マルチリンガル医師のよもやま話

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令和の禁酒法『酒類提供の終日停止』

一部地域での感染急拡大に伴い3度目の緊急事態宣言は東京都、大阪府、京都府、兵庫県に17日間の予定で出されております。第4波については前回記事にしていますのでぜひご覧ください。

第4波をデータから見る

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さて、今回の緊急事態宣言は短い3週間という設定で、これは先立って蔓延防止措置をしていたからというのと、5月17日にIOC(国際オリンピック連盟)のバッハ会長が来日するからというのと二つの理由かと推察します。(笑) それまでに解除したいんでしょうね。

コロナ禍でオリンピックなぜ?

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緊急事態宣言下では商業施設の休業要請ともう一つ、酒類提供の終日停止というものがあります。禁酒法ですね(笑)

ということで、今回は昔アメリカで実際にあった禁酒法について学んでみましょう~

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禁酒法ができた背景

まず背景を知っておきましょう。キリスト教の多いアメリカでは、アルコールは神からの贈り物であるが、その乱用については悪魔の仕業であると考えられてきました。

段々と科学も発達していき、19世紀に入ってからは、アルコールの乱用は身体そして精神に有害であるとわかったことで、アメリカ内で禁酒協会が次々に設立されました。

敬虔なキリスト教信者(特にメソジストというプロテスタント系)の間で禁酒の教えを広まっていきました。そして1881年にカンザス州で初めて禁酒法が制定されました。(州憲法なのでその州だけで適応されます)

この禁酒法の勢いはすごく、気づけばアメリカの南部の州で次々と禁酒法が制定されていきました。

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ポイント1

進歩的な時代

”進歩的な時代”という言葉をご存知でしょうか?1890~1920年代の革新主義時代のことです。この30年ほどの間にアメリカの政治や社会の改革が急激に進みました。

当時は地方のドンが政治力を持っており、組織票が幅を利かしていました。そういったところにメスを入れなければよい時代は来ないと考えられました。

日本の政治家も高齢な方が多く、2世や3世が当たり前で、そういう人たちは癒着や組織票があるので選挙に強いんですよね~ つまりこういうのを打破しようとしたのがこの"進歩的な時代"なわけです。

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地方の有力者の力を弱めるために利用されたのが禁酒法です。というのも、地方のドンたちは往々にしてバーに行き、酒を飲んで談合をするからです。そして腐敗政治を一掃するために女性参政権を進めました。

こうしてアメリカの政治・社会の重大なターニングポイントと合いまり禁酒法は急成長したのでした。

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ポイント2

ドライとウェット

禁酒法を支持する人たちはドライ、反対する人たちはウェットと呼ばれました。アメリカの二大政党である共和党民主党の内部にもそれぞれドライ派閥とウェット派閥がありました。そりゃそうですよね、酒が好きな人もいれば、全く興味ない人もいるので。

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ドライとウェット

ただ両党とも、ドライの方がウェットよりも多数派でした。しかしながら、党内が二分にされるこの禁酒法を国レベルの憲法にするのはリスクが高いです。というのも、大統領選で禁酒法について明言すると、党内での逆の派閥の支持者を失う可能性があるからです。

この流れで行けば、普通に考えて禁酒法は国のレベルでの制定はないでしょう。ところが。

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ポイント3

第一次世界大戦

第一次世界大戦(1917~)でアメリカはドイツに宣戦布告しました。これによりアメリカ内で『ドイツ=悪』という空気ができたのです。

実は、アメリカ内での大手のビール会社はほとんどがドイツ系の会社でした。そのせいもあり、ビールも悪とされる流れができてしまいました。

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第一次世界大戦による影響

さらに、禁酒法に反対するウェット派閥の議員の多くはドイツ系アメリカ人でした。この第一次世界大戦でアメリカ vs ドイツ の構図により、これらの議員の発言力は低下してしまいました。

こうして、戦争による世論の変化により、アメリカ内で禁酒が正義となり、1919年についに連邦禁酒法が制定されました。この禁酒法は製造・販売を禁止するものであり、飲酒してもお咎めなしでした。

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ポイント4

もぐり酒場(speakeasy)

禁酒法の制定によりアルコールの製造、販売と輸送は違法となりましたが、当然お酒を飲みたい人がいる以上、こっそりと提供する”もぐり酒場”の需要も高まるわけです。

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禁酒法の内容

アメリカはカナダやメキシコに隣接しているので、国境を越えて酒を飲む人が増えたり、不法輸入も横行しました。

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残念すぎた禁酒法

日本の違法ドラッグを売る人は誰でしょうか?これと同じです。マフィアが密造酒を製造したり、不法輸入したお酒を高値で売ったりして勢力を拡大していったのです。密造酒により死亡事故なども多数ありました。

また、医療用の消毒に使うエタノールは薬局で入手できますし、医者の処方箋があれば治療用でウイスキーが買えました。

ダメと言われれば余計にやりたくなる、これが人間の心理なのでしょうか。禁酒法制定以降に酒場の数、酒の消費量、そして飲酒運転摘発件数が増えました。(笑)

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ポイント5

禁酒法の廃止

もう、こうなれば結果はわかりますよね、ルーズベルト大統領が1933年に廃止しました。その後も州憲法として禁酒法を継続する州もありましたが、徐々に姿を消していきました。

実は廃止の理由は他にもあります。それは税収です。本来アルコール税で毎年5億ドルの税収があるのですが、それが入ってこなくなり政府の財政状況も悪くなったからです。

タバコやお酒の嗜好品の税収は侮れないんですね~ふむふむ

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ポイント6

現在への影響

実はこんな昔の出来事ですが、現在にも影響を与えています。

さきほど、アメリカ内の大手ビール会社はドイツ系といいましたが、禁酒法とともにほぼ絶滅しています。禁酒法廃止後はアメリカのラガースタイルが受け入れられ、バドワイザーやクアーズなどの国産会社が台頭してきました。

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アフター禁酒法

アメリカはあれほどの広大な国なのにワインはカリフォルニアくらいしか有名でないですよね。それは禁酒法で、ワイン産業が壊滅的となり質の高いワインの製造ができなくなったことが影響しています。

お酒以外の分野でも影響はあります。飲用アルコールの製造禁止により、アルコール自体の製造が縮小しました。それにより燃料のアルコールも衰退しました。それに取って代わったのが石油です。現在石油産業が相当な政治力があるのも禁酒法も一因としてあります。陰謀論としては石油産業が禁酒法を広めたのではないか?という説もあります。笑

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ポイント7

まとめ

100年以上も昔にアメリカで制定された禁酒法。もとは、宗教色が強かったのが、腐敗政治の清浄化という時代背景とともに広がりました。

また、第一次世界大戦により『ドイツ系ビール=悪』となり、さらに禁酒法は支持されていきます。

しかし、予想とは裏腹に、酒の製造量や飲酒運転などは増加し、政府もアルコール税収が減り財政状況が悪化しました。また、高品質なワインをつくる風土も一掃されてしまいました。

禁酒法が廃止されてからは、国産ビール会社が力を持ち、また、燃料として石油産業の力が大きくなり今にいたります。

なかなか奥の深いものでしたね。

では、また(^.^)ノ