マルチリンガル医師のよもやま話

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アメリカとメキシコの国境問題

ハイチからの難民がアメリカとメキシコの国境に押し寄せていることが報道されています。少し前はホンジュラスからアメリカを目指す難民”キャラバン”の問題もありました。

日本は島国のため、このような問題とは基本的に無縁です。今回は、アメリカで起こっている不法移民の問題を背景から学んでみましょう。

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ハイチからの難民

まず、共同通信の記事を少し引用します。

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共同通信記事(9/21)より引用

狭義での北米はカナダ、アメリカの2国で、豊かな国です。中南米は、政治的にも経済的にも不安定な国々がたくさんあります。

まずは、地図から位置関係を確認しておきましょう。

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ハイチ共和国

この地図では、とりあえずハイチの位置の確認と、アメリカとメキシコの国境を流れるリオ・グランデ川を確認できていればOKです。

とりあえず貧しくて治安が悪いんです。そんなとき近くに豊かな国があれば、そこに行ってマシな暮らしをしたいとか、仕事を見つけたいというのは当然理解できますね。

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今、難民が押し寄せる理由

今、大量の人がアメリカに向かっているのは2つ理由があるとされます。1つは7月に大統領が暗殺され国がさらに不安定になっており、8月に2000人以上の死者が出た地震があったことです。

これにより、バイデン政権は人道的支援の名の下、不法移民の強制送還を猶予することにしました。難民たちにとっては「今がチャンス」というわけですね。とりあえずアメリカに入っちゃえ!ですね。

リオ・グランデ川

アメリカへ入る一番の方法はメキシコとの国境から入国するのが簡単とされます。国境にあるのはリオ・グランデ川でしたね。

今回、この難民たちが渡ったところは、テキサス州のデル・リオというところです。ここの地図で見ると川幅は100mほどしかないのです。

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川幅は100mほど

毎年100万人以上*1がこの川を渡ってアメリカに入国し、その9割はメキシコ人*2で、残りがその他の国からです。

国境警備隊

アメリカの国境警備隊は2万人*3ほどいますが、その大半はメキシコとの国境に配置されます。

カナダは裕福な国でアメリカへの密入国は比較的少ないからカナダ側の国境はそれほど人員が要らないのです。

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テキサス州の国境警備隊

アメリカ軍が国境を警備すると言った治安維持活動は法的に禁じられているので、国境警備隊が行っています。

ニュースで馬に乗った人たちががムチを使って、不法入国者を威嚇していたのが流れていましたね。あれは国境警備隊です。

国境のフェンス

麻薬の密輸や密入国の対策として、アメリカとメキシコの国境にフェンスを作るという案は昔からありました。しかし、2国が接するのは3145kmあり、すべてにフェンスを作るのは費用もかさみます。

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国境のフェンス(アリゾナ州)

国境に沿って1000km以上のフェンスを建設する法案(2006年安全フェンス法)が議会を通過し、当時のブッシュ大統領が署名*4しました。

まだフェンスが作られていないところは『仮想フェンス*5と言ってセンサーや監視カメラで国境警備にあたっています。

Trump Wall

2017年1月に就任したトランプ大統領は、すぐに大統領令を署名し、メキシコとの国境に壁を作るように指示しました。これがいわゆる Trump Wall です。

この壁建設の予算は10年間で約2兆円と言われていました。トランプ大統領は、「アメリカが建設してメキシコが費用を払う」と豪語していましたが、メキシコが払うワケもなく・・・笑

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Trump Wall 費用は誰が?

トランプ大統領は壁建設の予算には、軍事費を充てようとしました。例えば、国外の米軍基地への予算を削って回す*6・・・!!

はい、そうです、だから日本や韓国に米軍駐留費の負担を増やせと圧力をかけていたのです。「米軍基地の予算を減らすから、当該国がその分を出しなさい」てなとこですね。

2019年から壁の建設が始まりましたが、2021年にバイデン大統領が建設を中止*7しました。

壁による大きな副作用

不法移民を阻止したり、不法薬物の流入を防ぐために国境をしっかりと守ることは国としては支持されそうですが、実はそう簡単な問題ではないのです。

アメリカの農業の担い手の約半分は実は低賃金の不法入国者*8なのです。

こういった人たちは seasonal farmworker と呼ばれ、収穫などの時に出稼ぎに来るのです。つまり、アメリカとメキシコを行き来するわけです。彼らなしではアメリカの農業は成り立ちません。

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国境の壁は難しい・・・

完全に国境を壁で閉ざすと、密入国は減るでしょうが、既にアメリカに入ったseasonal workers はメキシコに戻れない(or 戻らない)ので、結局、不法移民はアメリカにとどまり続けることになるという指摘*9もあります。

また、密入国の簡単なルートが壁でふさがれることで、難易度の高い山越えなどを行って入国を試みて命を落とす人が増えている*10という問題もわかっています。

まとめ

いかがでしたか?

貧しく、政治不安定な中南米の国から仕事を求めて、あるいはマシな暮らしをするためにアメリカを目指します。そんな彼らにとって一番入りやすいのはメキシコからリオ・グランデ川を渡って入国することです。

不法移民は、当然『不法』なので、認められません。中には犯罪に手を染めて、違法薬物を持ち込む者もいます。また他にも様々な問題があります。

移民政策の問題点

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しかし、陸続きの国境を閉ざすのは非常に難しく、費用もかさみます。また、実際建設を始めると、意外な副作用なども出てきました。

これらは、島国・日本では理解できないお話ですね。

では、また(^^♪