マルチリンガル医師のよもやま話

マルチリンガル医師の世界観で世の中の出来事を綴ります

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『すべて有機農法にします』のリアル

”自然派”という言葉は、作られた化学物質を取らず、体によさそうという印象を与えますね。薬は飲まない、ワクチン打たない、農薬野菜食べない・・・などがこれに当たります。

これ、個人でやる分には『信仰の自由』なので誰にも迷惑を掛けません。

では、もしこれを国が政策でやるとどうなるでしょうか?笑 日本にも参〇党とかいう「小麦粉食べるな」「ワクチン反対」「有機農法!」とする政党がありますが・・・(^^;;

スリランカ

今回の舞台はスリランカです*1

例によって少し予習しておきましょう♪

国の正式名はスリランカ民主社会主義共和国です。名前ややこしいですが基本は資本主義で、一部社会主義のいいところも取り入れましょうってことです。

日本も、資本主義であり、貧富の差をなくそうとする社会主義も交じってますね。

スリ・ランカってどんな国?

首都はスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテと昔習いましたね。

英連邦王国としていましたが、1978年から共和制で大統領が生まれています。

そして、重要なのが、国民の75%近くがシンハラ人という人種で、少数派のタミル人との内乱が長く続いていました。

内戦終了後のスリランカ

さて、2009年に内戦終結に至ったスリランカは、復興需要観光立国として経済急成長します。

ところが、それも長く続きませんでした。大統領と首相の政治的対立や、イスラム過激派によるテロにより政情が一気に不安定化したのです。

さらに、追い打ちをかけたのが新型コロナの流行です。これにより大きな柱『観光業』は壊滅し、経済危機に陥り、2022年ついに国家破産しました。

連続爆破テロが引き金

さて、本題に入ります。

コロナ前の2019年4月、国内の8か所でイスラム過激派による自爆テロが起きました。

この日は復活祭であり、標的に教会も含まれ、キリスト教徒を狙った攻撃と見られています。

自爆テロで観光業壊滅、経済危機に

こういったテロが起こるとその国への渡航客は一気に減ります。観光業が国の大きな収入であったスリランカは急速に困窮していきました。

コロナが追い打ちをかける

新型コロナによる渡航制限でスリランカの観光業は完全に衰退し、国としても立ち行かなくなっていきました。お金が減ると輸入量も減るため生活必需品が出回らなくなり、異常なインフレを招きました。

肥料・農薬輸入禁止

なんとか、国の経済状況を打破しようと、輸入を減らすことを考えます。

そこで、大統領が目を付けたのは輸入に頼っている合成肥料や農薬でした。

肥料・農薬輸入禁止令

もちろん、これには農業の専門家や科学者たちが「無謀すぎる」と警告を出しましたが聞く耳を持たず、押し通しました。

身の回りは“自然派”専門家で固められ、それ以外は排除されます。

大統領は、合成肥料や農薬は人体や環境に悪影響があり、自国のSDGsの考えにも合致しないと主張しました。

「肥料や農薬は体によくない!」

さらには有機農業では、肥料や農薬を使わずとも以前と変わらない農作物の収穫量が確保できる!と科学的根拠なしに主張していました。

収穫量は低下

農薬禁止令でどうなったのか?ま、答えは予想通りですが・・・

自給自足できなくなりコメ輸入

発令後6カ月でコメの収穫が20%減少し、かつては自給自足で賄えていたのに、4億5000万ドル分のコメを輸入することになったのです。

ちなみに、肥料や農薬の輸入額は4億ドルだったので、その方が安かったという。

一番の輸出物・紅茶も減

セイロン茶として有名な、スリランカの紅茶も18%の収穫減となりました。国の最大の輸出物がこれじゃ話になりませんね。

テロ、コロナで観光業がやられ、輸入額を減らそうと肥料・農薬を禁止。ついには農作物の輸出業にも打撃を与え、ついに国家破産となったのでした。

大統領はもちろん国外脱出済み*2

多角的に物を見よう

この出来事から学ぶことは何か。

物事には長所と短所

当たり前ですが、物事には長所と短所があるわけで、その長所が短所を上回ればいいわけです。

物事をゼロか100でしか考えられない人たちはこういった極端な思考に走ってしまいます。

多角的に物を見よう

何か改革を行うときには、1つの視点だけでなく、多角的な視点で物を考えなければ失敗しうるという教訓を示しています。

理想と現実

もちろん、多少でも体や環境に影響がある物質が含まれているならば、使わないに越したことはありません。これは薬剤でも同じことが言えます。

しかし、治療の必要がある場合はメリットがデメリットより大きければ使うわけです。

薬の場合は、副作用が十分に低く、かつ最大の治療効果が得られるようにされています。

農薬の安全性も監視

農薬も年々改良が行われており、環境中や動植物体内で速やかに分解されるものが使用されています*3

化学肥料や農薬なしに全人類に十分な食料を担保することは不可能というのが一般的な見方です。

例えば、農薬なしでは水稲は24%の減収、キャベツは67%の減収、リンゴに至っては97%の減収という日本のデータ*4もあります。

農薬を使わないと・・・

妥協点は薬と同じ、最低限のリスクで最大の収穫を得れるようにすること。それは今現在行われていることなのです。

ラウンドアップの真相

www.multilingual-doctor.com

さいごに

いかがでしたか?

自然のもの以外は拒否という”自然派”は個人の価値観であり、信仰の自由です。

少し高くても有機野菜を買うというのも自由です。

しかし、それを国全体にというのは、少なくとも現時点ではマイナスが大きいわけです。

こういったことをしっかりと判断できる人が国のリーダーになってほしいものです。

では、また(^^♪