マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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きれいではないダイヤモンドのお話

誰もが知っているラグジュアリーな宝石、ダイヤモンド。

科学者からすれば、『ただのC(炭素)の塊』となるかもしれませんが、人を魅了するあの輝きの裏には、けっして輝かしくはない物語*1が隠れているのであります。

今日も学んでいきましょう。

ダイヤモンド

まずは例によって、基本を確認しておきましょう。

古代ギリシア語のαδάμας(屈しない)という言葉が語源で、その名の通り、天然で最も硬い物質なのです。

屈折率が2.42と高いので、光が乱反射してキラキラしているのです。

ダイヤモンド

無色透明のものよりも実際は黄色〜褐色のイエローダイヤモンドの方が多いようです。

天然のダイヤモンドは、ロシアでたくさん生産され、ついで、アフリカ諸国が追随しています。

宝飾関係としては、ダイヤモンドなんて高くて買えるかー!って声にお答えして、模倣ダイヤモンドがありますね。

有名なもので言うとCZというやつはネットでも売られてます。キュービック・ジルコニア人工ダイヤ)です。

ジルコニアとは

似てるけど、激安!

あともう一つはモアナサイト、こちらは天然の炭化ケイ素ですね。屈折率や分散度などを考慮すれば本物のダイヤモンド以上の輝きを放つ”キラキラダイヤ”です。

こっちは当然ジルコニアよりだいぶ高いです。

不安定な情勢

さて、本題に入りましょう。

アフリカのコンゴ民主主義人民共和国では、はびこる様々な野望と、植民地時代後の分離主義、そして天然資源統括団体の没落により、数多くの衝突を繰り返してきた歴史があります。

ダイヤ発掘の労働者らを生かさず殺さずのギリギリの状況でうまく働かせ、大金を稼いでいるのは、先進国の大手の会社です。

掘削料は危険手当モリモリで!

地域の衝突・紛争を理由に、ダイヤの掘削料金を高く設定し、それを維持しています。危険手当的なもんですかな。

だからこそダイヤモンドはめちゃ高いのです。ただし、その分が、実際掘削している労働者には還元されません。

他にダイヤモンドがよく採れるアフリカの国々も、同じような状況だそうです。

あえて不安定な国で採掘を行う

ダイヤモンドを加工してジュエリーとして売っている大手は、敢えてこのような政治的・社会的不安定な資源国を狙うのです。

 外国人による違法掘削

コンゴやアンゴラ、モザンビークといったアフリカの資源国には、2つの市場があります。

1つ目は、先ほど紹介したような大手といわれる、一応きちんとした監視・監督などがある公式な採取産業です。

もう一つは、採掘者とそのスポンサーだけによるいわば”密漁“です。(魚ちゃうけど)

ガリンペイロとは

このような、個人で雇われて行動する採掘者をガリンペイロと呼びます。

ガリンペイロは、アフリカの奥地へ入り込み、密かにダイヤモンド採掘を行います。

すると、雇用主がそのダイヤモンドを安く買い取り、後に高値で売るのです。

  ガリンペイロは主にセネガル人中国人ギニア人などの外国人が担っています。

給料から天引き

雇用主はガリンペイロが鉱山で作業するうえでの生活必需品を提供します。

後に、ダイヤを掘削し、その報酬をもらう際に、その必需品の分が天引きされるというシステムだそうです。

ブランドバッグと労働搾取

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見て見ぬふりの先進国

アフリカ産のダイヤモンド原石の”密漁”は、アフリカ産のダイヤモンド生産による収益全体の28~32%に当たるとされます。

また密漁されたダイヤを海外に売ると、正式に認証されていないため、税関で没収され、その国の所有物になってしまうことすらあります。

高価なダイヤの宝飾品を買うのは誰ですか?そうです、だいたいは先進国の人たちです。

税関で没収

つまり、税関で没収されるものも当然、そうした先進国で没収されます。

税関で没収されたものは、たとえば偽物ブランドの場合は廃棄され、それ以外なら競売にかけられて、収益は国庫に入ります。

”密漁”とはいえ、本物の天然ダイヤですので価値が高いですね。

こうした背景から、先進国らもこうしたダイヤの密漁には見て見ぬふりをしているのです。

見て見ぬふりの先進国

アフリカの資源が、アフリカを潤すべきなのに、そうなっていないのです。

また、違法に売られたダイヤが、よろしくない組織の資金源になり、最悪の場合はテロに使用される恐れがあるのです。

産地偽装

時にアンゴラの鉱山で”密漁”されたダイヤはコンゴに輸送され、『コンゴ民主主義共和国産』の証明書をつけてドバイに送られます。

アンゴラでは独立後内戦が激しくなり、ダイヤが反政府軍の資金源になっていたため、1998年、国連安保理でアンゴラ産のダイヤは制裁対象で禁輸とされました。(のちに解除されています)

産地偽装

こうした背景から、ダイヤ産業側が南アフリカのキンバリーに集い、”紛争ダイヤモンド”を取引させないための認証システムを考案しました。

これがキンバリープロセス*2と呼ばれるものです。ダイヤの指輪などを買うときに聞いたことあるのではないでしょうか?

ただ、このシステムの”監視”はユルユルとされ、どこの国でも、キンバリープロセスの組織長に連絡すれば、参加できます。

キンバリープロセス

いわば、先進国にあるダイヤ産業の会社が、世界へのアピールとして使用している形だけの認証システムとなってしまっています。

ロシア戦争との関係

キンバリープロセスは、ロシアによるウクライナ侵攻にも関係しているようです。

ロシアにはアルロサという政府系の採掘会社があります。驚くことなかれ、この会社が世界一のダイヤモンド採掘のシェア*3を誇っているのです。

ロシア・アルロサ社

このアルロサ社は、ロシアだけでなくアフリカでのダイヤ採掘も積極的にやっています。

そこで莫大な利益を上げており、その資金がどこに行くか・・・

はい、ウクライナ侵攻に使われているようだとアンゴラのジャーナリストの主張が記事では紹介されています。

アルロサ社のダイヤモンド採掘での収益をつぶすことが、ロシアのキャッシュフローを止め、ウクライナ侵攻を終焉させるキーになるとも書かれています。

有名なブランドらが、アルロサ社との取引をやめ始め、圧力をかけ始めた結果、2022年RJCという世界的な宝飾業団体から脱退*4しました。

アルロサがRJCから脱退

しかし、世界シェア1位の国が制裁対象となり、世界一のダイヤ購入国・アメリカがロシア産のダイヤを禁輸にしています。

となると・・・

はい、そうです、ダイヤモンドの供給が減るので、価格は上がり、今後も高騰すると考えられています。

アルロサは制裁などを食らってさぞかし、苦しいだろう・・・

と思いきや、売り上げは大きく下がっておらず、好調な様子*5です。

実はロシアからのダイヤが一番の消費国アメリカには直接行けませんが、インドで加工をしてインド産として流通するので、あんまり効果ないんですね。( ;∀;)

さいごに

いかがでしたか?

キラキラ光るダイヤモンド、しかし、その裏側では、アフリカでの労働搾取や違法”密漁”、さらにはダイヤによる収益でテロや他国への侵攻と・・・

決してクリーンなものではありません。

世の中こんなにつながっているなんて驚きの連続でした。

 

では、また(^^♪