薬学部が4年から6年制になったのは2006年で、今年で20年になります。
この大きな変化で社会には一体何が起きたのか、政治的背景も元に学んでみましょう。

1. 大きな理想で始まる
2006年、薬学部6年制が始まりました。
この改革の根底にあったのは、「医薬分業の完成」と「薬剤師の専門性飛躍」という高い理想です。
かつての日本の医療現場では、医師が診察したあと、薬は院内処方が主流でした。
薬価は国で決められていますが、製薬会社は他社との競合もありそれよりも安く病院へ納入します。
医療機関は処方した薬と納入価との差益も収入源です。特に新薬は薬価が高いので、1錠あたりの差益が大きく、医療機関はどんどん新しい高い薬を使うようになりました。

しかし、この仕組みでは「薬を出せば出すほど医療機関の利益になる」という構造が存在し、過剰投薬や不必要な長期処方、医療費の増大といった問題が恒常化していました。
そこで政府は、医師と薬剤師の役割を明確に分離する医薬分業を強力に推進し、「医師の過剰処方抑制」「薬剤師によるダブルチェック体制」を進めると同時に高度化するがん治療や感染症対策、医療チームへの参画に対応するため、薬学部の教育期間を6年制へと切り替えたのです。
2. 『医療費抑制』の嘘
しかし、制度導入から20年が経過した現在、本当に医療費の抑制や最適化につながったのでしょうか。
結論から言えば、院外処方になり、医療機関と別に薬局で管理料や調剤技術料が加算されるので、当たり前ですが医療費を増加させています。
どのビジネスでも仲介業者を挟むと、最終の価格は高くなりますよね、それと同じです。

現在、全国には約6万店もの調剤薬局が存在し、大手コンビニエンスストア(約5.5万店)を上回る数です。
なぜこんなに多いのか?
ビジネス的な答えは単純で「儲かるから」です。
特に門前薬局と言って、医療機関のすぐ近くに作られる薬局は、医療機関の患者をほぼほぼそのまま受けるので、集客努力も不要です。(医療機関が頑張って集患するのみ)

医療モールと言って、内科・小児科・整形外科などが一箇所に集まっているところは便利ですよね。あれは誰が経営してるのか?
大手の薬局です。
モールを作って開業医を呼んで、開業支援・コンサルを”親切に”やって、それらからの患者の処方を根こそぎ1箇所でやるのです。
日本の医薬分業では、結局医療費高騰しただけで、マンモス薬局を作り上げただけです。
3. 薬学部乱立
「医薬分業の推進」と「6年制化」の陰で、もう一つの致命的な政策的失策が行われていました。
それが2000年代初頭の小泉内閣による「構造改革特区制度」に乗じた薬学部の規制緩和です。
① 思惑の一致
少子化が進行する中、私立大学経営陣にとって「国家資格を取る医療系学部」は高額な学費を設定でき、受験生と保護者を確実に引き寄せられる「最強の目玉学部」でした。

また、地方の過疎化や若年層の流出に悩む地方自治体にとっても、「若い学生の流入」「地域活性化」を掲げて大学を誘致できる絶好の口実となりました。
政治家や大学理事長らの政界パイプや特区申請により、千葉科学大学(加計学園グループ)をはじめとする私立大学が相次いで薬学部を新設・増設しました。
② 6年制化の裏側
こうして、かつて約8,000人だった薬学部の入学定員は一気に13,000人規模へと急増しました。
しかし、需要や学生の適性を無視して作られた新設薬学部は、少子化の波にあらがえず猛烈な定員割れを起こします。

高度な医療人を育てるはずの6年制化が、実際には「学力不足の学生を集めて高額な学費を徴収し、国家試験にすら受からない脱落者を大量に抱えるビジネスモデル」へと成り下がってしまったのです。
4. 現場の歪み
こうして大量生産された薬剤師たちが社会に出ると、国のめざしたものとは大きく違った現実でした。
病院で高度な先進医療への参画を狙い6年制としたのに、ドラッグストアでレジ打ちをする薬剤師さんが多いことに驚く人も多いはず。

医療現場で最も高度な症例を扱い、患者の命に直接かかわる病院薬剤師の給与が最も低く、日用品の品出しやレジ打ち業務も行うドラッグストアの薬剤師給与が最も高いという強烈な歪みがあるからです。
私立大学薬学部を卒業するために1,000万円前後の奨学金を背負った若手薬剤師たちは、どれほど「病院で臨床経験を積みたい」という志があっても、毎月の返済に追われて背に腹は代えられず、最も給与水準が高いドラッグストアを選ばざるを得なくなります。
その結果、「6年間大学に通い国家資格を持ちながら、店頭で日用品のレジ打ちや品出しに追われる」という光景が日常化してしまったのです。
そもそも病院で働く医療従事者の給料が安すぎる問題に、さらには政治家との癒着・忖度で規制緩和し乱立し、このザマです。いかに日本の政治が腐っているか。。。
5. 2030年問題
そして今、業界全体を根本から揺るがそうとしているのが薬剤師の2030年問題です。
① 需給ギャップの拡大
団塊の世代が後期高齢者となり、医療需要がピークを迎えています。ここをすぎると、2030年以降、処方箋枚数は減少へと転じます。
一方で、大学からは毎年約1万人規模の新卒薬剤師が排出され続けます。
厚生労働省の需給推計によると、2045年には最大で2.4万〜12.6万人の薬剤師が過剰になると試算されています。
② AI・調剤機械化(医療DX)
薬を棚から取り、袋に詰めるピッキングや一包化、さらには錠剤の鑑査作業を行う自動ロボットが劇的に進化しています。
今後、人件費削減をめざす大手薬局などは、最小限の薬剤師のみ配置しロボット作業を推進すると言われています。
③ 今後起こる4つの激変
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「売り手市場」の完全崩壊: 「資格さえあればどこでも高給で雇われる」バブルは終焉。年収の頭打ち、地方勤務での高年収提示の減少、採用基準の厳格化が進行します。
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門前薬局の大淘汰: 門前薬局は、国の調剤報酬引き下げによって経営が成り立たなくなり、大手チェーンによる吸収合併や廃業・閉鎖が加速します。
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在宅医療・多職種連携への強制シフト: 店舗で患者を待つ調剤から、患者の自宅や高齢者施設へ出向いて薬の管理や指導を行う「泥臭い在宅訪問業務」への対応が生き残りの必須条件となります。
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薬学部募集停止・再編: 国もようやく政策の失敗を認め、薬学部の新設・定員増を原則禁止としました。定員割れが続く私立大学では、定員削減だけでなく募集停止や廃校、他学部への再編が進むことになります。
6. まとめ
「医薬分業の完成」と「医療安全の強化」というお題目のもとで進められた薬学部6年制化と規制緩和。
しかしその実態は、政治と大学の利権、そして無計画な需給予測によって薬剤師バブルを生み出し、国家医療費と現場の労働環境に巨大な歪みをもたらした20年でした。
今後は、大手薬局ではAIやロボットを使用し、人件費削減に進みます。
これから先国が求めるのは、在宅で薬の管理をしたり、病院で高度な医療に関わったり、介護のケアマネージャーら他職種との連携をとれる薬剤師だと明言されています。
薬学部6年制から20年、国の意図とは全く違う方向に進んでいたのでした。
では、また(^^ノ