マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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マウスウォッシュと癌の関係

歯周病と脳梗塞・心筋梗塞などの心血管疾患や糖尿病、高齢者の誤嚥性肺炎との関連性がわかっています。

また近年、歯周病と大腸癌の関連についても研究されており、当ブログでも過去に記事にしております。

若年性大腸癌の原因

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そんなこんなで、お口のケアをということで、マウスウォッシュをされる方も多いと思ます。

僕も実は1年前からやるようになったんですが。

今回はマウスウォッシュも注意が必要*1だというお話を学びましょう。

リ〇テリン

今回のベルギーの研究で使われたのは、リ◯テリンのクールミント(アルコール含有)という商品です。コレ僕使っていますww

30秒間うがいしろと書かれてますが、口や歯茎痛くなるから無理なんですよね。。。

洗口液 リ〇テリン誕生まで

そもそもリ〇テリンは、19世紀の英国の外科医リスターさんが開発した手術時の消毒薬が礎になっているんです。その後、アメリカで改良が加えられ1914年からマウスウォッシュとして販売されています。

それはさておき、アルコールには殺菌効果があるので、口の中の菌を殺してくれて歯周病を予防するぜ!!という概念は万人にわかりやすいですね。

しかし、ふと疑問はあります。

僕らは普段、細菌感染症の治療で抗生剤を『一時的に』使用して、その原因菌を殺します。

細菌叢のバランスを乱すか

抗生剤は必要以上に使うと、常在細菌叢が入れ替わり、本来なら少数派であるべき菌がこれ見よがしに増えて、生理的によろしくない状況になります。

では、毎日のマウスウォッシュもアルコールで口腔内常在菌のバランス崩れるんでないの?と考えるのは至極普通であります。

2大巨塔の台頭

毎日のリ◯テリン(アルコール入)でマウスウォッシュをしていた被検者を調べると、ある事実がわかりました。

2種類の菌が著明に増えていたのです。

口臭、歯周病、大腸癌のリスクup?

1つはフソバクテリウム・ヌクレアタム、はい、過去記事でやった若年性大腸癌の患者の腸内で増えているやつです。

2つ目がストレプトコッカス・アンギノサス(口腔連鎖球菌)です。

どちらも嫌気性菌といって酸素が嫌いな細菌で、口臭の原因となりますし、他にも、歯周病、大腸癌、食道癌に関連する菌です。

口腔内常在菌は摂取する食事内容にも左右されますが、今回の研究では食事内容、喫煙習慣などは調査されていません。(←え、それちょっとヌルいんちゃうか?笑)

アルコール

この研究では、被検者はアルコール含有のリ◯テリンを3ヶ月使用し、その後アルコール非含有のものを3ヶ月使用しました。もちろん順序による影響も考慮して、逆順序の被検者も設けています。

同性愛者の感染症対策が元の研究

で、実はこの研究の当初の目的は、同性と肉体関係を持つ男性淋菌クラミジアなどの性感染症を減らす方法を模索するというものだったのです。

詳しくは書けませんが、男性同士だと、口腔内の菌が原因となるのは自明ですな。

それで、それを減らすためにマウスウォッシュどないやろ?っていうのが元の研究目的だったそうです。

で、リ◯テリンなどのマウスウォッシュは大抵はアルコールが含まれており、殺菌作用を謳っています。

一方で、刺激性や味などから苦手な人向けに、多くはないですがアルコール非含有のマウスウォッシュもあります。

こちらは、口腔内常在菌のバランスを整えると謳っています。

歯周病対策で歯周病?

最初に述べたように、アルコールが含まれているマウスウォッシュを定期使用していると、その殺菌作用で常在菌も死んでしまい、あまり好ましくない嫌気性菌が増えてしまう事がわかりました。

歯周病予防でやっているのに、増えた嫌気性菌が原因で歯周病になったり、後々食道癌や大腸癌のリスクを上げてしまうのでは元も子もありません。

著者らのメッセージ

こうした結果から、論文の著者は、アルコール入りのマウスウォッシュの使用にはリスクがあることも知る必要があるとしています。その一方で、決してリ◯テリン使用を”非推奨”しているわけではないとも言っています。

訴訟対策ですな(笑)

とりあえずは短期間使用は問題ないけど、長期間連日使用はあまり望ましくないだろうと結んでいます。

もちろん異論も

この研究内容に異論を唱える研究者もいます。

ニューヨークの家庭医、Dr.エリック・アッシャーはその一人です。

マウスウォッシュを使うことが直接的ながん発生の原因にはならないと。

喫煙者で、お酒も飲んで、不健康な食事をしているような人が、アルコール入りのマウスウォッシュを使うと、さらにリスクが少し高まるということはあるだろうと。マウスウォッシュが単独でがん発生につながるとは考えられないとしています。

今回の研究のよわいところ

そうです、今回の研究の残念なところは、被検者の喫煙歴や普段の食事などが全く考慮されていないこと、そして、何より実際これらによりがん患者が増えたというデータがないことです。がんは複合的な原因で起こります

さらにもう一つ、【量】の概念も抜けてます。

今回の論文は『毎日使用』とだけで、1日何回というのもわかりません。

もしかしたら1日に5-6回やってたら口腔内常在菌に影響あるけど1回ならそんな変わらんとかかもしれませんよね?その辺がユルユル。

まぁ、それもそのはず、今研究はもともと男性同士の・・・・(以下省略)

アルコールの意味

さて、ここまでアルコールでの殺菌をやりすぎたらよくないんちゃうかって流れで見てきました。

しかし、ここで重要なことを申し上げましょう。

リ〇テリンのアルコールは殺菌目的ではない*2のです。

『アルコールは殺菌目的でない』リステリンHPより

リ〇テリンの殺菌作用の有効成分はシネオールチモールといった化合物なのです。で、これらをうまく混ぜ合わせるためにエタノールが含まれています。

また、リ〇テリンに含まれるアルコール濃度は26.9%*3だそうで、お酒にすれば高いですが、通常消毒などでは70~95%の濃度が必要*4とされます。

つまり、リ〇テリンに含まれるアルコール程度で口腔内の菌が死にまくる・・・なんてことはなさそうです。

アセトアルデヒド

アルコール含有だろうが、非含有だろうがマウスウォッシュでの殺菌には関係がないということです。

では、なぜアルコール含有のマウスウォッシュでは、よろしくない菌がはびこったのでしょうか?

ま、1つ挙げられるのは、アルコールを使うと口腔内が乾燥しやすくなる点です。唾液には抗菌作用や菌排出作用があるので、唾液が減ると、歯周病などになりやすくなります。

アルコール非含有のものでいい

一方でアルコールについてはもう一つ考えるべき点があります。

アルコールは分解されるとアセトアルデヒドという発がん性物質ができ、アルコール度数の高いお酒を飲む人は食道癌口腔癌などのリスクが上がることは知られています。

つまり、アルコール自体が癌のリスクを上げます。

ということで、アルコール非含有のものにする方が望ましいのでは?という考え方ができます。

さいごに

いかがでしたか?

マウスウォッシュは歯周病や口臭予防に広く使われています。

口腔内の殺菌を長期に行っていると、常在細菌叢が変化してしまいます。

今回の研究では、あまり望ましくない、嫌気性菌2種が増えていることがわかりました。

これだけで、大腸癌や食道癌が起こるかといえば、可能性は低いとは思ますが、一因とはなりうると考えられます。

この他にも、アルコール含有マウスウォッシュが口腔癌のリスクを上げうる*5*6という大規模研究もあります。

かといって、歯周病や虫歯対策は重要です。

これらを考えると、アルコールが含まれないマウスウォッシュにするのがよさそうですね。

 

では、また(^o^)ノ