マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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『脂質が悪いって言いたまえ』

過肥満が心血管系に良くないことは、誰もが知る事実です。

その肥満の原因はカロリー過多です。脂質の取りすぎ、糖質の取りすぎなど。

しかし、長らくの間、「脂質」だけが心血管系疾患の原因として悪者扱いされてきました。

今回はこの裏側を学びましょう〜*1

佐藤さん

60年ほど前の、1967年に名門医学誌のNEJMに掲載されたある研究がキーになります。

ハーバード大学が行ったこの研究は、心血管系に対する砂糖と脂質による影響を比較したものです。

『脂質が悪い』

ザックリ結論としては、砂糖は心血管系は悪い影響はなく、脂質がよくないよと。

心筋梗塞などのリスクを減らすには脂質を減らしましょうとまとめていました。

しかし、今から10年ほど前に、この研究について色々と怪しい事実が出てきました。

実は、この研究に資金提供をしていた団体があり、砂糖研究財団(SRF)という組織でした。

以下、当記事内では読みやすさのために『佐藤さん』と略します(笑)

みんな都合のいい研究を紹介する

例えば、味噌を売る企業は、味噌汁は体に良いといいますし、お酒の企業は少量のアルコールは体にいいといいます。一応、研究結果を元に言いますが、その研究の後ろに誰がいるのか!それが重要です。

こういうのを利益相反と言って、その研究結果によって得する人たちが研究に加わっていると、信頼性が低くなります。これを利益相反といいます。

当時の論文では、この佐藤さんからの資金提供については書かれていなかったのです。

※今は厳しくなっており、こういった利益相反は申告が義務付けられています。

ロビー活動

さて、さきほどの『脂質が悪もの』という研究が論文に掲載されてから50年以上経っていますので、当事者への調査は困難(多くが死去)ながら、佐藤さんを始めとする砂糖業界が、当時、科学界に圧力を行使していたことがわかってきました。

その辺を見ていきましょう。

『砂糖のビジネスチャンス』

1954年に佐藤さんの所長はスピーチでこう述べています。

もしアメリカ人が健康のために脂質を減らすように説得されれば、その代わりの食料を求めるだろう。

そうなれば、アメリカ人1人当たりの砂糖消費量が30%以上増え、大きなビジネスチャンスになるぞ。

しかし、60年代に砂糖と心血管疾患との関連を指摘する研究報告が相次ぎました

そこで、佐藤さんは、現代価値でおよそ5万ドル(750万円)ほど使い、あるプロジェクトを始めました。

『不都合な論文は潰していきます』

そこにはハーバード大学の栄養学のボスを招聘しました。箔を付けるためですな。

そのプロジェクトは過去に出てきた論文をレビューするもので、「砂糖悪者」とする論文をケチョンケチョンに批判していったのです。

そして、1967年、冒頭で紹介した例の論文が有名医学誌に掲載され、実はその裏には佐藤さんがいたことがわかったのです。

企業による研究操作

企業が研究に介入し、自分たちの都合のいいようにデータを改ざんするなどの操作は今もあるのでしょうか?

はい、あります。

コカ・コーラ社の資金提供

2015年にコカ・コーラ社が懇意にしている研究者らが「砂糖の入った飲料は肥満に影響少ない」などといった研究を行っていることが明らかになっています*2

アメリカ菓子協会が、お菓子をよく食べる子どもたちは、あまり食べない子達よりも健康的で肥満も少ないという複数の研究に資金提供し、影響を与えていることもわかりました*3

薬だってそうです。日本で起きたディオバン事件は記憶に新しいです。

ディオバン事件

降圧剤ディオバンの実際の臨床での効果を示すための大きな研究でした。

しかし、日常診療で忙しい現場の医師らの代わりに統計解析などを行ったのが、なんと、販売元のノバルティスファーマの社員で、効果を大きく見せるためにデータを改ざんしたことがわかりました。

さいごに

人はみな自分が得するように考えます。

だからこそ、職種ごとに団体を作って政治家に献金をしたりします。

我々が口にする食べ物や薬においても、残念ながらその事実は変わりないのです。

これはその都度対策を考えて極力減らすようにはなってきていますが、ゼロにはできません。

1つのものの結果などを盲信したり、極端なことにならないことを常に心がける必要があると感じました。

要は なにごともバランスですな

 

では、また(^o^)ノ