マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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初潮が早まっている理由

世の中はどんどん便利になっていきますが、人間の身体はそれほど早く進化しません。

だからこそ飽食の時代にも、いつ食事にありつけるかわからない太古の人類と同じように、摂取したカロリーを効率よく脂肪として貯蔵して飢餓に備えるという機能が現代人を悩ませます。

しかし、人間の体でもたった数十年で変わってきていることもあります。

今回は、【初潮が早くなった】*1について学びましょう。

初潮が早まった

ハーバード大学の研究*2によると、1950年から2005年までの調査で、女性の初潮が早まってきていることがわかりました。同時に、生理周期が安定するまでに要する期間は延びていることもわかりました。

初潮が早くなっている

そして、その中でもグループ分けをして見てみると、民族差があり特に少数民族や社会経済状況の低い人たちでその傾向が強いことがわかりました。

ということは、この早発月経生理不順のコンボは人類の進化云々ではなく、生活様式や貧困による栄養状態の悪化などが影響してる可能性が高いようです。

バイタルサイン

月経というのは一種のバイタルサインであると専門家が言っています。

月経が来るというのは『妊娠ができる』という証であるとともに、体内のホルモンが正常に働いていることを示すサインです。

そして、そのサインが不定期になったりするのは、『何かが起こっている』と考えるべきであると。

生理不順は問題アリ

月経が早い年齢で始まり、周期が不順であると、心血管系の疾患や卵巣癌などになりやすいことが過去の研究*3*4からわかっています。

2つのホルモン

月経不順である期間が長いと、エストロゲンプロゲステロンの2つのホルモンのバランス不均衡が続いているという事です。

ザックリと、エストロゲンは子宮内膜の増殖のサインで、プロゲステロンはその増殖の停止を示します。

2つのホルモン

このONとOFFのバランスが取れていることで、正常な子宮内膜が維持されています。

しかし、このバランスが崩れ、プロゲステロンが弱まると、子宮内膜が分厚いままになり、異型細胞ができやすく、将来的に子宮体癌のリスクが上がったり、不妊に悩まされることとなります。

また早発月経の方にも問題があり、精神面の発達と身体の発達にズレが生じてしまいます。

なぜこのようなことが?

ところで、このような現象が起きているのはなぜでしょうか?

まず、初潮が早まっている原因として大きいのは、小児期のBMIが高くなっていることにあります。

特にアメリカでは小児の肥満は年々大きな問題もなっています。

肥満とエストロゲン

脂肪が多いと、エストロゲン濃度が高くなりやすいことが知られておりますし、あと、動物性タンパクの摂取が多く、果物や野菜の摂取が少ないと、同じようにエストロゲン濃度が高くなりやすいです。

なので、同年代のこと比べて、肥満児は思春期早発症になりやすいのです。

似たようなもので、糖を含む飲料をたくさん飲むと初潮が早くなる*5こともわかっています。

その他にも、いろいろな説がありまして、環境ホルモンだとか、マイクロプラスチックだとかも影響があるのではと言われています。

ミネラルウォーター危険?

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小児期のストレス

また、小児期のストレスも影響してる*6とも言われています。

貧困、虐待、社会的差別などの経験によるストレスレベルが高いと思春期早発症のリスクが高まります。

小児期のストレスも関係か

ストレスに抗うときにコルチゾールというホルモンが副腎から出ますが、実は性ホルモンも副腎から出ます。

それらはすべて、視床下部→下垂体→副腎のルートで統括されてるので、お互いに多少影響があるのではないか?と言われてます。

乳癌のリスク

過去の研究から初潮が早いと乳癌のリスクが増える*7ことがわかっています。

これは初潮が早いと、エストロゲンに曝露する期間が長くなるからと考えられます。

同様に、エストロゲンが関連するのは子宮体癌です。

アジア人を対象にした研究では、分娩回数が少なかったり、初潮が早いと、エストロゲン曝露期間が長いため子宮体癌のリスクが高くなる*8ことも確認されています。

『初潮が早い』はいいことではない?

つまり、「最近の女の子は成長が早いな~」は、決して喜ばしいことではないのです。

なんとか、このリスクを下げる方法はないのでしょうか?

エストロゲンと反対の動きをするのは、プロゲステロンでしたね。

なので、妊娠する予定のない若いうちに、低用量ピルを用いて、プロゲステロンにも早めに曝露することで、保護的に働く可能性が示唆されています。

さいごに

たしかに、最近の小学生とか見ても、自分のときと比べて大人びた子が、多く見えるのはみんなうなづけると思います。

しかしながら、人間の成長と言うものは、体と心と足並みをそろえて起こるべきものです。

数十年の間での急速な“思春期早発”は、進化ではなく、環境ホルモンや、偏った食生活、必要以上の肥満などの因子によるものと考えるのが自然です。

便利になる生活の中でも、見直すべき点も多々あるようです。

では、また(^o^)ノ

*1:https://edition.cnn.com/2024/05/30/health/menstruation-early-wellness/index.html

*2:https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2819141?guestAccessKey=e56e4ecd-3fe9-46c0-ab03-19d5253f1024&utm_source=for_the_media&utm_medium=referral&utm_campaign=ftm_links&utm_content=tfl&utm_term=052924

*3:https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/JAHA.122.029020

*4:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6917033/

*5:https://watermark.silverchair.com/deu349.pdf?token=AQECAHi208BE49Ooan9kkhW_Ercy7Dm3ZL_9Cf3qfKAc485ysgAAA1MwggNPBgkqhkiG9w0BBwagggNAMIIDPAIBADCCAzUGCSqGSIb3DQEHATAeBglghkgBZQMEAS4wEQQMDwGQpkFNlZvgBqdAAgEQgIIDBgiQPlXeo1nWVhOHDg-rof7whGG4pZea-tkSeItHHrzERAh-2EVL1gUougI38BWUBapk7n24ln_Aoku301LjDRFJHnxmUblj_9gjUPypubtS2LsRmmdTnt74Wv8KZJMpfvAbz9hYxgOLhydxcHHFy6vmDBcOBlxATeJPpjp_gNyj7aQQFkjN1nyXdFY6nM_CJ1pR1V_bFXtY5Ugkog8UCF2mtRPajZFXgDL3HjcqQc8Gp9lLwfFidxJSaK1wlYxYvCYdf4pmMy-GHXBylST2PClMZiet89IQ5NweigzuynM5QsCBmZHI5lLoE2hYLZrtLCV7KC4whnT6ZigYEOezAuYy1JiQywiZWmnTKZsH_wt2RM7PjNss-OPNKWZc6wvFHZYkFLBdB1nlCJI2zJgck0nCsAnZxFj7gZmv4zCdc_meJRm0FBNz8_kCEQxEHsoKZwfzo4U5Hp07lw35b8KhhgsvQK9MydNrZngqIgmsimbydxhZ9jY8cNlGPowQdxoZAzHHcKD99avpQ9_4s_YEPS_c4ED4zC0AY1DWqykAmF4XhbXmxntBvYQjsHIW5E19jlPMiFeny2Rx6vrCYVBGkNTX5KMtQc9zDseN4_Qu0op1uh8csWpJu1GqUWw74R0WupEIYJR30E8vBnciZVhgniiH_mniI2jgaQadq-p2kEhrNjk67ECn6Nsbpo6jH-teeqAsgUgfxJkkLWd1cnalcuaLzdR5iW3mILbecKL9SA9WJtOse4gD7bpM2MHmBUC3xyKlSS5IZvB6faqrwNBn3eq19BP3fNnNawk6W9bjBFw1E9zFUu2GzFziorcsYlzfh962yRvO1QQhksfBC33SzoLK6Ag5Fey3-IHNbmVMwUQUdMZpxphKzVyxrrXarHDL2Et5xmhT30JT3d8TQGGtpCNtTi8qR1qNhs-Vc9OvOk84v05UcQ6_rBCcbH0i_iBSUI-Ol_Xbtvpvz3nlaZBTvBR5CG5d2bCUAUQIraq90MM4cRIKK9dHRQNUyVjEgxfloP15LfgsBQ

*6:https://search.app?link=https%3A%2F%2Fwww.sciencedirect.com%2Fscience%2Farticle%2Fabs%2Fpii%2FS0306453023000793%3Fvia%253Dihub&utm_campaign=aga&utm_source=agsadl2%2Csh%2Fx%2Fgs%2Fm2%2F4

*7:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1172033/

*8:https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/9483.html