マルチリンガル医師のよもやま話

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コロナ後遺症と不思議の国のアリス

今年の春くらいまでは、「身の回りにコロナにかかった人はいない」という人は多かったのではないでしょうか。感染力の強いデルタ株の流行とともに、芸能人、周りの人などの感染も出始め、一気に自分たちに近づいてきたことを感じますね。

今回はコロナの後遺症について少し学んでみましょう。

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「気持ちの問題」じゃない

2020年日本でコロナが広がり始めたころから”後遺症”についてTVなどでも扱われていました。最初によく「ぼーっとする」とか「やる気が出ない」などややうつ気味の症状を訴える人たちが見られました。

当時はまだ全国でも感染は少なく、県外ナンバーの車がおるだけで傷つけられるといった、”感染者=犯罪者”という風潮が一部見られてました。

感染などしようものなら、近所や職場で何を言われるか・・・

そういったことで悩まされたりする精神的なものかなと思っていました。

あれから、1年以上過ぎ、日本でもすでに150万人以上が感染しており、今はデルタ株の拡大で誰がいつ感染してもおかしくない状況となりました。

後遺症についてもデータが集まってきており、わかってきたこともあります。

コロナの後遺症

コロナの後遺症は多岐にわたります。

あるメタアナリシス*1によれば、倦怠感や頭痛が多く、他にも呼吸困難や脱毛と言ったものも後遺症として報告されています。

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コロナの後遺症

軽症でもおよそ3分の1の患者は、3ヶ月後も何かしらの症状があり、なかなか職場復帰ができない人も一定数*2いるようです。

また、今年の夏にイギリスのImperial College London から発表された論文*3では、軽症・重症問わずコロナ感染後、症状は回復しても認知機能の低下を起こしやすいことも報告されました。

Long COVID

新型コロナ感染症(COVID-19)の後遺症のうち長期にわたり続くものをまとめて Long COVID と呼びます。

これについて先日医学雑誌:Lancet のEditorial(巻頭辞)に書かれた『Long COVIDの理解』の内容を少しご紹介します。

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英国でのLong COVID

英国では、Long COVIDを訴える人が約95万人もいることがわかったのです。さらに、女性や比較的若い世代、医療従事者などに多いこともわかりました。

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武漢の金銀潭病院からの報告

次に、武漢の病院からの報告を紹介してありました。Long COVID患者の半数は1年経っても少なくとも1つの症状が残存していたとしています。つまり、コロナ感染後完全に戻るには1年以上はかかるということです。

また、『不安・抑うつ』に関しては、非感染者と比べてはるかに高い発症率でした。

血栓の形成

ところで、どういった理由でこのようなLong COVIDが起こるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染により引き起こされた激しい炎症により血管が傷つきます。このとき小さな出血が起こるのですが、それを直すときに血小板などが集まり血栓で蓋をします。

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血栓のでき方

また重症化に関与するサイトカインストームという免疫の過剰暴走でも血栓ができやすくなります。

また、仮説ではありますが、コロナ感染により造血幹細胞に異常が生じ血栓ができやすくなる*4というものもあります。

できた血栓が血流に乗って脳に行くと脳梗塞になります。また心筋に微小血栓ができ胸痛の後遺症があることも報告*5されています。

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ワクチンの方が感染よりリスクは低い

ところで血栓と言えば、アストラゼネカのワクチンでも若年層にまれに起こりますが、コロナ感染による血栓形成の方が200倍高いこと*6がわかりました。

また、仮にワクチンで血栓症が起こっても、コロナ感染後のような長期的に影響がないこともわかっています。

EBウイルス

今年6月にPathogensという医学雑誌に掲載された研究*7でこういうものがありました。

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EBウイルスの再活性化が関係?

Long COVIDの患者でEBウイルスの抗体価が高くなっており、体内に潜伏していたEBウイルスが感染のストレスで再活性化したのが後遺症の原因と関係があるかもしれないというものです。

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EBウイルスとは

EBウイルスはヘルペスウイルスの親戚です。ヘルペスや帯状疱疹も体調の変化などで急に出現しますね?普段は潜伏してます。その辺もよく似ています。

ほとんどみんな既に気づかないうちに感染(不顕性感染)していますが、稀に伝染性単核球症という感染症になります。キスで感染するのでキス病とも呼ばれます。

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不思議の国のアリス症候群

このEBウイルスは感染だけでなく、悪性腫瘍や神経変性疾患との関連もわかっています。たしかに、EBウイルス感染による中枢神経系の炎症が原因?で起こる不思議の国のアリス症候群もLong COVIDに症状が似ているような気もしています。

あくまで、これはまだ仮説です。

嗅覚・味覚障害

コロナ感染に気づくきっかけでよく嗅覚・味覚障害というのを聞きますね。これは後遺症でも見られます。

実はこれはコロナだけでなく、アデノウイルス、コックサッキーウイルスといった、いわゆる”風邪”のウイルスでも見られるのです。

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嗅覚・味覚障害

半年くらいである程度治ることが多いですが、完全に戻るのは3割だけ*8とも言われています。

一方、コロナの後遺症としての嗅覚障害・味覚障害は1か月後に大半が改善する*9こともわかりました。

これは少しほっとしますね。

脱毛

蚊が媒介するデング熱やSFTSというマダニに咬まれて起こる感染症などで回復期に脱毛が起こることは知られています。原因は不明です(ストレス?)。

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脱毛も後遺症の1つ

論文*10*11を見ると、新型コロナ感染し数ヶ月後に遅れて脱毛が起こるようです。

原因は不明ですが、3ヶ月ほど続き、徐々に回復するようです。

まとめ

従来の風邪やインフルエンザとは異なり、COVID-19は症状が収まったあとも約1/3の症例で後遺症を残し、普通の生活に戻れなくなることもあります。

また直近のLancet誌に掲載された英国の論文*12によると、ブレイクスルー感染は0.2%とまれで、仮に起こってもワクチン接種によりLong COVIDのリスクを半減させることもわかりました。

何よりも一番重要なことはこんな厄介なウイルスに感染しないことです!引き続きがんばりましょう!

では、また(^.^)ノ