新型コロナ感染症が5類感染症に変更となり、少しずつ前の生活に戻りつつある中、何やら騒がしいのが同じく5類の『はしか』ですね。
今回はこのはしか(麻疹)について復習しておきましょう。
東京で3年ぶり
まずは今騒がれているニュースをさらっと触れておきましょう。
ゴールデンウィーク後半の初日 5月3日、30代女性と40代男性(A氏)に発熱や咳などの症状があり、その後の検査で麻疹と診断されました。
東京都内での発生は、なんと3年ぶりということです。
詳しく調べると、この2人は4月23日に新幹線を利用していました。
この同じ車両に乗っていた30代男性(B氏)は、既に麻疹症状があったことから、この男性から感染したものと考えられます。
B氏は、4月14日にインドから帰国した30代の男性でした。麻疹の潜伏期間は1~2週間位ですので、インドで感染したと考えるのが妥当です。
厚生労働省によると、インドやネパールでは麻疹が流行しており、風土病*1とされています。実際、今年の1月後半からネパールとインドの国境付近でアウトブレイクが発生しています。
また、5月3日に受診したA氏は、翌5月4日にも新幹線を利用しており、今後の麻疹の発生が危惧されています。
『命定め』
さて、それでは麻疹(はしか)についてみていきましょう。
古来からの日本名・”はしか”は『はしかい』という(チクチク的な?)方言に由来するとされます。
中国では、皮疹が麻の実のように見えることから麻疹と呼ばれていました。
麻疹はかなり昔から認識されており、江戸時代でも13回の流行があった*2と言われています。
かつてはたくさんの人が命を落とし、有名どころでは、生類憐みの令で有名な徳川綱吉やハワイの国王、カメハメハ2世も麻疹で亡くなっています*3。
天然痘と並んで致死率が高かったので、かかれば死ぬかもしれない『命定め』とも呼ばれていました。
現代では、医療の発達で死ににくくはなり、先進国での致死率は0.1~0.2%くらい*4です。
麻疹ウイルス
次に、原因となるウイルスについてみていきましょう。
麻疹ウイルスは、インフルエンザやコロナウイルスと同じくRNAウイルスです。
しかし、麻疹ウイルスは大きな変異が起こりにくく、一度感染したらもうかからないと言われています。
麻疹ウイルスは感染力がエゲつなくて、空気感染するので、同じ空間にいれば、マスクをしていようが余裕で感染します。
ツバなどの飛沫ではウイルスが水に囲まれています。この水が蒸発すると飛沫核になります。
多くのウイルスはこうなると感染力を失いますが、感染力があれば空気感染をします。
このウイルスは免疫にかかわるリンパ組織に感染するので、免疫抑制が起こってしまいます。厄介です。
麻疹の症状
ウイルスに曝露してから10日ほどで、発熱や咳などのかぜ症状が出ます。
熱は3日ほどで下がりますが、そのころから口の中に特徴的な白い斑点(Koplik斑)が見られたり、目やにが多くなったりというものが見られます。
熱が下がったのに半日~1日後にまた高熱(二峰性発熱)が出て、そのときに体幹部を中心に発疹が広がります。
この頃にはかぜ症状もまたひどくなっていることが多いです。
数日で症状は落ち着いていき、皮膚症状も1週間くらいで治まってきます。
合併症
厄介なのが、合併症です。
少し古いですが、2000年の大阪のデータ*5では、発症すると約30%に合併症が発生し、約40%が入院加療になると。
今回のニュースの二人も入院しましたね。
その中でも怖いものが亜急性硬化性全脳炎(SSPE)です。感染した人のうち数万人に1人というまれな合併症ですが、6~8歳に起こりやすいです。
治療法はなく発症すれば死にます。
感染後、ウイルスが中枢神経に入り、変異を起こして脳に持続感染します。何年かかけてゆっくり蝕んでいき、性格が変わったり、知能低下したり、歩けなくなります。
ワクチン接種
麻疹はワクチンで予防可能で、唯一の予防法です。
人口の93%以上が接種していれば、麻疹は発生しない*6とされています。(集団免疫)
実際、「東京都で3年ぶり」というほどに日本では見られなくなりました。
2008年以降、小児のワクチン接種を進めていき、2015年にWHOは日本を『麻疹排除状態』に認定しました*7。
根絶できない
近年、麻疹のワクチン接種後、抗体価は10~15年で減弱する*8ことがわかってきました。
ということは、終生免疫があると考えられてきた麻疹は、下図の右側なのでしょう。
つまり、接種後、抗体価は下がっていくけど、周りにチラホラ麻疹の感染者が1人でもいれば、すごい感染力なので、ウイルスに曝露され、その都度免疫が働き抗体価が再度高められていた?というのが、麻疹の終生免疫なのでしょうね。
ところが、『麻疹排除状態』となり、周りに麻疹患者がほぼいなくなってしまうと、定期的な曝露がないので、抗体価は経時的に下がります。
すると、流行国からの流入で、感染しうるということです。
で、その感染が、未接種の幼児に移ると・・・( ゚Д゚)
ちなみに、感染後は強い免疫応答が起こりますので、上図の左側のように一生涯抗体価が高いままなのかもしれませんが、あえて感染するのはリスクが大きいですね。
さいごに
最近、騒がれている麻疹についてまとめてみました。
感染後の亜急性硬化性全脳炎は子供に多いという話をしました。
ワクチンの効果が15年ほど続くのであれば、小児期に感染して脳炎になるリスクはぐんと下がるので、それで十分っちゃ十分です。
ただ、世界的にその子供の接種率が低下しているのが今問題です。日本も例外ではありません。
コロナ禍の受診控えでBCGワクチンや麻疹ワクチンを接種できていない子が増加しています。また、コロナワクチン押しすぎて『ワクチン疲れ』も国民にはあるでしょう。
しかし、子供のうちに打っておくべき予防接種は必ず打ちましょう。
では、また(^^♪
*1:https://www.forth.go.jp/topics/2023/20230320_00001.html
*2:加藤茂孝「麻疹(はしか)―天然痘と並ぶ2大感染症だった」『モダンメディア』第56巻第7号、2010年、159-171頁。
*3:Theophilus Harris Davies (July 26, 1889). "The last hours of Liholiho and Kamamalu: a letter sent to H.R.H. Princess Liliuokalani presented to the Hawaiian Historical Society". Annual report of the Hawaiian Historical Society 1897. pp. 30–32.
*4:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/report2002/measles_top.html
*5:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1213-5f.html#hyo2
*6:https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/255149/WER9217.pdf;jsessionid=A2852653A211CEB0677059F1E9CDF11E?sequence=1
*7:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html