マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

MENU

『リカバリースーツで疲労回復』

最近、テレビやSNS、ネット広告で見ない日がないほど話題のリカバリースーツ

「着て寝るだけで疲れが取れる」「トップアスリートも愛用」といった魅力的なキャッチコピー。

今回は、リカバリースーツの「科学的な仕組み」「エビデンスに基づくメリット・限界」、「このビジネス業界の裏側」まで、徹底的に深掘りして解説します。

1. 「着るだけ」で効く

まず、私たち人間は生命活動に伴って常に「熱」を発しています。

この熱は物理学的には「遠赤外線」という電磁波として、常に体外へ逃げていっています。

赤外線とは・・・

赤外線の中でも、波長が長い方にあるのが、遠赤外線です。

水分子を振動させて熱を発生するので内側から温められます。炭火焼、七輪、サウナ、岩盤浴…この辺は遠赤外線効果ですね。

遠赤外線とは・・・

リカバリースーツの生地には、微細に粉砕されたセラミックトルマリンなどの特殊な鉱石パウダーが練り込まれています。

 この鉱石には「人体から放出された遠赤外線を効率よく吸収し、そのまま体に跳ね返す」という特性があります。

つまり、リカバリースーツを着ると「自分自身が放出した熱を逃さず、自分に送り返すことで、じんわりと保温し続ける」という自給自足の温熱システムなのです。

なんか、地球温暖化と似てますね、いわば”自分温暖化”です。

赤外線や紫外線

www.multilingual-doctor.com

2. 科学的根拠

これらのリカバリースーツ科学的根拠はあるのでしょうか?

厚生労働省に届け出されている製品の臨床試験データなどを基に、整理しました。

① 微小循環の改善

サーモグラフィーやレーザー血流量計を用いたヒト試験において、未加工の普通の服(綿100%など)を着た状態と比較して、リカバリースーツを着用して60分〜120分経過すると、皮膚表面の血流量が平均して約5%〜15%増加するデータが確認されています。

血管が適度に拡張し、毛細血管レベルでの血液循環がスムーズになることが実証されています。

② 皮膚表面温度上昇

輻射熱によって、着用後30分〜60分程度で体表温度が0.5℃〜1.0℃ほどジワジワと上昇します。

 電気毛布のように急激に熱くなるのではなく、あくまで「お風呂上がりのじんわりとした温かさがずっと続く」ような穏やかな温度変化です。

これにより、冷えに起因する筋肉のコリや強張りが和らぐ効果が期待できます。

③ 疲労物質の回収

血流が改善されることで、日中の運動やデスクワークで筋肉に溜まった代謝産物(老廃物や乳酸など)の運搬がスムーズになります。

さらに、体を締め付けないゆったりとしたカットラインと適度な保温感は、交感神経→副交感神経に、つまり「緊張モード」から「リラックスモード」へと切り替えるスイッチになります。

結果として「入眠がスムーズになる」「途中で目が覚めにくくなる」といった睡眠の質の向上につながるのです。

3. リカバリースーツの限界

ここまでの話を聞くと「素晴らしい商品だ!」と思えるかもしれませんが、客観的に見てみましょう。

限界①:「お風呂」に勝てない

血流量10%アップというのは、決して小さくありませんが、劇的でもありません。

正直に言って、「しっかり湯船に浸かって温まること」や「寝る前に軽くストレッチ」の効果に比べれば、スーツの血流促進効果は遥かにマイルドです。

ちょっとは効果があるかもっていうのが実情で、ほとんどがプラセボ効果とも言えます。(ま、いわゆる『個人の感想です』って表記)

ところで、湯船に10分ほど浸かると、血流量は2倍くらいに増える(=100%アップ)とされ、こうすることで老廃物の運搬もスムーズになります。

ただし、お風呂による血流量upは圧倒的ですが、持続時間は1時間〜1時間半くらいと言われています。

長く効くという意味では、着ている時間効果のあるリカバリースーツに軍配が上がります。

限界②:脱ぐと元通り

薬のように成分が体内に残るわけではありません。

当たり前ですが、服を脱げば30分〜1時間程度で体温も血流も元の状態に戻ります。

つまり、着てる間だけ多少の効果があります。

限界③:痛みは取れない

筋肉の冷えや張りには有効で、それに伴う肩こりなどは少し改善する可能性があります。

しかし、怪我や急性炎症による痛み、ヘルニアによる神経圧迫などによる痛みには当然効果はありません。

4. 業界の裏側

市場が急速に拡大したことで、消費者からは見えにくい「ビジネス上の問題点」も増えています。賢い買い物をするために、以下の3点は必ず知っておいてください。

闇①:「一般医療機器」

多くの商品のパッケージに「一般医療機器」というマークが印字されています。

これを見ると、多くの方が「厚生労働省が厳しく審査して、効果を保証したんだな」と勘違いしてしまいます。

しかし、これは誤りです。

一般医療機器(class I)

一般医療機器(クラスI)は人体へのリスクが極めて低いため、行政の運用上「事前審査なしの届出のみ」となっています。

メーカーが自主的に試験データを保管して届出を出しているだけであり、国が一つひとつの商品を個別に審査・承認しているわけではありません

この制度の仕組みを逆手に取り、「国が認めた疲労回復ウェア!」と過剰にアピールする悪質なマーケティングが横行しています。

闇②:便乗・粗悪品の乱立

リカバリースーツは一着2万円〜2万5,000円と高額です。

原価は公表されていませんが、大手ブランドの売上総利益率が70%であることから推測すると、原価はおよそ6000〜7000円程度となります。

残りの額は、広告費、インフルエンサーへの支払い、開発費、会社の利益となります。

「健康市場は儲かる」と見た一部の参入業者が、医療機器の届出すらせず、鉱石を微量練り込んだ単なるパジャマを「リカバリーウェア」と称して高値で販売するケースが急増しています。

また、リカバリーウェアが人気であれば、広告を出さなくても、類似品(粗悪品含む)は便乗で売れますから安上がりです。

最低限、その商品が『一般医療機器(I)』の届出をしているかくらいは確認しておきましょう。

闇③:他の生活習慣

最も危険なのは、「2万円の服を着ているから、睡眠不足や乱れた食生活、運動不足をチャラにできる」と錯覚してしまうことです。

疲労回復の本丸は、どこまでいっても「十分な睡眠時間」「バランスの良い食事」「適度な運動」「入浴」などです。

これらを怠ったまま服だけに頼っても、根本的な疲れが取れることはありません。

5. 結論:あなたは買うべき?

以上の科学的根拠と業界の裏側を踏まえた上で、結論をまとめます。

買っても良い人

  • 冷え性で、夜中に寒さや肩こり・腰の張りで目が覚めてしまう人
  • シャワーだけでなく湯船にも浸かり、さらに睡眠環境を極めたい人
  • プラセボでもなんでも『実感』できることを重視する人

買わなくて良い人

  • 「着るだけで劇的に疲れが・・・」と期待している人
  • 普段シャワーだけで、湯船に浸かる習慣がない人(まずは入浴から!)
  • 睡眠時間が足りず、生活習慣が乱れきっている人(まず睡眠を)

まとめ:正しい知識を

リカバリースーツのメカニズムは決して「詐欺」ではありません。

ただ、同時に劇的な効果があるとはとても思えません。

ただ高額なこと、SNSでインフルエンサーが勧めていること、「一般医療機器」という響き、こうしたことでプラセボ効果を持たせてくれるという意味では、まぁ、欲しい人は買ってもいいんじゃない?というレベルですね。

現状で、私には『不要』と。。

 

 

では、また(^o^)ノ