内にはフソバクテリウムが多いことが確認されました。

糖の摂取が多く、食物繊維が少ない

また若年性大腸癌患者の食事内容を調べると、糖の摂取が多く、食物繊維が非常に少ないということもわかりました。

食物繊維は血糖値の急上昇を抑え、腸内細菌のバランスを整え、炎症を抑える作用があります。

老化を早める

フソバクテリウムが腸内に多くいると、慢性的な炎症を引き起こします。

その慢性的な炎症により、細胞の老化につながります。

今回の研究によると、若年性大腸癌患者の”多糖少繊”の食事によりフソバクテリウムが増えると、平均して実年齢よりも15年、腸の老化が進んでいる事がわかりました。

炎症老化が若年性大腸癌の原因か

この減少を炎症老化(inflammaging)と呼びます。

老化した細胞は、脆弱で障害を受けやすく、遺伝子変異が起こりやすいため癌を含む病気になりやすいです。

一方で、高齢大腸癌患者の細胞年齢は、実年齢と変わりませんでした。

こうしたことからも、現代の偏った食生活により腸内細菌の乱れが起き、特に慢性炎症を引き起こす”悪玉菌”が増えたことが若年性大腸癌の増加に関係しているのではないかということでした。

腸内毒素症

近年、腸内毒素症という言葉が注目されています。

腸内細菌叢の菌種の変化や細菌数の減少により細菌叢の多様性が低下した状態のことを指します。

原因としては、偏食抗生剤の多用、病原体感染、遺伝的な免疫異常、ストレスなどがいわれています。

腸内毒素症とは

たとえば、国内でも2022年に熊本大学腸内毒素症が大腸癌の進行を早めることを報告*2しています。

また最近では腸内毒素症とうつ病や統合失調症などの関連も指摘されています。

一方で、食物繊維をたくさん取ることで便秘の解消だけでなく、腸内細菌叢の安定につながることがわかっています。

USDA(米国農務省)によると、アメリカ人の95%が食物繊維の摂取量が不十分(平均摂取量 10-15g/日)であると報告されています。

レタス9個食べましょう!?

USDAの推奨では成人で食物繊維は25-30g/日 (レタス9玉分くらい)の摂取を推奨しています。はい、ご想像の通り日本人も多く食物繊維が足りていません。

ゴボウやダイコンなどの堅めの野菜や海藻類、玄米などをたくさん摂りましょう。

エナジードリンク

またASCOで発表されたフロリダ大学の研究が興味深いものがありました。

エナジードリンクには、皆さん耳にしたことある、タウリン(英語ではトーリンと発音)という成分がたくさん含まれています。タウリンはイカ、タコ、貝などにもたくさん含まれています。

タウリンについて

深海にいると、地底から硫化水素と言う猛毒が湧き上げてきます、要は天然の温泉です。この猛毒を無毒化するのにタウリンを使っているそうです。だから、魚介類にはタウリン豊富なんですね。

ま、そもそも人間は体内で合成できるし、日本人は魚介類の摂取が多いことから、エナジードリンクの必要性はほぼないんですが、信者はいますね(笑)

で、人間がエナジードリンクをたくさん飲んで、高濃度のタウリンを摂ると、硫酸還元菌という細菌が増えて、腸管粘液が減り、バリアがなくなることで、腸粘膜で炎症が起きてしまい、最終的に癌化を促すのか?ということを検討しました。(説明長っ)

エナジードリンク過多で大腸癌?

で、結果として研究者らは恐らく関連があると見ており、高濃度タウリンにより硫酸還元菌が増え、若年性大腸癌のリスクを高めいてる可能性があるとしています。

ただ、基礎知識として、タウリンの体内の量は一定に保つように腎臓で排泄・再吸収をしています。なので、大量にタウリンが入ったからと言って蓄積することはなく*3、このようなことが起こるというのはホンマかな?という見方もあります。

さいごに

いかがでしたか?

ここ最近の、研究を寄せ集めると、若年性大腸癌の原因は恐らく腸内細菌の乱れにより腸管内で持続的な炎症が起こっていることと考えられています。

どんどん豊かに、どんどん便利になる時代の中で、人々の食べ物も変わっていき、超加工食品や赤身の肉の摂取が増え発癌リスクが増えています。

それだけでなく、堅い食べ物を避けることからも、根菜類の摂取は減り、結果として食物繊維の摂取が少なくなり、糖尿病や高脂血症の生活習慣病だけでなく、腸内細菌の乱れによる癌のリスクも増えているようです。

また、特に若者の間で人気のエナジードリンクに含まれるタウリンもまた、特定の菌を増やすことで腸管内で炎症を促し、若年性大腸癌の発生に寄与していることも指摘されました。

今からでもリスクを下げるには、食物繊維の摂取を増やし、適度な運動をすることですね。

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では、また(^^♪