マルチリンガル医師のよもやま話

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隔離措置と入国制限について考える

クルーズ船の隔離措置について世界各国から批判を浴びている日本ですが、本当に3700人以上の人を一気に受け入れて一人一人隔離するような場所があるのでしょうか?

有事に病院の受け入れ態勢は大丈夫でしょうか?

批判をするのは簡単ですが・・・

 

さて、いずれにしても後手後手に回る日本政府の対応について考えてみようと思います。キーワードは検疫です。

 

 

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検疫とは

検疫とは海外から飛行機なり船舶なりで国内に入ってきた、あるいは国外に出ていく食べ物や動物、植物について病気にかかっていないかなどを調べることです。

また、感染や病気の可能性があると判断された場合は一定期間の隔離を置いて最終的に判断することもこの言葉に含まれます。

英字ニュースなどを読まれる方はもう今回で見飽きたかもしれませんが、quarantineという単語を使っていますね。これはイタリア語の quaranta (40)から来ています。

14世紀にペストが流行したときに、海外から来た感染が疑わしい船を40日間(quaranta giorni)沖に停泊させたことがルーツとされています。

 

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検疫中の国際旗

日本での検疫

日本で検疫の対象となっている感染症はおそらく皆さん耳にしたことあるものばかりです。エボラ出血熱、天然痘、ペスト、新型インフルエンザ、ジカウイルス、新型コロナウイルス感染症MERS、マラリアなどです。

さて、ほとんどのものに共通していることがあるんです。この中で、ペストはペスト菌という細菌による感染症、マラリアはマラリア原虫という寄生虫による感染症、なんとそれ以外はすべてウイルスによる感染症なのです。

 

SARSとMERSもコロナウイルス

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細菌とウイルス

さて、なぜウイルスによる感染症が上にたくさん出てきたのでしょうか?何か細菌と違いがあるはずですね。

細菌とウイルス、この2つは似ているようで全然違います。まず大きさが全然違います。ウイルスは細菌よりもさらに小さく、1/50 以下です。それ以外の特徴についてものすごく簡単に説明します。

 

<細菌の特徴>

一つだけの細胞を持つので単細胞生物と言われます。細菌は自分の力で増殖することができます。細菌を殺す薬が抗生剤です。抗生剤はたくさんの種類があり、基本的には対応できます。

しかし、薬剤耐性菌というものがあり、普通なら効くはずの抗生剤が効かなくなってしまった細菌が出てきているのです。これは抗生剤の乱用などが原因となっています。

 

<ウイルスの特徴>

ウイルスは、小さく自分の細胞を持っていません。増殖するためには他の生物の細胞内に入り込んで自分の複製を作りますウイルスには抗生剤は効きません。いくつかのウイルスには効果のある抗ウイルス薬があります。インフルエンザウイルスやヘルペスウイルスに効く薬は見つかっています。

しかし、多くのウイルスには治療薬がないのです。なので、極端に言えば、治るにはあなた自身の自然治癒力に期待するほかないのです。(ウイルス感染は3-7日ほどで回復することが多いです。)

 

検疫法における隔離措置

検疫法にのっとり、上記感染症に感染している場合は隔離することができます。重要なので繰り返します。「感染が確認できている者」に対しては隔離することができます。

つまり、感染しているかもしれないだけでは原則隔離ができません。なので、今回武漢からチャーター機で帰還した日本人の隔離は強制できませんでした。

 

ちなみにダイアモンド・プリンセス号の方は停留措置と言います。新たな感染症などが国内に入ることで大きな被害が出ると予想される場合、感染した可能性がある者を停留することができるというものです。

ダイアモンド・プリンセス号では次々と感染者が出てきましたので、船内にいる乗員・乗客は当然感染している可能性がありますね。なので、上陸させず一定期間(今回は14日間)停留させているのです。

 

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入国制限

出入国管理法という法律があって、これにより先ほど列挙した感染症などに感染している者の入国を制限することができます。また新感染症(今回の新型コロナウイルスも含まれるはず)でヒト→ヒト感染があるものに関して、それが国内で広まって国民に大きな被害が及びそうな場合は、それに掛かっている者の入国を拒否できるとなっています。

今問題となっていますが、コロナウイルスの初期症状は普通の風邪と変わりません。診断をつけるのも難しいです。インフルエンザのようなキットがないのでPCR法という特殊な検査を行うので、感染の可能性が少しでもある人全員にこの検査をするわけにもいきません。

非常にもどかしいですが、診断がつくまでは手が出せない法律の為、日本の対応は後手後手に回っていると思います。可能性があるというだけで入国拒否というのは医学上、公衆衛生上は望ましいでしょうが、人権的に差別などの大きな問題につながりかねないかなり繊細な問題なのですね。

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。

法律の文面と言うのは「解釈」のしようによっては拡大解釈になったりもするもので、いつも非常に難しい問題ですね。

クルーズ船からは日に日に新しい感染者がでてきています。感染者が出た場所に引き続き置いておくことは当然望ましくありませんが、一気に3700人を移動させて隔離できる場所の確保ができていないので動けないといった状況でしょうか。

そういう意味では、各国の乗客退避は日本からしてはよかったのではないでしょうか?今までは検疫対象の人数が減れば日本も動きやすいですし。