マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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新規感染症はなぜ特定の地域からの発生が多いのか

新しい感染症が出てくる度にふとある疑問が出てきます。

なんでいつもあの国から??

世の中に理由がないことなどありません。必ず直接なり間接なりの理由があるのです。今回はそこの辺を掘り下げてみましょう。

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今日のニュース

気温低下とともに新型コロナの"感染者数" が増加してきているのは誰しも予測していましたが、他にも感染症の話題があります。

季節性インフルエンザももちろんのこと、今回の話題はコチラです。

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NHK world より一部引用

特に読み取りにくいところはないでしょうか。

少しポイントだけお話しします。黄色下線部の表現は見たことありますか? hundreds of thousands of chickens 。of が2つあってややこしく見えますが、この of は『×』だと思えば簡単な掛け算です。hunderd × thousand(=10万)の複数形なので、何十万羽もの鶏 という意味になります。

この形は一度知れば二度と忘れませんのでご安心を(^^♪

もう一点、Self-Defense Force という単語ですね~ これはニュースなどではSDFという省略でヘッドラインが出ることもあります。自衛隊という日本語を無理やり英語にしたものです。個人的には self 要らんやろ~と思っています。

日本に military がない文化背景を知っている外国人ならわかってくれますが、そうでなければ、What???でしょうな

自衛隊ができた背景

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いずれにせよ、香川県三豊市鳥インフルエンザにかかった鳥が見つかり、何十万羽もの鶏が殺処分されるという内容です。実は三豊市は仕事(遠征)で月1回は行くので驚きました。(笑)

インフルエンザ

毎冬に感染が拡大するインフルエンザ。ウイルスの存在が知られなかった大昔は、「天により起こされるもの」と考えられていました。それでイタリア語の influenza (= influence) という言葉を当てられました。

インフルエンザについて知ろう

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インフルエンザウイルスのタイプは大きく分けてA~Cの3タイプありますが、毎年流行するのはAとBです。で、このA型の中には、豚インフルエンザウイルスと鶏インフルエンザウイルスも含まれます。

ちなみに冬の前半(12-1月)にはA型が流行しやすく、後半(2月以降)はB型が流行しやすいという傾向もあります。A型の方が高熱、関節痛と症状がキツいです。

HとNってなに?

インフルエンザウイルスの名前で H5N1 とか聞いたことありませんか?1918-1919年にパンデミックとなったスペイン風邪の原因ウイルスはH1N1型です。

まず、この呼び方をするのは基本的にはA型だけだと思ってください。

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インフルエンザウイルスのスパイク

コロナウイルスの説明のときも書きましたが、ウイルスの表面にはスパイクと呼ばれる突起物があって、こいつが細胞の受容体に引っ付いて中に入り込みます。

新型コロナウイルスではACE2受容体にスパイクがひっついて細胞内へ侵入するのでしたね。このACEという酵素は血圧に関係しているので高血圧患者がハイリスクなのかなと考えられます。

新型コロナウイルスについて復習

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さて、このスパイクと呼ばれる糖タンパクの種類でA型インフルエンザウイルスを細かく分類したものがH●N▲ってやつです。(上図参照)ちなみにHAは16種類、NAは9種類あります。

鳥インフルエンザ

鳥に感染するインフルエンザウイルスのことです。水鳥の腸の中で育って、糞を通じて鳥→鳥感染を起こすものです。重要なことは鳥インフルエンザウイルスが直接ヒトに感染することはまれということです。

そもそもヒトインフルエンザウイルス自体が鳥インフルエンザウイルスが変異したものと考えられています。

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鳥インフルエンザについて

動物の持つ感染症を考えるときは2つ重要なポイントがあります。

・ヒトに感染するのか?

・(するならば)ヒト→ヒト感染はあるのか?

これ、新型コロナの当初もよく言われてた内容ですね。

豚インフルエンザ

続いて豚インフルエンザを少し学びましょう。

豚インフルエンザウイルスもA型インフルエンザの1つです。大きく3つのタイプH1N1, H3N2, H1N2が感染を起こします。豚インフルエンザウイルスも鳥インフルエンザウイルスと同じく、名前の通り豚に感染するからそう呼ばれます。つまり、ヒトへ移ることはまれです。

また鳥インフルエンザと同じく、豚を食べることで移ることもありません。

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しかし、インフルエンザウイルスは不安定なRNAウイルスでしたね。コロナウイルスも同じです。だから変異を起こしやすいわけです。変異するとヒトに移る可能性がある。

2009年にWHOは豚インフルエンザのパンデミック宣言をしました。つまりヒトに移るように変異したということです。

また今年11月5日にカナダでヒトに感染する豚インフルエンザが確認されています。

豚が重要な役割

鳥インフルエンザも豚インフルエンザもヒトには移りにくいことがわかりましたが、それではあまり心配はいらないのでしょうか?

答えはNOです。先ほども述べましたがインフルエンザウイルスは変異しやすいため安心はできません。それが毎年の季節性インフルエンザのようなマイナーチェンジならばそれほど心配はありません。おそろしいのは今回の新型コロナのようなフルモデルチェンジです。そのカギを握るのは豚です。

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実は豚が重要なポジション

鳥の体温は42度と非常に高く、鳥インフルエンザはその温度で一番活性があるわけです。つまり36度の人間の体では活発に動けないから直接鳥インフルエンザがヒトに影響を与える可能性は低いと考えられています。

ヒトと鳥の中間にいるのが豚さんなのですが、ヒトと鳥と両方のインフルエンザウイルスもかかりうる体温なんです。こうして違うタイプが混ざり合うこともあり、変異が起こりやすいんですね。

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中国の南部などでは家畜とヒトが共同生活している”放牧”スタイルによってウイルスの変異が起こりやすいと考えられています。SARSが発生したのも中国南部の広東省でしたね。

SARSとMERSについて

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SARSと新型コロナ

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実はこれ以外にも新規感染症の発生に寄与する要因があります。

地球温暖化と人の移動

地球温暖化により、南極の氷が溶けているなんて話よく聞きますよね。いままで、氷に覆われて封印されていた地層から未知のウイルスが出てくる可能性は以前から指摘されています。

今までは熱帯地域にしかなかったような感染症が入り込むことも考えられています。蚊を介しての感染症などです。

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そして、時代の変化も重要なファクターです。特にLCCの拡大により世界中で多くの人が気軽に空の旅を楽しめるようになりました。これにより、人や貨物の移動とともに特定の地域にあった感染症が世界中に広がりやすい状況ができあがったわけです。

新型インフルエンザ

この言葉をよく耳にすると思います。今回の新型コロナウイルスでもわかったように、いままでヒトに感染しないとされていたウイルスがヒト→ヒト感染をするようになったらこの新型〇〇という言い方をします。

今後、(人間に感染しうる)新型インフルエンザの発生の可能性があると危惧されているものが、H5N1という2005年にトリの中でアウトブレイクを起こしたものや2013年に中国・上海でヒトに感染した鳥インフルエンザウイルスのH7N9型があります。H7N9型はヒトに感染した報告がありましたが、ヒト→ヒト感染はなかったためまだ【新型インフルエンザ】になりませんでした。

さいごに

いかがでしたか?なぜ人にあまり移らないとされる鳥インフルエンザが大きく取り上げられるのか。なぜ中国から新しい感染症が出てくるのかなどご理解いただけましたでしょうか。

鳥インフルエンザが出た養鶏場では鶏はすべて殺処分されます。養鶏場は卵や鶏肉で得られたはずの儲けは失いますが、それは国により補償されます。しかし、一度感染が出てしまうと風評被害により取引がしばらく減るといいます。

このこともまた感染症による「副作用」として知っておく必要があります。

 

では、また(^^♪