マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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シリーズ3:実はあまり知らない放射能

今回がこのシリーズの最終回となります。

1回目では東日本大震災の内容を振り返りました

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2回目では福島第一原発について学びました。

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今回は、「実はあまり知らない放射能」と題して、放射能について簡単に勉強してみましょう。

 

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原子力と核

これらの違いわかりますか?もちろん科学的には微妙な定義の違いがあるでしょうが・・・基本的には同じようなものです。(一般人が知るべきはね)

では、「核爆弾」と「原子力発電」はどうですか?

実は核爆弾と原子力発電は同じです(と言えば語弊がありますが・・・笑) メカニズムは同じです。どちらも核分裂によりエネルギーを生み出すわけですね。

そう、違いは、それが人を殺すために使われるのか、人の生活のために使われるかの違いです。

英語では nuclear bomb(核爆弾)、nuclear power plant(原子力発電所)とともにnuclearを使います。

これは、日本では広島・長崎で原爆が落とされたことによるとされます。そんな恐ろしい兵器と同じようなメカニズムの原発を導入する際に「原子爆弾」と「原子力発電」という似通った名前はあまり好ましくなかったわけです。

そこで日本で導入に際して、平和目的に使うものは「原子力」兵器や爆弾に使うときは「核」と言う言葉を使うように配慮したわけです。だから、ヒーローも鉄腕アトム(atom)なのですね。(笑)しらんけど・・・w

※原爆に関しては英語でもatomic bombと言うこともありますが、英語ではatomic も nuclearも善悪で分けることなく同じように使われます。

 

あれ、このような「配慮」というか「忖度」はどっかで学びましたよね??そうそう、国連さん。(笑) 詳しくは過去の記事を↓

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放射能をわかりやすく

放射性物質とは簡単に言うと「不安定な物質」ということです。この不安定な物質が、安定な物質になるために構造を変えるときに出るのが放射線です。

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不安定な物質=放射性物質放射性崩壊するときに出る放射線はその内容によりα線、β線、γ線があります。

この放射線と言うものは自然界にも普通に存在しています。「環境放射線」と呼ばれるもので宇宙からの放射線や温泉などにも含まれます。我々みんな生きているだけで年間2.4mSv(ミリシーベルト)の被ばくをしている言われています。

ラドン温泉なんてそうですね。あれはラドンと呼ばれる放射性物質が含まれている温泉です。有馬温泉(兵庫)や三朝温泉(鳥取)が有名ですね。

健康に対する影響は様々言われています。いいという人もいれば悪いという人も。ただ数字だけ言うと、ラドン温泉の源泉では1時間で5年分の環境放射線に値する量の放射線量が出ているとも言われています。

これに関しては医学的・科学的に体に悪いとかいいとかは結論が出ていません。大体の見解としては短期間のその程度の被ばくは健康に問題ないと考えられています。(だから、まぁラドン温泉があるわけで・・・笑)

 

宇宙線

宇宙線(Cosmic ray)とは宇宙空間を飛び交う放射線のことです。太陽フレアや超新星の爆発で解き放たれています。その一部は地上まで届いています。そして、高度が上がれば被ばく量が増えます。また、高緯度地域の方が被ばく量が高いこともわかっています。

よく「スチュワーデスは宇宙線被ばくで癌になりやすく短命」という噂を聞いたことがありますか?宇宙線の存在はわかっているので、当然航空会社も調べています。

結論から言うとこれに関しては証明されていません!

パイロットやCAさんの乗務による年間被ばく量は2~4mSvとされています。つまり、地球に暮らしているだけで被ばくする量とほぼ同じですね。地上で被ばくする分と飛行機で被ばくするものを足して我々の2倍被ばくしています。

しかし、よく考えてください。それだけで癌が増えるでしょうか?もし事実ならその職業は禁止になります。また、日本以上に自然放射線が強い国はどうですか?

 

韓国は放射線被ばく量が多い

ま、これは実はめちゃくちゃ有名な話ですが、ソウルは自然放射線量がすごく高いです。東京の3倍、福島と同等(←安全基準値内)というデータも2017年に報道されました。韓国でも驚きをもって伝えられました。(直接現状を見たい方は↓)

www.kr.emb-japan.go.jp

 

実は朝鮮半島は花崗岩が多くて自然から発せられる放射線量が多いんですね。あとはあの小さい国の中に原発が約30機あることなども関係していると言われています。

これでいて東京オリンピックを「放射能オリンピック」と呼ぶのはぜひともやめていただきたいものです。

 

シーベルト?

ここからはややこしい単位を簡単に整理しましょう。

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 放射線物質自体から出される放射線の量を表すときはBq(ベクレル)を使います。そして、人が出ている放射線を被ばくする量をSv(シ-ベルト)で表します。よく言われるmSv(ミリシーベルト)はSvの1000分の1の値ですね。

最後に、ある物質が放射線を受け吸収する量をGy(グレイ)で表します。

ややこしいですがGyは放射線治療で使うと覚えてください。癌を放射線で焼くときとかに「〇〇Gyで治療する」といいます。

我々が一番普段使うであろうものはシーベルト(Sv)です。さっきもやりましたが、年間平均で2.4mSvの自然放射線を被ばくしています。それ以外に、追加での被ばく量は年間1mSv未満を目指すように言われています。

※原発職員や、医療関係で特にレントゲン技師さんなどは数値はもっと高く設定されています。これらは十分安全な値です。

 

セシウムって何?

よく福島原発のニュースで耳にするセシウム。これも放射性物質の1つです。

まず原発で使われる核燃料はウランプルトニウムですが、これらが「安定」になるために放射線を出して崩壊したときに様々な原子が出来あがります。

その一部がヨウ素131とセシウム137です。

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もちろん他にもたくさんの放射性物質が放出されているわけですが、この2つが取り上げる理由はどちらも大気中に放出されやすく単に測りやすいからです。

「放射性物質の存在比」っていって原発から出される放射性物質の割合はある程度決まっています。つまり測りやすいものを測定したら、計算から他の放射性物質の量もわかるのです。

また、上の表を見るとお気づきかと思いますが、ヨウ素131は半減期が8日なので今では9年以上たっており、ヨウ素131は検出されません。

 

最後に

原発事故では実際はもっともっとたくさんの種類の放射性物質が放出されました。

「なんでセシウム以外は報道しないの?」「日本政府が隠ぺいしている」などと言う話はフェイクニュースです。

測っていないだけです。というか測るのが大変なので、測りやすいものを測ってそれから他の放射性物質の量を計算するというやり方です。

これは世界どこでもおなじです。日本だけが特別にこうしているわけではありません。日本政府がすべての情報を出し切っているとはとても思えませんが、日本政府が放射線量をごまかしているという意見に関してはとても信じられません。

IAEA(国際原子力機関)という国際機関が監視しています。その中で明らかな嘘は見つかってしまいます。

瞬間最大風速的な数値だけを写真にしてネットで煽る人たちがいますので、情報源には十分注意しましょう。