去年はコロナに「アビガンを使え!」と自称専門家たちがワーワーと言っていましたが、今年はイベルメクチンでしたね。笑
以前も記事にしましたがイベルメクチンは大規模なメタアナリシスで効果があるとは言えないとなっています。
▼イベルメクチン▼
医学は科学であり、エビデンスの積み重ねが重要です。そこを無視したらもう医学じゃありません。
今回は、イベルメクチン問題の真相と闇について見ていきます。
イベルメクチンとは
そもそもイベルメクチンはマクロライド系抗生剤の1種で、抗寄生虫薬です。
医療関係者ならもうこの時点で気づきます。『抗生剤』というのは通常、細菌などの生き物に効くのですが、非生物であるウイルスには効かないのです。
”かぜ”の原因は通常、ウイルスですので、かぜで抗生剤は不要です。昔は処方されていたようですが、風邪の後の2次性細菌感染予防の目的?と思います。
今は普通処方されません。もちろん患者の強い希望で”お守り”として渋々出すことは僕もあります(笑)
話は戻って、イベルメクチンはアメリカのメルク社が製造していますが、メルク社はインフルエンザ用に開発していたモルヌピラビルを用いた新型コロナの治験を2020年から行っており、非内服群と比較して入院・死亡を50%低下させました。これが現在話題の内服薬です。
メルクとしても、効果のさほど期待できない上に、安いイベルメクチンに時間と金を費やすよりも、高いけど効果が理論上期待できるものに力を入れたということです。当たり前っちゃ当たり前です。
尚、イベルメクチンに関してWHOは、新型コロナウイルス感染症に対しては有効性や安全性が確立されていないので使用しないように推奨*1しています。
今回は、このイベルメクチン騒動がどのように起こったのか、イギリスBBCで報道された内容*2をかいつまんで説明します。
次々に見つかる不正
医学論文はピンキリで、雑誌社によってはメチャクチャ厳しいチェックが入る所もあるし、20-30万円ほど払えば簡単なチェックで掲載されてしまう所もあります。
しかし、そういったものは一般の人には違いはわかりません。ま、だからこそSNSではなく、その分野に通じた人の意見を聞くべきなんですが・・・
もちろん論文は掲載された後でも、色んな科学者がその論文を見て、不審な点があれば著者に連絡を取ります。そして、ウソや重大な誤りが見つかった場合は著者が”論文取り下げ”を行います。
最近は、査読前の論文が公開されるサイトがあり、余計に不正確な情報が広げられます。何も知らない人はSNS経由で騙されます。
指摘される問題点
新型コロナウイルス感染症なんて世界中でHOTな話題です。特効薬の報告があれば世界中の医師や研究者がその論文を読むわけです。すると、いかがわしい論文はすぐにボロが出てくるのです。
もう、だいぶヤバいですね。記事に出てくる調査団のコメントでは26の研究のうち不正または誤りがない論文が1つもないそうです。
このイベルメクチンの一連の研究に疑いの目が持たれたのは、英国の医学生が不正を見つけた*3ことから始まります。
他の論文をコピペしていた”盗作”の不正を暴き出され、イベルメクチンの効果を謳ったエジプトの論文は取り下げになりました。
これ以降、イベルメクチン懐疑派から厳しいチェックが入るようになりました。
著者にデータ要求
論文内容に疑義が生じた場合は、著者に連絡し元データの開示を要求します。そして、著者は論文提出の際に『必要あればデータを公開』と言う項目にチェックをつけているのです。科学は透明性が重要ですからね。
しかし、調査団からそれら疑わしい論文の著者に質問状を送り、元データを要求したところ14人の著者はデータを送ってこなかったといいます。ま、出せないんでしょうね。
架空の患者で論文作成
ちゃんとデータを送り返してきたものも調べると悪質な"操作"がありました。
レバノンの研究では、11人の患者データを何度もコピペしていたのです。もちろんその論文はその後、取り下げられました。
患者のバイアス
通常、薬が効くかを調べるには、薬を使う群とプラセボ群を乱数表などを用いてランダムに振り分けます。研究者の主観が入ってはいけないからです。
ところが、あるイランの論文では、治験開始前の酸素飽和度がプラセボ群で圧倒的に低かったのです。つまり、酸素化が悪く死ぬ可能性が高い患者をプラセボ群に入れて、あたかもイベルメクチンにより致死率を下げたと見せたわけです。
酸素飽和度以外の項目でも同じ傾向が見られました。論文の著者は、この指摘に対して『たまたまだよ』と。アホか。
反ワクチン集団
もう、ここまでくれば誰かが裏で操ってるのは明白ですね。
そうです、反ワクチン派です。最初はワクチンは効かない、危険だ、不妊になると言ってましたが、世界中で接種が進み、そのような事実がないと知れ渡っています。
となると、既存の飲み薬を推して、ワクチンを打たせないようにしようとしたわけです。
しかし、世界中でイベルメクチンを求める声が異常に大きくなったのは、反ワクチンのせいだけではありませんでした。
貧しい南米などではワクチン不足が深刻でわらをもつかむ思いで、イベルメクチンに走ったのです。
ここまで書かれた内容はBBCが勝手に言っているわけではありません。きちんと科学者がNature Medicineという名門雑誌にこれらのことを寄稿*4してあります。
そもそも論
元々、イベルメクチンがコロナを抑制するといわれたのは試験管内でその効果を認めたという論文*5でした。
このときの効果がある濃度は 2.5μg/mL です。ヒトが安全量のイベルメクチンを内服したときに得られる血中濃度は最高でも 40ng/mL *6です。
つまり、60倍以上の乖離があるんです。もちろん、マクロライド系なので肺への移行はもう少しよいでしょうが、到底効果は期待できません。
試験管で効果を得られた量を飲んだら肝障害なります。なので、そんな治験もできません。ほら馬用のイベルメクチンで肝障害のニュースでありましたよね。
このカラクリですぐ思い出すのはクレベリンです。あれも高濃度(17ppm)で『効果があった』のですが、それは人間の安全濃度 (0.1ppm) をはるかに上回るので当然使用できません。
つまり、クレベリン程度の濃度でコロナ不活化は期待できません。
▼クレベリンは意味なし?▼
▼オゾンでコロナ除菌は無理▼
『インドで効果』
イベルメクチン推進派の意見で「インドで劇的に効いた」や、「インドがデルタ株で感染者爆増したのにいま落ち着いたのはイベルメクチンの効果だ」とよく耳にします。
ほんまでしょうか?笑
たしかにインドでは、ワクチン接種率が20%未満なのに、感染爆発の後に急減少しました。しかし、実はこれは感染者数が報告よりも圧倒的に多かっただけです。
首都のムンバイでは9割以上の人が抗体を持っている*7ことがわかっており、いわゆる『集団免疫』に達したからです。
さらに、インド医療評議会は9月23日付*8でイベルメクチンは効果が見られないことから使用しないように薦めて*9います。
▼日本の第5波が収束したワケ▼
さいごに
いかがでしたか。
イベルメクチンの効果を期待するには安全濃度をはるかに超えるので、無理です。さらに、どんどん捏造された論文が明らかになっており"組織的犯行"とも言えます。
いずれにしても、医学は科学です。科学的根拠をすっ飛ばして、治療を行うのは100年前では許されるかもしれませんが、令和では許されないでしょう。
イベルメクチン推しの医師もいますが、今後どうされるつもりなんでしょうかね。
TVで「7割の患者で(重症化予防の)効いている」と言われた方もいますが、そもそもコロナ陽性者で重症化する割合は1.6%(50代以下では0.3%)*10ですからね。
では、また(^.^)ノ
*1:https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2021.3
*2:https://www.bbc.com/news/health-58170809.amp?s=09
*3:https://www.theguardian.com/science/2021/jul/16/huge-study-supporting-ivermectin-as-covid-treatment-withdrawn-over-ethical-concerns
*4:https://www.nature.com/articles/s41591-021-01535-y.pdf
*5:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011?via%3Dihub
*6:https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2009/050742s026lbl.pdf
*7:https://www.reuters.com/world/india/almost-90-people-indias-financial-capital-have-covid-19-antibodies-survey-2021-09-17/
*8:https://www.icmr.gov.in/pdf/covid/techdoc/COVID_Management_Algorithm_23092021.pdf
*9:https://www.thehindu.com/news/national/icmr-stops-use-of-ivermectin-hcq-for-covid-19-treatment/article36651890.ece