マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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コードネーム『オゾンで空間除菌』

コロナの感染経路で接触感染は非常にまれということがわかっておりアメリカのCDC*1もガイダンスを改変していますが、お店などでは引き続きこまめに消毒をしており、多大な労力を使っています。

以前クレベリンを置くだけでコロナウイルスを予防できるわけではないという記事も書きました。まだ読んでいない方はぜひご一読ください。

クレベリンで空間除菌

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↑↑ 要は研究結果は、人間にも有害な濃度の二酸化塩素では新型コロナウイルス抑制に効果があったということです。クレベリンに含まれている二酸化塩素濃度は研究で使用された濃度より圧倒的に薄いです。しかしながら、クレベリン自体で調べてないのでまったく無効かはわかりません。クレベリンはあくまで『雑貨』扱いなので "〇〇に除菌効果" とは謳えません。

今回似たような質問をもらったので、それについても記事にしようと思います。

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いただいた質問

こんなお話を聞きましたので、ぜひシェアしたいと思います。

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素朴な疑問

たしかにタクシーとかでもオゾン発生器積載とか書いてあったりしますよね~。実際どうなんでしょうか。

ま、なんとな~くもう結論は皆さん感づいているかもしれませんが。笑

せっかくなので、いつもどおり少し周辺知識も学んでから結論に行きましょう~~

オゾン

酸素原子 (O) が2つくっついたら 酸素分子 (O2) になり、3つくっついたら オゾン分子 (O3) になります。こういったものを同素体と言います。懐かしい~化学w

身の周りにたくさんあるものが”安定した状態”であり、”安全”というのが基本です。つまり、O2 という酸素分子の状態が安定しているわけです。

O3(オゾン分子)という状態は不安定で、なんとか安定した O2 になろうとしますので、空気中にもごくごくわずかにしかありません。刺激臭のあるライトブルーの気体だそうです。

O3はOがたくさんあるので、酸化力が強いのはご想像がつくかと思います。酸化力が強いので、強力な殺菌作用を持ちますが、濃度が高すぎると人体にも有害です。

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ポイント1

オゾンの発生

不安定なため、大気中には少ないオゾンを発生させるにはどうすればよいのでしょうか。

酸素に紫外線を当てることによりオゾン分子ができます。また、水の電気分解から得る方法もあります。

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オゾンの利用

酸化作用はフッ素(F)に次ぐ強さで、細菌やウイルスの殺菌・消毒の用途で使います。他にも酸化作用により臭いや色を取り除くこともできます。

例えば、水道水の殺菌には次亜塩素酸カルシウム(通称:カルキ)が用いられていますが、匂いや味の変化が多少あります。一方、オゾン (O3) は O しかないので、水に溶けて匂いや味に変化は少なく、使いやすいということで最近利用されています。

医療でも血液クレンジングという名前で、癌の患者の血液にオゾンと酸素を入れて治そうという治療法を推奨するクリニックも多数ありますね。これは、日本では自由診療です!つまり”治療として勧められるほどのエビデンスはない”と考えて下さい。

またオゾンは食品添加物としても承認されており、私たちの食べる食品の殺菌に使われています。

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ポイント2

光化学スモッグ

1970年代以降、日本でも光化学スモッグが大きな問題となりましたが、この主成分はオゾンです。体育の授業などで目やのどの刺激を感じた生徒がたくさんいました。

工場や車の排気ガスの中に含まれるNOx(窒素酸化物)などに紫外線が当たってオゾンなどを発生することで起こります。

1970年代の自動車の保有台数はおよそ1900万台で、現在はその4倍以上のおよそ8200万台に増えていますが、光化学スモッグという言葉はあまり耳にしません。それは排気ガスからNOxを取り除く触媒の技術ができたからです。

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ポイント3

オゾン層

オゾンという言葉で一番有名なものはオゾン層でしょう。オゾン層について少し学びましょう。

紫外線の一部である近紫外線は波長によりUV-A, B, Cに分けられます。

UV-Bはほとんど、UV-Cは完全に、オゾン層で吸収されます。そのため地表に届く紫外線の90%はUV-A、残りわずかがUV-Bなのです。

紫外線と日焼け

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いずれにしてもUV-BやUV-Cへの大量被曝は皮膚癌の原因となりますので、オゾン層は私たちを守ってくれているのです。

しかし、このオゾン層が破壊されつつあるのは有名な話。クーラーや冷蔵庫の冷媒に使われるフロンが原因でしたね。

フロンはオゾン層を破壊するだけでなく、温室効果ガスの1つであり、地球温暖化にも影響を与えます。

しかし、世界中でフロンの排出規制が行われ、破壊されたオゾン層(=オゾンホール)はだんだんと縮小しており、徐々にオゾン層が回復しているのです。

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ポイント4

オゾンとコロナ

さて、ここまでのまとめ。オゾンは殺菌に使えるけど、濃度次第では人体にも有害でもある。ところが、オゾン層のおかげで私たちは紫外線から守られている。

やっと、本題に入って、オゾンは新型コロナの予防に使えるのでしょうか?

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奈良県立医大の研究結果

2020年5月に奈良県立医大が発表したものでは、オゾンガスに1時間ほど暴露させると新型コロナは1/10~1/10000まで不活化できるというものです。

しかし、これについては注意が必要で、オゾンガスの濃度は1ppm~6ppmでの結果です。オゾンは高濃度では人体にも有害で、許容される濃度は0.1ppm以下とされています。

クレベリンの話と同じですね。この濃度で日常生活には使えませんな~

オゾン自体は最終的にはO2(酸素)になるので、残留毒性の心配もありません。なので高濃度で短時間ということで、会議前など人がたくさん集まる前に、人のいない状態でササっと除菌の効果は望めますね。

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ポイント5

藤田医大の発見

その後、2020年の8月に愛知県にある藤田医科大学の研究で、人体に安全な濃度でのオゾンでも新型コロナの除染効果が得られるということがわかりました。

これをもとにオゾン発生器ビジネスも過熱しているわけですが、これについて見ていきましょう。

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藤田医大の研究結果

湿度が80%の状態では、安全な0.1ppmでも10時間後に95%以上ウイルスの感染力が落ち、0.05ppmでも近い結果が得られたそうです。

湿度を55%にすると、効果はやや落ちますが、10時間後に68%の感染力を落とせるそうです。ちなみに日本の湿度は6-10月で60-70%くらいです。そう、何度も言っていますがウイルスは一般的に湿度が高いと感染力は下がります。

なので、これらの結果から夏場ならそこそこの効果は得られそうですね。

安全な低濃度で長時間ということで一般家庭などで常時使用に向いていますね。

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ポイント6

まとめ

オゾンは強力な殺菌作用があるが、濃度が高いと人体にも有害になります。

藤田医科大学の研究で人体に安全な低濃度のオゾンでも、夏場のような高湿度では新型コロナウイルスの感染力を大きく落とせることがわかりました。

結論を言えば、買ってもよいと考えます。

が、僕は買いません(笑)

冒頭でも書いたように、新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染(=瞬間的)が圧倒的に高く、接触感染は極めて低いことが分かっています。

また、空気中に浮遊する空気感染ではありません!それを踏まえると、”空間除菌”はま、要らんかな~といったところですね。

ただ、お店などでは客への安心感を与えるアピールにはなりますよ(^.^)

 

では、また(^.^)ノ

*1:疾病管理センター