昨年は全く流行のなかったインフルエンザですが、今年は『その反動で大流行』とか、『今年も流行らない』などいろいろな意見があるようですが、少なくともいまのところ全く流行していません。
実は去年くらいからある”ウワサ”があったのですが、それが論文化されたのでご紹介します。
今年も流行していない
今年はインドなどの一部の国でインフルエンザの流行が見られましたが、先に冬が来た南半球では今年もインフルエンザの流行はありませんでした。
▼インフルエンザの基本▼おすすめ
厚生労働省が毎週発表するインフルエンザ発生報告*1を見ると、衝撃の事実がわかります。
例年の冬は約1000万人が感染するといわれれ、3000人がインフルエンザが原因で亡くなります。また、関連死(インフルエンザが間接的な原因で死亡)も含めれば年間1万人ほどが亡くなるといわれています。
コロナ禍の去年・今年が一気に減っているのがわかりますね。ウイルス干渉といって他のウイルスが流行していると流行しにくいというのも考えられますが、少なくとも今、日本でコロナは落ち着いているのでそれは考えにくいですね。
マスク・手洗いなどの徹底によりインフルエンザを抑えていると考えるのが妥当です。しかし、去年よりもコロナに慣れてワクチンも打った今年は去年より気が緩んでいるはず?なのに去年よりも少ない!
ここが非常に重要です。そう、もしかしてインフルエンザ自体が消えたの??(#^^#)
インフルエンザウイルス
まず、本題に入る前に基本をザックリ押さえておきましょう。
インフルエンザウイルスはA, B, Cの3つの型が知られています。2016年に牛や豚に感染するD型が発見*2され、厳密には4つあります。
C型は遺伝子が安定しており、小児期に一度感染したらもう感染しません(=終生免疫)。また、D型はヒトに感染しません。
ですので、私たちが検査をするのも、ワクチンが対応するのもA型とB型だけです。この2つが季節性インフルエンザを起こします。
特にA型には亜型といって、親戚が多いんです。
さて、今回の論文の主役はB型なんです。B型には主な2つの系統、ビクトリア系と山形系というものがあります。
オーストラリアの論文
さて、本題に入ります。今回の論文*3はオーストラリアからの論文です。
nature reviews microbiology はインパクトファクター60以上と、超絶スゴい雑誌です。タイトルは、『インフルエンザの系統、コロナ禍で絶滅か?』です。
それでは、中身を見ていきましょう。
コロナ禍のインフルエンザ
世界的に2020年4月以降、インフルエンザの発生は最大で99%の減少を見せています。
これの主な原因は先ほど挙げたようなものが、記されています。
また、世界中でインフルエンザの型・系統ごとに発生状況を見るとあることがわかりました。
主な系統ごとに見ていくと、コロナ禍になってから赤色の棒グラフ(=B型山形系統)が検出されなくなっているのです。
ま、今年に入ってからは水色棒グラフ(A型H1N1系統)も消えいています。
山形系統は消滅?
もう1年半以上見つかっていない、B型の山形系統。これは『消滅』と言ってもいいのでしょうか?
しかし、まだ喜ぶのは早いようです。
実は1990年代にも、B型のビクトリア系統は一部のアジア以外で姿を消しましたが、2000年代に入って再出現したのです。
山形系統はビクトリア系統と比べて、感染力も弱い*4ため、ソーシャルディスタンスなどがしっかり取られている状況では広がれないのが原因か?と書いてあります。
ビクトリア系統は増加
先ほどのグラフをもう一度見ると、コロナ禍以降、山形系統は確かにありませんが、ビクトリア系統は逆に割合が増えているのです。
一般に、25歳以上では山形系統、未成年はビクトリア系統にかかりやすいことがわかっています。これは、移動範囲と関連しているようです。
コロナ禍で移動範囲が一気に狭くなったことで、成人で広がりやすい山形系統を駆逐してしまったのではと考えられます。
ワクチンについて
まだ確定ではないですが、仮にこの山形系統が消滅したとすれば、ワクチンにも変化が起こると言っています。
今のワクチンは、A型とB型の合計4種類に合わせて作ってあります。A型が複数の亜型の存在や流行が一定でないので、年によって中身が違います。
山形系統が消滅していれば、インフルエンザワクチンからも山形系統を省けるので、その分供給量が増やせるという利点があります。
もう一つの案は、山形系統の代わりにまた別のA型の系統を加えることで、幅広い系統へ効果を持たせることができるというのです。
さいごに
いかがでしたか?
コロナ禍の感染対策でインフルエンザ感染が世界中で急減しました。
また、その中でも特にB型の山形系統は消滅状態です。コロナが世界で落ち着いてきて人々の警戒レベルが下がればおそらくまたインフルエンザは流行するでしょう。
しかし、その時に山形系統がいるのかどうか。
もし、いなければ、インフルエンザワクチンにも新たな可能性が出てくるという内容でした。
残念ながらインフルエンザウイルスそのものが消滅したという内容ではありません(笑)
では、また(^^♪
*1:https://www.mhlw.go.jp/content/000853807.pdf
*2:https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2016/20160823-1.html
*3:https://www.nature.com/articles/s41579-021-00642-4.pdf
*4:Vijaykrishna, D. et al. The contrasting phylodynamics of human influenza B viruses. Elife 4, e05055 (2015).